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額面通りの神様転生  作者: 白波
第二章 いざ、転生庁へ
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初仕事の疲れを癒すために

 神界の町の一角に建つ天晴湯。

 ボクと女神は転生庁での仕事のあと、その足でこの場所に来たのだ。

 体を軽く流してから湯船につかる。


「レイちゃん。今日一日おつかれさまです」


 女神がボクの頭の上にポンと手を置く。


「ありがとうございます」

「いえいえ、レイちゃんは頑張りました。なかなか大変でしょう? 死んじゃった人たちの未練や悲しみ、思い出……何を話すかなんていうのは死者の自由だけど、聞く方には聞かないという選択肢はないし、聞く内容も選べないことが多い……これからも頑張ってくださいね」

「はい」


 女神の言葉にボクは素直に返事をする。


 確かにこれから転生するであろう人たちの話を聞くというのは楽ではないが、同時に楽しいとも思えてくる。

 最初こそ、女神の説明不足もあって混乱したし、わけがわからなかったけれど、要領さえわかれば後は話を聞くだけだ。今日は四人の転生者と会ったが彼らは皆、何かしらの事情を抱え、それをボクの前で吐き出して新たな世界へと旅立って行った。


 おそらく、新たな世界で生を受けた彼らは自らの中に残ったわずかな記憶を大切にしながら生きてゆくのだろう。


「はぁ……それにしてもいい湯ですねーやっぱり、仕事帰りはここに寄るに限りますよ」


 湯船の中で女神が大きく伸びをする。


 今の時間は客が少ないらしく、今現在この浴場にいるのは女神とボクの二人だけだ。

 前に来たときは、椚がいて閻魔もいたのでなかなか騒がしかったが、今回は二人きりなので静なモノだ。

 そう考えていると、浴場の入口の扉が開いて椚が姿を現した。


「あら、これはこれは女神様。それにレイちゃんも……やっぱり、来ていたんですね」


 彼女はそう言いながら、体を流して湯船につかる。


「まぁここに来るのが一番ですから……」

「そうですね……まぁ唯一の欠点としては閻魔様が来ることぐらいでしょうか?」

「それもそうですよね」


 二人はそんな話をしながらそろって足を伸ばす。


「それにしても、あの閻魔様。背は小さいけれど、態度だけは立派ですよね」

「まぁ女神様ったら、言い過ぎですよ」

「別にいいじゃない。事実なんだから」


 そんな風な会話をしている彼女たちから少し視線をそらし、洗い場の方を見てみるとボクの視界にある人物の姿が飛び込んできた。


「えっと……女神様?」

「どうしたのレイちゃん。あぁやっぱり、レイちゃんもあの閻魔のこと小っちゃかわいいとか思ってるの?」

「いや、そうじゃなくて……その……」

「黙りなさい!」


 ボクが女神にその人物について伝えるより前に鋭い女の子の声が女神の笑い声とボクの声を打ち消した。

 女神が壊れかけたロボットのような動きで声のした方に首を動かすと、その小さな閻魔様が仁王立ちをしていたのだ。


「これはこれは閻魔様。このようなところでお会いするとは奇遇ですね……」

「えぇそうですね。女神様……それで? どこの誰が小っちゃかわいいのでしょうか? ぜひとも私もその話題に交わりたいものです」


 閻魔が一言一言紡いでいくたびに女神の表情が青くなっていく。それに対して、閻魔様は満面の笑みを浮かべて湯船の方へと歩み寄ってくる。ただし、目だけは笑っていないのだが……


「おや、私だけ仲間はずれですか? それとも、何か私の耳に入れたらまずい話題でしょうか?」

「いえ……その……私たちはレイちゃんが小っちゃかわいいという話をですね……ねぇ椚」

「えっ? えぇはい」


 突然、話を振られた椚は一瞬困惑するモノの状況を理解した途端に首がどこかへ吹き飛ぶのではないかというほどの勢いで首を盾に動かし始めた。


「ほう。ただ、私の名前も聞こえたようでしたので……私についてはどんな話を?」

「えっ? いや……その……」


 すべて聞かれていたようだ。


 女神の額を一筋の汗がつたう。

 それは決して風呂が熱いというだけではなく、それは冷や汗だ。


 まるでサウナにでも入っているかのように女神の額に汗が噴き出す。


「……話せないのですか? 聞くところによれば、私が小さい割に態度が出界などと聞こえたような気がしますが……これについての説明はいかようにしてくださるのでしょうか?」

「えっと……それは……その……」


 女神は言葉を選びかねているようで言いよどむ。

 それに対して、余計に腹を立てたのだろうか? 閻魔は小さく息を吐いた後ではっきりと言い放った。


「全員正座!」


 その言葉とともに絶望という名の空気が浴場を支配する。

 しかし、いくらか抵抗したところで無駄になるのは目に見えているので女神もボクも椚もおとなしく浴槽から上がって閻魔の前に正座をする。


「それで? 皆様に申し開きをしてもらいましょうか?」


 閻魔様はいい笑顔を浮かべたまま口を開く。ただし、くどいようだが、彼女の目は笑っていない。


「あ、あのーですね……」


 女神は大量の汗をかきながら視線をそらす。

 いつの間に用意されたのか彼女の体にはバスタオルが巻かれていて、それは椚やボクも同様だ。


「申し開きをはないと? つまり、私が小さいと? それに態度がでかいと?」

「えっと……はい」


 逃げられないと判断したのか、うつむいた女神が事実を認めた。


 それと同時に閻魔様の表情からついに笑顔が消えた。


「ほう? 私が小さいですか……そうですか……随分と失礼なことを言っているのですね。陰口はよくないと思いますよ?」

「はい」


 そして、ついに説教が始まった。

 前回は湯船の中だったが、今回はなぜか一緒に出されてしまったのでタイルの上に正座である。なんというか、足がすでに痛い。それに正座慣れしていないのですでに若干しびれ始めている。


