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額面通りの神様転生  作者: 白波
第四章 閻魔と女神
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朝を迎えるために

 神界から遠く離れた場所にある閻魔庁。

 そこの最上階にある部屋の灯りは消され、一つのモニターだけが怪しげな光を放っていた。


 そんなモニターの前に座る幼女が一人。


 この閻魔庁のトップである閻魔の座につく彼女は指の爪を噛みながらモニターを見つめていた。

 そこに映っているのは夜の診療所から立ち去る女神と巫女服を着た幼女である。


 急速に関心を失ったような様子で診療所から出ていく女神と戸惑いながらもそれについて行く幼女。会話の内容はわからないながらも、大体の検討はつく。

 大方、私たちが待っている必要はないとかその辺りだろう。


 そんな診療所の風景を見ていて思い出されるのはその少し前の出来事。

 いくら、足元を見ていなかったからといってあんな場所に都合良く石鹸が落ちているわけない。女神が自分を転ばすためにおいたと見て間違いないだろう。


「……あの女神。一度ならず二度もこの私に恥をかかすとは……今度という今度は許しませんよ」


 彼女はそう言いながら机の引き出しから写真立てを取り出す。

 写真の中央に写っているのは三人の少女だ。


 鉢植えのひまわりの花を背景に笑う三人の少女はとても幸せそうだ。

 閻魔はその写真を見ながら、悲しげな表情をうかべ、その写真に手をかざす。


「許さない。許してなるモノですか……あの子のためにも。私は……私は、あの子のためにここにいるのですから」


 閻魔は静かに写真立てを机の引き出しにしまい立ち上がる。

 そして、服をしっかりと整えると、大きなたんこぶを大きな帽子の中に隠し、部屋から出て行った。





 *





 朝。ボクは障子の隙間から漏れる朝日で目を覚ました。

 横にきれいにたたんであった巫女服にそでを通し、着ていた寝巻きをたたむ。

 今日は休日でもう少し寝ていてもいい気もしたのだが、なにせあの女神のことだ。唐突に何かを思い付いてここに押し掛けてくる可能性もある。それに割と心地の良い朝なので二度寝をする気分にはなれなかったということもあるかもしれない。


 ボクは鏡の前に立って巫女服を整える。


 クルリと一回転してみると、当然ながら鏡の中の巫女服を着た幼女も一回転した。


「……なんだか、慣れってやだな……」


 自分でも恐ろしくなるほどのレベルでこの体に適合してきている気がする。

 この世界に来たばかりの時にあれだけ抵抗のあった巫女服も普通に着れるし、女神と一緒に風呂に入るのも最初ほどの抵抗はない。

 たったこれだけの期間でこれほど適応できるというのはいかがなものなのだろうか? だからと言って

、いまさら元に戻るつもりもないし、戻れないのだが……


「レイちゃん。起きていますか?」


 ボクの思考をさえぎるようにして女神が姿を現す。

 彼女はいつも通り真っ白の服に身を包み、慈悲の笑みを浮かべた彼女はボクの横に立った。


「おはようございます」

「おはようございます。レイちゃん。さっそくですが、今日は用があるので少し出かけます。朝食を食べ終えたらすぐに行くので準備をしておいてください」


 彼女はそういうと、部屋から出ていく。

 この神界に来てからもう一つわかったことがある。最初はべたべた引っ付いてくるだなんて思っていた女神であるが、彼女は意外とドライで家にいる間はそこまで会話はない。というよりも、互いに部屋から出ないので会うことが少ない。

 ボクはそそくさと外に出るための準備をすると、荷物を持って朝食が用意されている部屋へと向かう。


 この広大な屋敷には女神とボクのほかに住民はいない。その理由を以前、尋ねたことがあるが明確な回答は得られなかった。

 これだけの屋敷で使用人の一人も雇わずにきれいに保っている女神の手腕には舌を巻くが、ここまで来ると何か裏があるのではないかとすら思えてくる。いや、何もないという方がおかしいだろう。

 長い廊下を歩きながらボクはあごに手を当てる。


 気になると言えば、昨晩の女神の言葉。


 “布石をすべて打った”というのは何に対しての布石なのだろう? 女神も、ボクが状況を理解しきれていないというのは重々承知のようだったが、それがわかるのだったらせめて説明が欲しかった。それとも、事態が急変して説明できなかったのだろうか?

 いずれにしても女神の意図が全く読めない。他人の感情などもともと見えるモノではないが、ここまで考えが読めないというのも珍しいかもしれない。


「はぁどうしたモノかな……というか、今日どこに行くんだろう?」


 まぁせっかくの休みだから、買い物にでも行くのだろうか? はたまた、少し遠出だろうか?

