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男たちの日曜日  作者: 中島 遼
15/42

scenario#3 2

 彼らはまず道具屋を探し、そこで換金をする。

「綺麗な町ね」

 道具屋も今までに比べて数段立派で都会的だった。

「ね、見てよ、これ」

 隣にある瀟洒な建物を萌が指さした。見るとお助け魔法使いの看板がある。

「ちょっと覗いてみようか?」

「ちょっとだけ、ね?」

 だが入ってみると、例のログハウスで見たのと同じ顔の魔法使いが座っていた。

「何かお困りですかな。もし、わからないことがあれば、ユーザーIDをご提示ください。出来る限りのお手伝いをさせていただきます」

 彼らは何も言わずに戸を閉めた。

「大きいな、この町は」

 と言っても、彼らが地球で住んでいた町の方が遥かに大きいのだが、この世界では五キロ四方ほどあるような町は大都市に分類される。

「お城があるからには、王様もいるのよね」

「城跡かもしれないけど」

 しかし高津の予知能力から来る勘は、ここに王様がいるだろうことを疑わなかった。

(……いや)

 予知ではないかもしれない。何故かこの世界は、かつて彼が経験したことのある何かのパターンによく似ている。

〈わあ、お花が踊ってる!〉

 夕貴が言うのでそちらを見ると、人面を持つ朝顔に似た花が、長く青い舌を出しながらふわふわと歩いているのが目に入った。

 平和な風景だったが、高津には他に考えることがあった。

「ね、武器屋に行ってもいいかな?」

〈いいよ〉

 萌も頷く。

「でもね、チェックインしておいた方がいいんじゃないかな。部屋がないなんて言われたら嫌だな」

 さっきと同じ理由でそれはないと高津は思う。

 だが体力の回復は確かに優先的に行うべきかもしれない。いつ、いかなるイベントが強制的に発生しないとも限らないのだから。

「そうだな。そうしよう」

 彼らは宿屋に行き、前金で四千五百円を払う。

「まだ夕食まで時間があるから、散歩してきます」

 イベントの発生はなさそうだと見て、高津は二人を連れて涼しい風の吹く大通りに出た。

(……よし、剣が買える)

 高津は武器にこだわっていた。しかし彼の立場からすると仕方のない事なのだ。

 さっき会ったキマイラなどは、槍で一度突いたぐらいでは死なない。何かもっと強い武器が欲しいと思うのは必然だ。

「楽しみだね、圭ちゃん。どんなの売ってるかな」

 武器屋の看板を見上げた高津に、萌が微笑む。

 多分、彼の気持ちをわかっているのだろう。

「とりあえず、今は見るだけにしておくよ。武器屋はここ一軒とは限らないし」

 ドアの側に店の主人が立っていたので、彼は驚いて一歩下がった。武器屋は身長が二メートル近くの扇風機と言った風貌である。

「武器の店はここだけだ。防具の店はこの隣だ」

「それはどうも」

 高津は店内を見回した。思った通り、ブロンズ色の剣は前の町と同じ値段で売られている。ただ、武器はそれ以外にもブドウ色の剣や、赤に黒いぶちのついたメイスなどがあり、一目でそちらの方が良い品物とわかった。

(……でも、それを買うにはお金が足りない)

 彼はひとまずそこを出て、防具屋に入ってショーウインドウを物色した。

(……よし、剣を一振りと防御用スプレーのBを一本、それに萌の護身用にナイフを一本。あとは道具屋で買えるだけ薬草を買って……)

 素早く頭で計算をする。

「済みません、この子にBスプレーを」

 今度は萌が何も言わなかったので、すんなりと商品は使用された。そして再び彼らは武器屋に戻る。

「ブロンズ色の剣が欲しいんだけど」

「お買いあげありがとう、ここで装備するかい?」

「うん」

「誰が装備するかい?」

(……そうか、槍を売れば、隣で帽子くらい買えるかも)

 そんなことを考えながら、高津は主人に自分が装備する旨を伝えた。

 だが、

「残念だが、君はこの武器を装備できないよ」

「え?」

 高津は扇風機のプロペラにあたる部分を見つめた。

「何でさ?」

「君の職業では剣の装備ができないからさ」

「俺の職業? 高校生は駄目ってこと?」

「そう言うわけではないんだが、誰か他に装備するかい?」

 ふっと萌が好奇心を露わにして剣を見つめる。

「君が装備するかい?」

「あたしならできるの?」

「お買いあげありがとう」

「ええ!」

 高津は驚き、そして怒った。

「ちょっと待てよ、この子も俺も同じ高校生なのに、どうして萌だけが装備できるんだ?」

「いやあ」

 主人は困ったような声をだした。

「人は全て、その人に相応しい職を持つ。それは君たちが名前を持った日から決まっていることなんだよ」

「そんな馬鹿な、どうして名前なんかでそんな重要なことが決まるんだ?」

「そりゃ、色々な案も出されたさ。網膜パターンで決めようとか、核酸の塩基配列で決めようとか。でも、目のない市民はどうするのかとか、無機生物はどうするのかって考えた時に、古典的だが名前でステータスを決定するしかないという結論に達したんだ。名前のない生物もいるが、その時は一時的にでも何かつければいいだけのことだからね」

 扇風機は呆気にとられた高津を無視して、萌に剣を渡した。

「お、おい、ちょっと」

 しかし、萌と夕貴が彼に向かって首を振る。

「ホントはね、こういうの欲しかったの。だって、圭ちゃんばっかり戦わせて申し訳なかったし」

〈夕貴も何か欲しい、買って、お兄ちゃん!〉

 高津はぷいっと首を振った。

「駄目、あとは薬草を買ったら終わり。第一、夕貴に刃物なんて持たせたら却って危ない」

〈お薬は少しでいいよ。夕貴がお手伝いするから〉

 ふっと夕貴が高津の擦りむいた肘に手を当てる。

「え?」

 するとどうだろう、彼の血のにじんだ皮膚がすっと治っていったのだ。

「ほう、お嬢ちゃんはヒーリングができるんだ」

 扇風機は微笑むようにプロペラを緩く回転させた。

「簡単な魔法だが、これを使えて且つ杖以外の武器の装備が可能なのは珍しいよ。例えばだな………え、あれ、そもそもそんな職業あったかな……」

〈あれはいくら? 夕貴に使える?〉

 夕貴が指さした先には、カーテンレールのような銀の輪っかがあった。

「使えるよ、ここで装備するかい?」

「おい、おい」

 しかし高津の意志とは関係なく商談は成立し、萌は巾着からお金を出す。

「それにしても、このお金、どこかで見たことがあるね」

 反対する気力もなくて、高津はただ頷いた。

(……麻雀の点棒そのものだよ。なんでか知らないけど)

 異次元に飛ばされたにしても、どうしてこんなに奇妙な世界なのだろう。いっそ、彼らの身近にあるものが何もなければもっとわかりやすいのに。

(……だけど)

 それがこの怪しげな世界の謎を解く鍵かもしれない。

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