scenario#3 3
「……ひょっとして」
店を出てから、しばらく掘沿いに歩いていた高津は立ち止まる。
「ねえ、萌、君はロールプレイングゲームってやったことある?」
「ううん、ゲームはアクション系かスポーツ系を友達の家で、たまにやるくらいだったかな。ほら、あの、ぽんぽん跳んでキノコを採るやつとか、自分の似顔絵のキャラがテニスやスキーをやるやつとか」
「……そっか」
では彼が今感じている奇妙な感覚については理解してもらえないだろう。
(何か、悪意のあるものに遊ばれているような……)
いや、そうに違いない。このシチュエーションは明らかに人が頭で考え出したものだ。
そして、彼らはそいつらのゲームの駒として使われている。
(ただ異次元に飛ばされただけじゃない。そこには誰かの意志が働いている。それも、遊び半分の……)
以前彼が見た予知夢は、内容こそ強烈だったがそこには包み隠さない真実があった。
しかし今回のものは状況は甘いが完全にふざけている。そこに彼は胡散臭さを感じたのだ。
(くそっ!)
高津は拳を握った。それが誰なのかはわからないだけに、込み上げた怒りのやり場がない。
「そう言えば、ノイミツン……何とかさんって言う人、探さなきゃね」
〈うん、お約束したものね〉
しかし彼の思惑とは裏腹に、単純な女たちはどうやらやる気満々だった。
彼の心に湧いた疑念など、口に出しても信じてもらえないだろう。
(それに)
本当に敵が遊び半分なら、これは挑戦なのだ。ゲームをクリアすれば元の世界に帰れる可能性もある……
「おお、そのペンダントをどこで手に入れたのだ?」
突然の大声に高津が驚いて振り向くと、そこには豪華な衣装をまとったひょうたん型の岩が立っていた。
「余が持っているものとそっくり同じだ」
呆然と立ちすくむ三人を他所に、岩は自分が持っていたペンダントを見せる。
それは、琥珀色であるということ以外には、夕貴が持っているものと全く同じである。
「まさか、お前たちはノイミ・ツンチ・ニカニの知り合いなのか?」
「知り合いって訳じゃないけど、事情があってその人を捜しているんです」
萌が言うと、岩は驚き、そして悲しんだ。
「彼は五年前に魔物に捕らわれて青の洞窟に連れて行かれて以来、行方が知れぬ。彼は余の師であり、大切な友人でもあった。ああ、誰か彼を救おうという勇敢な者は現れないだろうか」
まずい展開だと高津は思う。少し後ずさりしながら逃げる算段を考えたが……
「青の洞窟って?」
その前に萌が不用意に言葉を発してしまった。
「おおっ、行ってくれるのか? 今まであの洞窟に入って生きて出てきた者が皆無だというのに! おお、そうか、余はお前たちのような勇気ある生物がこの世界にいるとわかって嬉しいぞ。ちなみに洞窟はここから南西に五キロほど行ったところにある」
岩は喜びを露わにし、目を白黒とさせる萌に向かって畳みかけるような口調でまくしたてる。
「あの……」
「そうだ、余のペンダントをそなたに授けよう」
「え? いいの?」
彼は萌の首にそれをかけた。
「これはお前の身を守る働き以外に、城に自由に入るための手形となる。余が城の者によく言っておこう」
「ってことは、貴方は王様?」
「よくわかったな。賢いお嬢さんだ」
〈すごーい、ほんとうの王様、夕貴、初めて見た〉
彼は高笑いをした。
「お主たちならノイミ・ツンチを無事救出してくれるかもしれない。そうだ、青の洞窟に行く前に、一度城で色々な人の話を聞いた方がいいかもしれない」
岩は手を振った。
「それではまた会おう。ノイミ・ツンチを救い出したら共に余の前に来るがいい」
「お、おい、ちょっと待って……」
王様は道をスキーで滑るような速さで去っていく。
後にはペンダントを嬉しそうに見ている萌と、状況を楽しんでいるとしか思えない夕貴、そして途方に暮れた高津だけが残された。




