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男たちの日曜日  作者: 中島 遼
37/42

scenario#9 2

(……っ!)

 軽い浮遊感と、それに相反する強い衝撃が彼の周囲を包む。

 だが予想したような痛みは彼を襲わなかった。

「……?」

 恐る恐る目を開く。自分はどうやらしっかり生きていた。

「あれ?」

 そして次に、側に誰もいないことに気がついて愕然とする。

「ここはどこだ?」

 目をこらすと、遠くに白い光が見える。そこから何か悲鳴のような音や声が聞こえた。

 どうやらさっき彼らが光を見つけた地点まで、高津は一人で戻ってきてしまったようだ。

「な、何でこんなところにっ!」

 高津は慌てて戦闘地点まで駆けた。

 遠く、青い二つの光が必死で戦っているのが見える。

(……ということは、夕貴は)

 不吉な想像を頭から振り払い、彼は精神を敵に集中した。さっきは赤くないと思っていた辺りに、何か得体の知れないものがとぐろを巻いているのが見える。

 高津はメイスを握り直した。そして心をさらに研ぎ澄ませる。

 すると大きな塊に見えていた敵がどんどん小さくなり、ほんの拳程度の大きさに変わる。

 それはまるでどす黒い血を送り出す心臓のように見えた。

 と、萌の方に向かって、その赤黒い塊がペッと何かを吐き出した。

「あっ!」

 萌は反射的に避けたが、下にあった石につまづき転んでしまう。

「萌っ!」

 高津は怒鳴り、彼女の前にうっすらとした心のカーテンを貼る。

「え?」

 彼は自分で自分がやったことが何なのかわからなかったが、敵が萌を見失ったところを見ると、どうやら萌の気配を一時的に彼が消しているようだった。

(今だっ!)

 彼は自分と萌の気配を消したまま、怪物の方に走った。

 萌もようやく起きあがり、高津とともに敵を攻撃する。

「萌、違うっ!」

 てんで見当違いの所に剣を突き立てている彼女に向かって、高津は声を限りに叫んだ。

「奴はこっちだ!」

 手に握るメイスがまた鈍い青さを取り戻した。そしてそれは徐々にその光を増大させる。

 そしてそれがピークに達しようとするとき、高津は魔物の心臓目がけてメイスを投げつけた。

「くそっ!」

 だがそれは魔物の瘴気しょうきによって途中で失速し、そこに到達するまでに下に落ちる。

「そこねっ!」

 しかし萌はきっちりと高津に反応した。彼女は跳躍して、メイスが狙っていた敵の急所に透明な剣を突き刺し、さらにその位置にサイコレイを見舞う。

 闇は大きな悲鳴を上げ、地面に大量の粒となって落ちる。

「あ……」

 急に明るくなったので、高津は腕で目を庇った。

(……終わったか)

 しかし、目が慣れてきた時、天井の穴から差し込む光の輪の中に、仰向けに倒れた夕貴の姿が映り、彼は茫然と立ちつくした。

「な、何故……」

 がっくりと膝をつく。

「う、嘘だ……」

 みどりんも萌の隣に座り、悲鳴のようにも聞こえる音を出した。

 高津は首を振る。幾度となく危ない目にあってきた。だが、そのたびに彼らはそれを乗り越えてきたのではないか?

「夕貴……」

 萌が夕貴に取りすがった。その顔を見やってみどりんが触手を振る。

「何泣いてんだよ、こら! 夕貴が死ぬわけないんだから、泣くなっ!」

 高津も立ち上がり、足を引きずるようにして遺体の側まで歩む。

「俺のせいだ」

 彼があの時、敵に気づかなかったのが原因だった。そしてそれだけではない。高津は彼の本意でなかったにしろ、一時的に戦線を離脱していたずらに戦闘時間を増やしてしまった。

(俺が臆病だったから……)

 もちろん、あのときあそこに踏みとどまっていたら、ここには二つの死体が並んでいただろう。

 それでも彼は逃げた自分を卑怯だと思った。

「……夕貴」

 萌がふと自分の頭に手をやり、被っていた帽子を取った。そしてそれを赤く染まった夕貴の胸の上にそっと置く。

「ごめん」

 高津の目からも涙が溢れた。それは幾筋も頬を伝って流れ、あごからしたたり落ちる。

「……あれ?」

 と、みどりんがこの場に相応しくない素っ頓狂な声を出した。

 だが萌も高津も彼に構う余裕などあるはずもなく、ただ黙って泣き崩れている。

「夕貴」

 みどりんの声があっけらかんと響いた。

「生きてるんじゃないか?」

「え?」

 二人は同時に夕貴を見つめた。

 すると、確かに青ざめていた夕貴の頬には幾分赤みがさしている。そしてその気配も微かに青い……

「おい、水だ!」

 みどりんが触手を伸ばし、ひったくるようにして萌の水筒を取り上げて夕貴の口に当てた。

 〈う……〉

 夕貴が身じろぎした。すると、その途端に彼女の身体に乗っていた帽子が融けるように消えたのだ。

「奇跡だわっ!」

 目を開けて起きあがり周りを見回す夕貴を萌が抱きしめながら、再び泣きだした。

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