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額面通りの神様転生  作者: 白波
第二章 いざ、転生庁へ
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深山かなこを転生させるために

 どこが上でどこが下なのかとにかく真っ白な空間の中で先ほどから女神はあちらへこちらへとせわしく動いている。

 かなことボクはその様子を遠目に見ている格好になるのだが、ハッキリ言って何をやっているのかさっぱりわからない。


 彼女がどこで何をしようと結局は真っ白な空間の中でひたすら動き回っているだけであり、時々懐から携帯電話のようなモノを取り出してどこかに連絡を取るようなそぶりを見せる。


「えぇそれで枠の確認を……」


 おそらく、こちらからは見えないだけで彼女の周りには様々な装置があって動いているのだろう。


 ボクはそんなことを考えながら女神の動きを見ていた。


 その横でかなこはなにやら不安そうな表情を浮かべる。


「あの……何をやっているのでしょうか?」


 彼女に聞かれたボクは小さく首をかしげる。


「さぁ? あなたの転生の準備であることは確かだけど、ボクは今日初めてこの仕事をするから詳しいことは……でも、女神様は真摯に対応してくれるから大丈夫……たぶん」

「たぶんって……そこは言い切ってくださいよ」


 かなこはさらに不安げな表情を見せる。

 しかし、そうは言われても彼女が何をやっているのか理解できない以上……というか、自分自身が神様に転生した時にそのような動きは見せていなかったのでボクにも本当のところは分からないのだ。


 とりあえず、ここで見ていてほしいとのことだからこうしているが、そうでなければボクも女神についてあちら側に行っていたかもしれない。

 彼女の指示があったからこそ、この場にとどまっているのだ。


 おそらく、転生者から見て自分たちの姿がどう見えているのかということを知ってもらいたいとかそのあたりだろう。

 一切の説明がないからわからなかいが、なんだかそんな気がするのだ。


「まぁ女神様は真摯に対応してくれているから大丈夫。安心しなよ」


 だから、ボクはかなこを安心させるように語りかける。


 彼女は不安そうな感じはぬぐいきれないながらもわずかに笑みを浮かべた。

 その後も女神がなにやらやっているという状態は続く。


「……私の話、聞いてもらえますか? ここを出ちゃうと話す機会がなさそうなので……」


 かなこがなんの前触れもなくそんなことをいいだすので思わず目を丸くしてしまったが、彼女とて暇なのかもしれない。

 ボクはその暇潰しに少し付き合おうかというぐらいの気持ちでうたづいた。


「私、この前まで……あえていうなら生前はとても地味な人間立ったんです。友達が多いわけでもないし、成績も運動神経も人並みで特徴と言える特徴はありませんでした。でも、一つだけこれなら誰にも負けないって言い切れるモノがありました」

「負けないモノ?」

「はい。私、手芸だけでは誰にも負けないって言えるほど自身があったんです」


 彼女がそう言ったとたん、周りの風景が無機質な真っ白な空間からどこかの学校の教室へと変貌する。


「えっ? なにこれ?」


 困惑するボクをよそに教室にはたくさんの黒い人影が現れ始めた。


『取り乱さないで、安心してください』


 そんなボクの頭の中に直接響くような形で女神の声が聞こえてくる。


「それってどういう……」

『これは、彼女のイメージがこの空間内に具現化されているだけです。何の害もありませんのでこのまま話を聞いていてください』

「えっと……」

『それから、これは転生のために必要なことと言えなくもないのできっちりと聞いてあげてくださいね』


 その声の直後に電話を切られた時のようにプツッという音が鳴り、女神の声が聴こえなくなる。


 代わりに頭の中に聞こえてくるのは静かに自らの過去を語るかなこの声だ。


『私は中学生の時にやっていた部活がきっかけで手芸をやり始めました』


 恐らく、休憩時間の風景なのだろう。

 黒い影はそれぞれ友だちと話すそぶりを見せたり、教室の中を走り回ったりしている。


 そんな中でかなこは教室の一番端の机で一人裁縫をしていた。


『そんな私に話しかけてくる人は全くいなくて、私はいつも一人で裁縫をやったりフェルトをやったりと休み時間はひたすら手芸に明け暮れていました』


 教室の中のかなこが動き始める。


 教室の外の風景は朝から夕方へ春から夏、秋、冬と変化していくが彼女はひたすら手芸を続けている。


『こんなふうにして一日中、授業の時間もこっそりと手芸を続けて私は徐々にその実力を付けて行きました』


 やがて、外の風景は桜が散る春で固定された。


『そんなある日のことです。クラス替えが終わった直後、私に一人の女の子が声をかけました』


 フェルトで小物を作っているかなこの前にひとつの影か現れる。


『“ねぇ。何を作っているの?”彼女はそういいました。私は“見ればわかるでしょ”とだけ答えました』


 かなこと影が動き始める。


 動きとしては手芸を続けるかなこに一つの影がひたすら話しかけ続けるといったものだ。

 それと同時に窓の外の風景が再びゆっくりと動き始める。


 前とは違い季節は春のまま朝、昼、夕方をひたすら繰り返す。


 女の子がひたすら話しかけるもかなこはひたすら手芸を続ける。


 やがて、かなこの動きがぴたりと止まった。


『“あなた、私のことなんか見ていて面白いの?”ある日、私は彼女にそう聞いたのです』


 かなこが女の子の方を見る。

 影になっているため、よくわからないがその時女の子はかすかに笑みを浮かべているように見えた。


 おそらく、ようやくかなこが口をきいてくれたのがうれしいのだろう。


『“何をって深山さんが何を作っているのか見ているにきまっているじゃない。何を作っているの?”』


 女の子が軽く首をかしげる。


『私は驚きました。これまで私が話しかけてもそんなことを言う人はいなかったからです。いつもは“そんなことして楽しいの?”とか“一人ぼっちで悲しくならない?”とかそんな感じの言葉だった』