「……ですから、そこに本人がいないといっても壁に耳あり障子見目ありと言いましてですね。誰が聞いているかわからないわけですよ。だというのにあなたは平然と私の悪評を振りまいている。それがどれだけ悪いことかわかっていますか?」

「はい」


 閻魔の説教に女神はすっかりと憔悴しきっている。

 彼女は悪評と言っているがそれは事実を述べただけであると反論したら更なる反感を買うだけというのは目に見えているのでその言葉をぐっと心の奥底にしまいこむ。


「それでですね。そもそも椚。あなたは止めないで話に乗りましたね」

「いえ、一応止めようと……」

「お黙りなさい! 結果的に止まらなければ一緒でしょう!」


 椚の頭上にもついに雷が落ちる。


 それに打たれた椚はほぼ反射的に頭を下げた。


「申し訳ございません」


 実にきれいに土下座が決まった瞬間である。

 彼女としてはできる限り、説教の時間を短縮したいという考えが根底にあるのかもしれない。


 しかし、そのたくらみはあっさりとカンパされる。


「ほう? 私の説教をなるべく避けたいと? そんなことで避けられると思っていたのですか? バカですか? 甘いですね」


 どうやら土下座は無駄らしい。

 椚が説教される横でボクは冷静に分析する。今、何よりも大切なのはいかに説教を受けずにこの時間を過ぎ去らせるかである。


「……であるからしてですね。求心力を持つということも大切なのです。それはたとえ自身より高い身分の人が過ちを犯した時にでも有効なのです」


 あっ椚よりも女神の方が身分上なんだ。まぁ肩書を見ればわかるがこんな形で知りたくなかった。というか、それぞれそれがどのような身分なのかまったくもって理解することはできないが……


「そもそも、あなたはこの女神の太鼓持ちなのですか? そうではないでしょう。あなたは神界の一柱なのですよ。もっと誇りを持ちなさい」


 椚に対する説教は終わる気配を見せない。どうやら、完全にプライドを捨ててしまうということもしてはいけないようだ。

 さてはて、どうしたモノか……


 そんなことを考えている間に閻魔の視線がこちらを向いた。


「あなた、確かレイとか言いましたか?」

「はっはい」


 閻魔はボクの名前を確認するなり、ぐっと顔をこちらに寄せる。


「ところであなた……前から気になっていたのですが……」

「えっと……なんでしょうか?」


 まさか、女神がごまかしたもろもろのことがばれてしまったのだろうか?

 仮にそうだとするとかなりまずい事態だ。具体的に何がまずいのかと聞かれると答えられないがかなりまずい事態である。


 閻魔はしばらく品定めをするようにボクの姿を見つめていたが、突然その手をスッと髪の毛へと伸ばした。


「ちゃんと髪の手入れをしているのですか? せっかくきれいな髪なのにもったいない……あなたはそうですね……もう少し細かい身だしなみを気を付けた方がいいと思います。あなたが普段どのような服を着ているか知りませんが、どうせそこの女神のせいで変な服を着せられているのでしょう? しかし、それに合わせてかどうかは別として髪の手入れや体をしっかりと清めることは個人の服装以前に人類を導く神として重要な役割の一つと言っても過言ではありません」

「……はい」

「まったく……それはともかくとして、人を笑うという行為に対して注意をしないというのはどういうことでしょうか? あなたと女神の関係は知りませんが、たとえ立場が上の相手だとしてもやってはならないことをとがめることは重要です。そもそも……」


 少し違う切り口から入ったから助かったと思ったのだが、結局は女神がチビだの小さいだの小っちゃかわいいだの言ったところに持っていかれてしまっている。

 どうやら、この閻魔は背の高さに相当なコンプレックスを抱いているようだ。


「……でありますから、人のことを陰で笑うなどという行為は許されないことであってですね……聞いていますか?」

「はい」

「まったく、あなたは人の話を聞く態度が鳴っていませんね。そもそも、人の話を聞くという行為は……」


 なんだか知らないけれど、説教の方向がまた変わってしまった。というか、この説教はいつまで続くのだろうか? いつになったら立ち上がることができるのだろうか? 閻魔に気づかれない程度に視線を女神の方に逸らしてみるが、彼女は目が合ったとたんにあさっての方向を向いてしまった。


「人の話をちゃんと聞きなさい!」


 どうやら、閻魔に諭されてしまったらしい。

 結局、その後も説教は続き疲れが取れるどころか余計に溜まってしまった気すらしてくるのだった……

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