表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男たちの日曜日  作者: 中島 遼
6/42

scenario#1 2

 「何か、家というよりは山小屋ね」

 近づくにつれて建物がはっきりと見えてきた。一番手前にあるのは萌の言う通り、まさにログハウスだ。

 「何だろう、これ?」

 小屋の前には見たことのない文字が書かれている。だが高津には何故かその意味がわかった。

 「お助け魔法使い?」

  意味はわかるが中身はわからない。彼は萌と夕貴を見つめた。

  すると二人は同時に彼に頷きを返す。どうやら彼らもその文字が読めるようだ。

 「よし」

  高津はドアをノックし、二人を庇うようにしてそれを開けた。

 「いらっしゃい」

  と、そこには年取った男がどっかりと椅子に座っていた。

 「あの……」

  言いかけて高津は慄然となる。男は良く見ると、耳が肩の辺りまで垂れており、皮膚の色もくすんだ黄緑だったのだ。

 「何かお困りですかな。もし、わからないことがあれば、ユーザーIDをご提示ください。出来る限りのお手伝いをさせていただきます。」

  男はほとんど両頬が裂けるほど大きな一文字の口を開けた。

  「ユーザーIDって?」

  恐る恐る萌が尋ねる。

  「それはこちらで自動的に読み取ります。右手を貸しなさい」

  すると萌は不用心にも、すっと男に向かって手を差し出した。

  「……貴方は正規ユーザーではありませんね? 不正に使用されている場合には私の機能はストップします」

 「何を言ってる?」

 だが、その後は何を言おうが魔法使いは何も答えない。試しに夕貴を前に出したが、一連の流れの後、機能がストップ(?)するのは同様だった。

 「……ふう」

  仕方なしに彼らはその家を後にした。

  「何だったんだ、今のは?」

  しかし、文句を言いかけた高津は絶句した。少し離れた位置に立っている家の中から、すっと煙のようなものが出てきたのだ。

  そして、それは見る間に人の形に変化する。

  「な、何だ、お前は!」

  萌が声も上げずに口だけをぽかんと開けたのを見て、彼のパニックは少し収まった。

  「ここの住人だよ、いけないかね?」

  「いけなくはないけど、何か怪しいよ」

  しかし、高津の言葉を気にも留めず、煙は心配そうな声で尋ねた。

  「あんたらはどうしてここにいるのかね?」

  「わからないんだ。気がついたら変な森にいて、そこの白い穴に落ちたらここに立ってたんだ」

  「それは不思議な話だな。昔話にそういうのがあるが」

  人の形をした煙は首をかしげた。

  「……それぞれの球をおびし者達は、暗き森にて彷徨さまよいこの世に現る。伝説の白き剣は、闇が二つに割れしときのみ、闇と融合して灰になり、そしてそのとき彼らは再び還る」

  「……はあ」

  「もちろん昔話だよ。だが、あんたらは変わっている。ここらじゃ見かけないタイプだね」

  「……はあ」

  俺はどこか打ち所が悪くて、きっと夢でも見ているんだ……と高津は思おうとした。

  だが、つい最近にも気味の悪い異星人に会っていた彼は、必ずしもこれが現実でないと言い切る自信も持てない。

  「まあ、立ち話も何だから家に入らないか? ばあさんの手料理は大勢で食べた方がうまいんだ」

  他に選択肢もなかったので、三人は親切な煙の家の中に入った。

  「まあまあ、お客さんとは珍しいわ。すぐにお食事を用意しましょうね」

  ばあさんというには煙そのものだったが、とにかく彼らはテーブルについた。

  「まあ、おいしそう!」

  萌が目を輝かして、目の前に並べられたミートパイやフルーツサラダを見た。

  煙が作ったにしては、ヒトの食べ物に類似している。

  「おいしい……」

  一口食べたが本当に美味い。彼らはしばらくの間、黙々と食べ続けた。

  「……で、あんたらはどこへ行こうと思っているんだね?」

  一息ついた頃、ばあさんが萌に尋ねた。

  「できれば家に帰りたいんだけど、どっちへ行っていいのかわからないのよ」

  言った途端に萌は哀しそうな顔をした。慌ててじいさんが慰める。

  「大丈夫だ、来たものなら必ず戻れる。どれ、地図をもってきてやるから少し待っていろ」

  しかし想像通り、彼の持ってきた地図には見たこともない地名や、地形が載っている。

  「……ここ、どこ?」

  萌が眉間にしわをよせると、じいさんが棒のような手を伸ばして一点を指さす。

  「ここが現在地じゃ」

  「そうじゃなくって、ここは一体どこなのよ!」

  「……すまんな、わしではどうやら力になれんようだ。だが、この先を北へ進んだところに大きな町があり、そこには何でも知っている優秀な占い師が住んでいるとのことだ。彼に今の状況を尋ねてみるといいだろう」

  なんだか、最近やった安物のロールプレイングゲームのようだと高津は思った。

  「ねえ、この地図を何かに書き写していい?」

  「いいよ、持って行け。どうせわしらがここから動くことはないんだから」

  煙はほっほと笑った。

  「そうだ、ばあさん、あの薬、まだあったかね?」

  彼女は頷いて立ち上がり、戸棚から巾着を出した。中には乾いた木の葉のようなものが入っている。

  「薬草を持って行きなさい。これはどんな怪我でもたちどころに効くから」

  ばあさんはさっきのミートパイの残りをタッパにつめたものも一緒に高津に差し出した。

  「動けなくなったら、これを食べれば回復するよ」

  じいさんが煙の割には重々しく頷いた。

  「気をつけてな。それから、魔物には充分注意するんだ。相手の方が強いと思ったら、すぐに逃げた方が体力を消耗しなくて済む。ただ、必ずしもうまく逃げられるとは限らんから、一番運の良い人間を先頭にするのも手段ではある。だが、逃げてばかりだといつまで経っても強くなれないし、お金も入らない」

  「お金……って?」

  「ああ、魔物を倒すと魔物の身体のあった処に宝石が現れる。それを集めて道具屋で売れば、金に換えてくれるよ」

  「おじいさん、そんなわかりきったことを言ってないで、早くお見送りをしましょう。この方たちも早く旅に出たいだろうし」

  「え、いや、その……」

  今度はまるで追い出されるように家から出された三人は、仕方なしに北へと向かった。

  煙の言っていた占い師というのがなんなのかはわからないが、それに頼るしか今は方法がない。

  (くよくよしたって仕方ないし……)

  とにかく前に進むしかない。かつて彼らはそうやって勝利を勝ち取ったのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