 ボクはそんなことを考えながら食卓のある部屋の扉を開ける。


「レイちゃん。遅いですよ」


 部屋に入ると、すでに朝食が用意されていてシャケの塩焼きと白米、味噌汁が用意されていた。

 ボクはピンクのハート柄の茶碗が置いてある膳の前に座る。


「いただきます」

「はい。召し上がれ」


 そんなやり取りののちにボクは朝食を食べ始める。

 焼き加減が絶妙な塩焼きを食べながら女神の顔をうかがい見る。


 彼女はいつも通りニコニコと笑みを浮かべながら朝食をとっている。


「レイちゃん。どうしましたか? 私の顔をちらちらとみて。何かついていますか?」

「いや、何も……そういえば、今日はどこに行くの?」

「んーそうですね。閻魔さんのところにお見舞いに行って、その後は買い物でもしましょうか。いろいろと足りないモノがありますし。最後は銭湯ですね」


 やっぱり、銭湯は外せないんだと苦笑いを浮かべる。

 でもまぁなんだかこの女神らしい。


「さて、レイちゃん。そんなわけで今日の予定はたくさんあるので食べ終えたらすぐに出ますよ」

「はい」


 そうして、ボクは食事を再開する。

 朝食を終えた後、ボクと女神は軽く身支度を済ませてすぐに家を出た。




 *




 女神の家の前から町へ向かうバスの中。

 その一番後ろの座席に座り、ボクは窓の外の風景を眺めていた。


 どこまでも続く山並みを見ながら小さくため息をつく。


「どうしましたかレイちゃん。あなたは少しため息が多すぎると思いますが?」

「いや、何も……」


 何もないなんてことはない。

 これから閻魔の見舞いに行くというのだが、その行き先というのが椚の診療所ではなく、閻魔が管轄する閻魔庁の本庁舎だというのだ。

 閻魔庁というのは一言でいえば、死者の裁判を行い天国か地獄かを振り分ける。加えて、地獄の管理も仕事のうちだ。


 別に自分が地獄に行くわけではないのだが、あの閻魔にわざわざ会いに行くとなると若干憂鬱だ。

 銭湯での出来事もあって、こっぴどく説教されるのは目に見えている。なのに、女神はそのことを気にするような様子は全く見せない。

 わからない、本当にこの女神の意図はわからない。


 彼女は何を考えて行動しているのだろうか?


 いずれにしても、閻魔に会ってからが大変だろう。あれはわざとやったというのはあまりにも明白すぎる。もっとも、女神本人はそれを認めていないのだが……


「レイちゃん。大丈夫ですよ。閻魔さんはがみがみと口うるさいし、説教くさいですが悪い人ではありません。まぁ説教を長々と聞くのは苦痛であることには間違いありませんけれどね」


 女神はそう言ってボクの頭をなでる。

 まるで昔からあの閻魔と知り合いだったかのような口調だ。いや、実際そうなのかもしれない。


 そうだとすれば、女神と閻魔というのはどのような関係なのだろうか?


「ねぇ女神様はあの閻魔とどんな関係なの?」


 だからこそ、ボクは興味本位からその疑問を口にした。

 しかし、ボクがそれを口にした途端に女神の表情が急速に曇った。


「いえ……えっと、それは……」


 彼女にしては珍しく、歯切れ悪くあちらこちらに視線を動かしながら女神は明らかに動揺したような様子を見せる。

 それを見て、ボクはまた違和感を抱いた。


 ただ単に閻魔との関係を聞いただけなのにだ。


 二人の間には何かがある。ボクの中にあった可能性はある種の核心に変わった。


「私と閻魔さんの関係は……」


 彼女が話し出した時、バスはトンネルに入り間もなく町に到着するというアナウンスが入る。


「私と閻魔さんは古い友人です。それも、かなり昔から……ただ、あることをきっかけにその関係は崩れてしまったのですが……」


 彼女はそう言いながら一枚の写真を取り出した。

 その写真にはひまわりの鉢植えとそれを取り囲むように三人の少女が笑顔でこちらに手を振っている光景が写っていた。

 左端には金髪の幼女、右端には黒髪で“罪”と書かれた帽子をかぶる少女、そしてその間には黒髪の少女がいる。


「……これがその写真ですよ。と言っても、これがみんなそろって撮った……あの子が写っている最初で最後の写真なんですけれども……」


 トンネルの中に入った関係で暗くなった車内で彼女は笑っているような悲しいようなとても難しい表情を浮かべながらボクの方を見る。


 ボクは彼女から渡された写真を何とも複雑な気持ちで見つめていた。

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