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男たちの日曜日  作者: 中島 遼
18/42

scenario#4 1

 高津たちは青の洞窟にいた。

 城の中で情報収集したところによると、この洞窟に潜む魔物は穴のどこかにある瑠璃色の石を開放しない限り、通常攻撃ではダメージを受けないという。

「通常攻撃では死なないっていうけど、異常な攻撃って何なのかしら」

 萌が素朴な疑問を口にした。

「多分、マジックポイントを使うような攻撃のことだよ」

「マジックポイント?」

「……いや、ごめん、聞き流して」

 君の光弾のような力だと言いかけて高津は黙った。また萌に負担をかけてしまうことを恐れたのだ。

 それでなくても夕貴や萌が戦闘に参加するようになって、高津の株は急落している。

 信じられないことだが萌は強いのだ。

 過去、夢の中で戦ったときは運動音痴のように見えたが、目が悪いのに補正していないことに村山が気づき、コンタクトレンズを入れるようにしてからは無様に転けることもなくなった。

 いや、むしろ反射神経は飛躍的に増大していると言っても過言ではない。

 もちろん剣の威力によるところは大きいだろうが、それでも高津のプライドはがたがたである。

 彼自身も、敵意を持つ魔物の存在があらかじめわかるという特技があった。なんとなく赤いと思ったら、必ず近くに敵がいる。

 しかし、正直その能力はあまりに地味だ。

 高津が思うに、パーティを引っ張る資質というのは、そういう縁の下の力持ち的な能力ではないはずである。

 もっとカリスマ的な何か……超人的な強さとか、神秘的な力とか、あるいはばつぐんに明晰な頭脳とか……

 高津は溜息をつく。

(……やっぱり村山さんがいないと駄目だ)

 彼になら負けても仕方がないと思う。年齢も上だし、感嘆するほど分析力もあり、先を見通す力もある。

 そして、それ以外のことについても、最初から勝ち目がないと諦めるほど良くできた大人だった。

(……俺が勝ってるのって、背がちょっとばかし高いってことぐらいだし)

 だが、萌や夕貴となると話は違う。特に萌は同級生でもあり、片思いの相手でもある。

 そんな相手に良いところを見せられないなんて、あまりにも惨めではないか。

「……ん?」

 と、高津は萌と夕貴を止めた。何か嫌な予感がする。

「何かいるの?」

「ああ、ひどく赤い。今までとは段違いだ。引き返した方がいいかもしれない」

「でも、洞窟は一通り歩いたよ? きっと戻っても瑠璃色の石なんて見つからないって」

「多分、探し方が悪いんだと思うよ」

 萌は水筒から水を出して喉を潤した。

「でも、せっかくここまで来たんだし、とりあえず入るだけ入ってみようよ。運の良いあたしが先頭になれば逃げ出せる訳だし」

「あ、ちょっと」

 強い敵は逃げることが難しい……そう高津が言う前に萌は洞窟の角を曲がってしまった。

「わっ!」

 そして、案の定、そこには青く巨大な魔物が待っていた。顔は暗くてよくわからないが、ムカデのような身体に人の手足に似たものが六本ばかりついている。

「何しに来た?」

「何しにって言われても……」

 萌が真面目に答えると、怪物は下品な笑い声を上げた。

「この俺様を倒そうなどとは四十六年早いわ。この青の洞窟で死んだ他の者どもと一緒に、死して青き火の玉となって永久に彷徨うがいい!」

「危ないっ!」

 咆哮を上げ、怪物が頭から何か液体を出した。咄嗟に高津は萌を突き飛ばす。

 振り返ると彼らがいた場所には、えぐれた黒い穴が見えた。

 夕貴が指のリングを怪物に向ける。すると彼女の手から明るい光が飛び、怪物の二つめの足に当たった。

「いきなり何するのよ、この礼儀知らずっ!」

 萌も起きあがり、背負った剣を抜いて怪物に斬りつけた。負けじと高津も木製の槍を相手に突き立てる。

「ぎゃははは、俺様にはそんなもの通用せん。さあ、死ねっ!」

 青い魔物はその首を回した。すると風が刃物のように三人の身体に傷を残す。

「くっ!」

 そうなると防戦一方になった。魔物は笑い、まるでなぶり殺しを楽しむようにじわじわと彼らに攻撃を仕掛ける。

(……駄目だ、このままでは)

 吹き飛ばされ、壁に当たった萌の側に夕貴が走った。そして彼女を治療する。そこへまた真空波。

「危ないっ!」

 高津は思わず彼らを庇う。と、背に鋭い痛みが走った。

「あうっ」

 高津は倒れながら萌の手を掴んだ。

「奴は魔法攻撃に弱い」

「え?」

「光線技だっ、それを使ってくれっ!」

「わかったっ!」

 萌は声を上げ、そして剣を大地に刺して起きあがると、両手を怪物に向かって突き出す。

「このおおおっ!」

 めくるめく閃光が洞窟の内部に満ちる。

「ぎょわわああああ!」

 それは青い壁に反射し、さらに眩しい光となって返ってきた。

「ば、ばかな……その技はレベル四十五の……しかもそれはお前の職業では使えぬはず。……貴様、卑怯だぞ、そんな裏技をどこで…………ぐえ」

 魔物はすっと消えた。そして後にはひときわ煌めく石ころが落ちている。

「……ああ」

 ふと背中に温かい力を感じて高津は目を閉じた。夕貴が治療してくれているのだ。

 そしてそれは今まで以上に深く強く、彼の傷を癒した。

「夕貴、俺はもういい。それより萌を」

 萌は力を放出したあといつもそうであるように、ぺたんと座り込んで動かない。

 〈ごめんなさい。萌姉ちゃんには効かないの〉

 夕貴が申し訳なさそうに首を振る。萌のこの疲労だけは夕貴ですら治せないらしい。

「ごめんね、あたしいつも圭ちゃんに迷惑をかけて。言うとおりにしてここに入らなきゃよかった」

「何言ってるんだ、怪物は死んだし、君が申し訳なく思う必要なんて全然ない」

 しかし言いながらも、高津は怪物が最後に言い残した言葉に相当な引っかかりを残していた。

(レベル四十五の技?)

 それってやっぱり……

 〈ねえ。圭兄ちゃん、あれなあに?〉

 夕貴の指さす方向を見ると、怪物のせいで今まで見えなかった洞窟の突き当たりに、何やら青いレバーが見える。

「何だろうね」

 高津はそこに近づき、レバーを動かした。

 すると予想通りにきいっという音がして、壁に隠し扉が現れる。

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