 前者はともかく、どうなったら後者の言葉をかけられるんだよ。と思ったが、それは心の奥にしまっておく。


 風景は大きく変わり、教室は一気に明るくなった。


 影だった人影たちはそれぞれの表情がうかがえるほどにはっきりと人の形を取った。


『それから私の世界は変わりました。暗かった世界は明るくなり、手芸だけをする日々は友達と楽しく話しながら手芸をするという日々に変わりました』


 再び世界は一気に動き始める。

 季節はめまぐるしく変わり、一日もあっという間に過ぎていく。


『やがて、一年が経ったある日、運命の時が訪れたのです』


 その言葉とともに風景が教室から屋外へと切り替わる。


 少なくともボクが知っている町ではないが、おそらく、かなこが住んでいた町なのだろう。

 交差点の車通りは少なくないが信号機は設置されていない。


 住宅街の真ん中にあるその交差点はの周りには家の石垣が迫り、視界も決して良くはない。

 そんな交差点の端にかなこと女の子の姿があった。


 遠目のため状況を伺い知るのは難しいが、どうやら言い争いをしているようだ。


『“あなたのことなんてもう知らない”彼女はそう言って駆け出しました。些細な内容のけんかでしたし、明日謝ればいいと思い私は家に向かいました。しかし、彼女と二度と会うことはありませんでした』


 どこかへ向けて走っていく女の子の背中を見送りつつかなこは別の方向へと歩き出す。


『あの日、彼女にちゃんと謝っておけばよかった。そう後悔しても遅すぎました』


 交差点の風景が消えて、元の真っ白な空間に戻る。


「その後、私は暴走運転のトラックにはねれてて、気が付いたらここに……ってなんで、私こんなことを長々と話していたのかしら?」


 風景が戻ると同時にボクの目の前に姿を現したかなこは困惑するようにあたりを見回す動作をする。


 かなこはその答えを求めるようにボクの方を見るが、ボクもわからないという意思を込めて首を横に振る。

 女神の方に目を向けてみると、彼女はまるで女神のような笑みを浮かべてこちらへと歩いてきた。


「……深山かなこさん。ありがとうございます。あなたの心の奥底に残っていた未練、そして次なる世界へ引き継ぐ記憶の整理が終わりました」


 女神が言っている意味が理解できずにかなこもボクも目を点にしている。しかし、二人の様子など気にする様子もなく女神はかなこの眼前に黒い手のひら大のプレートを出した。


「さて、深山かなこ。あなたは転生のための準備を終えました。あとはあなたが望む容姿の概要と行きたい世界の概要を念じながらこれに触れてください」


 女神はそう言って、柔らかい笑みを浮かべる。


 あとはかなこ次第ということなのだろう。


「女神様。一つ聞いてもいいですか?」

「ひとつだけならどうぞ」

「これに触れたら私は必要なこと以外はすべて忘れるってことですく?」


 かなこの質問に女神は真剣な顔でうなづく。


「……全部、忘れないといけないってことですよね」

「そうなるな」

「私が忘れてもみんなは覚えていてくれるでしょうか?」

「それはあなたと相手の関係によるんじゃないか?」


 女神はそう言ったあとにかなこの頭の上に手を置いた。


「大丈夫ですよ。大丈夫。あなたの家族もあなたの友達もきっと、いえ、絶対に忘れませんよ。私が保証します」


 女神がそういうと、かなこは少しばかり迷うような動作を見せてから黒いプレートに手を当てた。


「……女神様。あの子がここに来るようなことがあったら、私の話もしてくださいね」

「えぇ、私が忘れなかったらそうしてあげるわ」


 この言葉で女神もかなこも笑みを浮かべる。


 彼女が目をつぶると、この空間全体が二、三回真っ白な光に包まれ、その後に少しずつかなこの体が光の粒子となって足元から消滅していく。


「ありがとうございました。女神様」

「えぇ。新しい世界でも頑張って頂戴。まぁ私のことなんて覚えていないと思うけれど……」


 そんな会話を最後にこの空間から深山かなこの姿が消滅する。


 それを確認すると、女神は大きく息を吐いた。


「とりあえず、今回はスムーズに行けたわね……」


 彼女はゆっくりとボクの方に向き直り、口を開いた。


「……とまぁ見てもらったのがこの仕事の簡単な流れ……もっとも、転生者候補自身が何かを語る必要はないんだけど、その方がことが早く運ぶことが多いのよ。だから、あなたには助手として転生者候補から話を引き出す役割をしてほしいの」

「あぁなるほど……そういうことか……」


 そこまで話を聞いて、ようやく自分がこの場に助手としている意味というのを理解することができた。

 事前説明がなかったことは納得がいかないが、仕事内容としては重要だということを理解できる。


 女神は笑顔を引っ込めて神妙そうな表情でボクの目を射る。


「さて、これからレイちゃんにはこのような形で様々な人と接してもらうことになります。中にはあまりよくない考えを持つ人もいるでしょう。その覚悟をもって臨んでください」


 その雰囲気に押されるようにコクコクとうなづくと、女神は再び柔らかい笑みを浮かべた。


「それでは次の転生者候補をここに招きましょうか」


 彼女の言葉に反応するように再びたくさんの名前が表示されている画面が表示され、新たな転生者候補探しが始まった。

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