山崎製作所
世界は争いが絶えない、ましてや減るどころか、増えるばかりだ何故なら人間たる種は
純粋にかつ本能的に戦いを望む種なのだから、しかしながら、そんな事を語ってもなにも
状況は回避できるものではない。これは残念ながら現実なのだから。
そんな事を思いながら、都心から離れた寂れた町工場の一角で山崎は違法な武器の部品
を作っていた、武器に合法か非合法は、毎日あれこれと考えてみたが、結論などでる由も無く
日々彼はこの工場で鉄の磨き組み立て、帰りに同級生の屋台で毎晩、酒をすする日々だった。
何故彼がこんな家業についたかは、長い話になるが簡単に言えば偶然である。人は夢や希望を
もって目標に到達するなんてのは、テレビやドキュメンタリーの中だけでそうそうあるもので
はない。たまたま山崎は武器のそれを作るのに適した人間だったからだ。
才能とかその辺の高等な理由でないのだった。ただ偶然に彼はこの仕事に選ばれただけだった
それとは、武器に一様に「魂」をこめることであった。まだまだ、試験段階の運用のころ
から、彼はその一部である部品を日々削りだしてきたのだから。
時代がすぎ山崎の作るそれはしだいに。運用されるようになり、世界の紛争地帯や軍隊など
に納品されていった。まるで自動車の部品のように輸出され、その金は山崎の糧となり
猫の餌代と屋台の飲み代となっていった。
クライアントからの連絡は決まって金曜日だ必ず、5時にメールが届く。映画ような謎めいた
文章ではなく、至って簡素で平凡な書き出しから始まる
「山崎様 いつもお世話になっております篠田システムです」
まあなんて、ありふれた挨拶から始まる、もう少し胡散臭い文章であって良いのでは
ないかと昔は思っていたが、まあこれもこれで様式美なんだろうと思い最近は慣れてきた。
時々、追伸なんか書いてあって、はやり病の見舞いや、年始の挨拶や、残暑見舞いなどの簡単な
文章まであることがあった。まったく普通の文章である、ただ一つだけ違うのは、最後に品番
が記入されてあった、品番というより、バイエルの楽譜かクラシックの譜面の指示である。
クラシックなんて無縁の家庭環境で育った山崎には、なんとも意味不明なのだが、その楽譜が
すべての設計図を意味する、これは山崎しかわからないものであり、到底凡人に理解できない。
音楽によって武器は作りだされる。これが最大の謎なのだ。
厳密に言えば、オルゴールの円盤を作る作業に似てるようだ。直径3センチの円盤を作るだけ
今日も、バイエルの楽譜をアマゾンで頼み翌日にな届く、時々は渋谷まででかけ気分転換に買いに
行くこともあるが、最近ではもっぱら通販生活である。
しかし今回は少し問題が発生した、その指示にきたバイエルはどこを探しても存在するものではない
のだ。発注ミスかと思い、篠田システムに問い合わせてみても、返信は
「お手数ですが再度ご確認くださいませ」
このあいかわらず事務的でかつご丁寧な返信だけでっあった。
「困ったな、まあ悩んでも仕方ないな、困った時は貴婦人様に聞くか」