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男たちの日曜日  作者: 中島 遼
27/42

real#6

「……おやおや、こんなところがループしてやがる」

 ゲーマーが振り出しに戻ったのを見て、村山は思わず呟く。

 だがこれは色んな意味で僥倖ぎょうこうである。

 彼はバイパス作りに精を出していたが、どうもこのまま行くと完成より先に彼らがその場所を通過してしまいそうな雲行きだったのだ。

(これで時間稼ぎができる)

 レベル上げのアイテムをまだ作っていなかったこともあり、彼はほっと息をついた。

 とりあえず、これから何度か立ち寄るであろう道具屋にそのアイテムを置いておけば、彼らもそのうちに気づいて購入してくれるだろうと村山は踏んだ。

(問題は圭介だな。あいつ疑り深いから、あんまり安く売ってたら不気味がって買わないかもしれない)

 高津はたくましい女性陣と比べて、精神の造りが少し繊細である。それだけに村山から見れば一番可愛いとも言えるのだが、その分神経を使わねばならない。

 もっとも他のメンバーに比べると、行動が読みやすいので対策を立てるのは楽だ。

 それに、彼らが全滅することなくスムーズにシナリオを進んでいるのは、間違いなく高津のお陰だということを村山もわかっている。

(……そうだ)

 彼は機械から手を離さずに、意識だけを外界に向けた。

「暁、ちょっといいかな?」

「うん、何?」

「夕貴と今、連絡を取れるかい?」

「スイッチは入っているみたい。いけるよ」

 スイッチが入っているという状態をテレパスでない者に説明するのは難しいが、簡単に言えば、相手方に受信の準備ができている時がスイッチオン状態、できていないときがオフ状態と考えればいい。

 つまりテレパシーも無線電話と一緒で通じにくい場所もある。そして受け手に取る気がなければベルだけが鳴りっぱなしということもあるのだ。

 事実、かつて暁が一所懸命に呼びかけたにもかかわらず、村山がそれを受信し得なかったことが何度かある。

 場所で言うと、聞こえにくいのは血管造影の検査室。

 場面で言うと、色々あって全員がひどくピリピリしているような手術中など。

 門脈に漏洩を発見した第一助手の彼がその損傷部を修繕していた時などは完全にオフ状態で、全く声は聞こえなかった。

 逆に、今朝みたいに家でのんびりとリラックスをしているときに暁の声を聞き逃すことはない。

「そうか、じゃあ夕貴に一つ伝えてくれ」

「いいけど、あんまり難しいことは無理だから」

 少し前にも村山は暁を通して夕貴とコンタクトを試み、お助け魔法使いの家に誘導しようとして失敗している。

 ひょっとしたら夕貴は何となくわかってくれたかもしれないとも思うが、それを他の二人に伝えることはできていない。

 手話の語彙もまだ少なく、仕方ないとは思う。

「道具屋にチョコレートが売ってるから、絶対に買って食べるようにって。そう伝えてくれるかな?」

「それっておいしいの?」

 村山はしばし天井を見つめた。

「……味は自信がないな。でも、俺が一所懸命作ったからって頼んでみてくれよ」

「……わかった」

 暁は少し悔しそうな顔で村山を見た。

「先生が一所懸命作ったなんて言ったら、どんなに不味くったって夕貴は食べると思う」

 村山はその暁の表情の意味するところが何なのかわからず、とりあえず微笑んだ。

「それは嬉しいな」

 事実、夕貴が喜んで食べているところを想像すると、村山の疲れてささくれ立った神経は少し和らぐ。

 夕貴はそこにいるだけで、周りの人間を癒した。

 夢の中でもずっと彼女は村山の苛立ちを鎮めてくれたのだ……

(待ってろ、絶対に助けてやる)

 と、暁の声が頭に響く。

〈……うん、チョコレート〉

 村山宛のテレパシーではないが、彼にも聞かせようと言う暁の配慮か。

〈おじさんが作ったんだ。……そう村山先生。だから買って食べて欲しいんだ。うん、圭兄ちゃんたちにも言ってよ。……え? 財布を握ってるのは萌姉ちゃん? だったら萌姉ちゃんだけでもいいや〉

 村山は少し微笑む。

(……暁は偉いな)

 思えば彼は緑のお化け退治のときも調整役を頑張っていた。

 この年頃の男の子には難しい役割なのに、文句一つ言わずにこなしている。

(……そうだな、助けるとか守るというのは少し違うかもしれない)

 彼らの関係は同じ道を歩いて行きながら、障害があったときにそれぞれの得意技を供出しながら全員が前進するというものだ。

(頑張れ。俺も一緒に戦うから)

 村山は暁が夕貴と交信しているのをちらりと見てから、再び作業に没頭するべく心の底に沈んでいった。

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