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男たちの日曜日  作者: 中島 遼
11/42

scenario#2 2

「それにしても夕貴は我慢強いな」

 言ってから彼は慌てて手話で意志を伝えた。

 彼女が話題になっている場合は、やはり彼女にその内容を伝えるのが礼儀だと思ったのだ。

〈大丈夫、圭兄ちゃん。少しわかるから〉

 夕貴はそんな高津の心配りを見抜いたような言葉を返した。

 人が話している口の形で会話を類推するという技を彼女は練習中である。

 天性の勘の良さか、あるいは暁がテレパシーで力を貸しているのか、彼女はめきめきと上達していた。

「そうだ、暁とはやっぱり連絡とれない?」

 夕貴は哀しげに首を振った。

「暁は何か色々言ってるんだけど、意味がよくわからないんですって」

「何だ、もう聞いてたの?」

「うん、昨日の晩ご飯の後で、時間があったから」

「ふうん」

「どうやら暁は無事らしくて心配はないって話なんだけど、手話では表現できないような複雑な話があるらしく」

 萌は少し声のトーンを落とした。

「あたしには暁も何か妙な処に飛ばされたとしか思えないの。村山さんとペンギンがケンカしてるとか、ゴミ問題で大変だとか」

 今になって、不覚にも昨夜寝てしまった自分を高津は責めた。

 リーダーたる自分が翌日の展望の確認もしないで皆を放っておいたなんて……

 高津が暗い顔で歩いていたからだろうか、萌が彼の肩をぽんと叩いた。

「見て、町の真ん中に建ってる塔、てっぺんに花が咲いてるよ!」

「……萌、明るいね」

 町の門をくぐり抜けながら言うと、彼女は少し微笑んだ。

「これもひょっとしたら夢かなって思うんだけど、前に見たのに比べれば大分ましだと思ったら力が沸いてきて。だってあの夢の中ではみんな、こんなに親切じゃなかったもの」

「確かに」

 彼らは道具屋で石を換金した後、その足で隣の武器屋に寄った。

「いらっしゃい、武器と防具の店だよ。何か買うかい?」

 武器屋もやっぱり複眼カンガルーだったが、今度は彼も驚かなかった。

「品物を見せてください」

「これで全部だ」

 武器屋が指さしたショーウインドウを見ると、そこには十万円くらいのブロンズ色の剣を筆頭に、高津が持っているよりも幾分しっかりしていそうな木の棒まで、五種類ほどのアイテムが並んでいた。

 防具も彼が思っていたような物はなく、革の帽子があるばかりだ。

(……ええっと、今あるお金が二万三千円だから、二日分の宿賃を確保して……)

 彼が頭の中で計算をしていると、萌がカンガルーに質問をした。

「ねえ、このスプレーは何?」

「ああ、これをかければ防御力が上がるんだよ。うちにあるのはEランクの商品だから革の服を着たのと同じくらいの守備力になるんだ。他の町に行けば、BやCのスプレーもあるって話だが、あいにくここでそんな高い物置いていても売れないしね」

「いくら?」

「一缶が一人分で三千円だ」

 高津は頷いた。

「そのスプレーを二つと、木槍を一本ください」

「でも圭ちゃん、高いよ?」

「防御力を上げるためなら多少の出費は仕方ないよ」

「でも……」

 すると武器屋が言った。

「お嬢さん、このスプレーをかけると洋服が破れたりしないし、洗濯しなくても常に清潔な状態を保つんだ」

「じゃあください」

「まいどあり、ここで装備するかい?」

 高津は頷く。

「ああ」

「誰が装備するね?」

「槍は俺が。スプレーはこっちの二人が……」

「ちょっと待って」

 と、萌が口を挟んだ。

「一番先頭を歩いていて、一番戦っていて、一番危険な圭ちゃんがかけるべきだと思う」

「だけど、俺より君たちの方が防御力が低いだろうから……」

「お話中悪いが、このスプレーはとりあえず貴方に使用するよ」

 武器屋がいきなり高津にそれを吹きかける。

「わっ、何をする!」

「ルールではもめた場合は多数決となっている。そこの女性陣の意見が一致していたようなので、そうさせてもらった。……で、もう一本はどうする?」

 今度は多数決で夕貴にそれがかけられた。

「……ったく」

 少しむっとした顔で高津は外に出る。

 その後を済まなさそうな顔で二人がついてきた。

「ごめんね、圭ちゃんが稼いだお金なのに」

 専業主婦は夫にそんな言い方をするのだろうかと思った途端、何故か顔が紅くなる。

「い、いや、ありがとう、俺のことなんて気にしてくれて」

 そうだ、何がなんだかわからないこの世界で、そんな些細なことで仲間を怒るなんて良くない。

 彼は一人で大きく頷いて道を歩いた。

(……そうだよ、こんな状態でも、萌と一緒っていうのは超ラッキーなんだから)

 大きな黒い瞳に、サイドが少し長めのボブカット。

 萌は全く気づいていなかったが、彼の高校で彼女は密かに男子から人気があった。

 ただ、想像を絶する内弁慶のため、モーションをかけた男子が全て自分が嫌われている、あるいは自分に無関心なのだと思いこんで諦めていたというのが実情だ。

 そんな中、色々あって萌と親しくなった彼は、誰よりもいい位置にいることを自覚している。

 しかも、彼の最大にして最強のライバルであるイケメンの医師はいない。

 ここで点数を稼がなくてどうするというのだ?


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