「第五話」 The beginning of the war
本章突入。この話から地の文を変えました。読みやすかったよー、とか読みにくくなったなどを、御手数ですが参考にしたいので感想で教えてもらえると嬉しいです。
バイクを走らせて10分ほどすると、〈SoF〉のクランホームへと到着した。
目的地のクランホームとは一件の住宅だった。地上2階地下1階の3階建になっていて、上からメンバーの個室、リビング、射撃場と倉庫という構成になっている。メンバーはリビングで他のメンバーと騒いだり、それぞれの個室にアイテムを保管したり、作業場にしたりしていた。
クランに未所属のプレイヤーもマンション形式の住宅を借りて拠点とし、同じようにゲームの中で過ごしている。まぁこのゲームの主舞台は戦場なので、「拠点なんてアイテム置けりゃそれでいい」というプレイヤーも確かに存在するのだが。
車庫へとバイクを駐めて、駆け足でリビングへと向かうと4人のプレイヤーがのんびりとくつろいでいた。
「あら、おかえり。結構遅かったじゃない」
赤いバンダナを肩に着け、ケーキが乗った皿を片手に持ちながら言うスプリー。
「オルキ、お前の分のケーキはスプリーが先に食っちまったぞ」
銃のメンテをしてたらしいオイルの付いた顔でニタニタと笑っているのはマック。βサービス開始の時にクーラ、マック、俺とで戦場で出会い、意気投合して以来何時も一緒に馬鹿騒ぎしている仲だ。〈SoF〉もこの3人で立ち上げたクランだ。
そんな彼に反応して、部屋の隅のバーカウンターで飲んでいた中年の男が慌てて言葉を挟んだ。
「おい、おっちゃんはちゃんとそれはオルキの分だって言ったぞ。けどスプリー嬢が言うこと聞かずに食べちまってだな」
おっちゃんと呼ばれる彼の名は〈Wieland〉。白髪でふさふさな頭とちょび髭というまんまな見た目から、みんなで彼のことをおっちゃんと呼んでいた。
そんな彼は〈SoF〉で鉄砲鍛冶を探していたときに加入したpレイヤーで、伝説の鍛冶師にの名に負けない一級の腕前に俺を含めて皆が信用を置いていた。
「う……しょうがないじゃない、動いたあとだったからお腹空いてたのよ。そんなことよりも頼んだの買ってきてくれた?」
これで誤魔化したつもりらしい。俺は密かに仕返しを思いついて、彼女が手にもつケーキを標的に捉えた。端末を取り出してスプリーに示す。
「ああ、買っといた。交換するからスマホ出せ」
そう言ってスプリーと端末を合わせてトレードをする。彼女が端末の画面を見て確認をしている隙に、ケーキの上に乗っていた大粒のいちごを掻っ攫って口に放り込んだ。
苺がスられた事に気がついたスプリーは「あぁぁぁぁっ?!」と悲壮感溢れる叫びを上げると、ソファから飛び上がってこちらに詰め寄り肩をがしっと掴んできた。そのまま息が感じられる距離まで顔を近づけると、
「私の苺返しなさいよ!」
急接近してきた彼女の顔に俺は思わずドキマギして息と一緒に苺を飲みこむ。彼女は目を見開いたあとに肩を落とすと、ガックリと膝から落ちた。
あまりの落ち込みように少しだけ罪悪感を感じてどうしようかと頭を働かせていると、何処からか久しぶりに聞く声がした。
「貴方達相変わらず仲良いわね」
声のする方向へ顔を上げると、バーカウンターの向こう側に1人の女性が立っていた。
「おお、リサじゃないか、久しぶりだな!こうやって顔を合わせるのは3ヶ月ぶりか?」
「最近リアルが忙しかったから中々ログイン出来なかったのよ。お久しぶり、オルキ」
そう言って微笑む彼女は〈RisaRisa〉、《SoF》のオペレーターをしている。高い身長にスラッとした身体、そして長い黒髪をしている中国系の美人さんだ。
床にしゃがみこんでぶつぶつ呟いているスプリーを無視してバー・カウンターの椅子に座る。となりにはマックが座った。
「ほんと久しぶりだなリサ。やっぱりイベントだから戻ってきた感じ?」
「それもあるけど、最近ようやく仕事が落ち着いて来たのよ。それでようやく休暇が取れたから久しぶりにログインしたって感じかしら」
「再びリサ嬢と酒が飲めて俺は嬉しいよ」
「飲むことしか考えてないのかおっちゃんは……、まぁこれでリサ、おっちゃん、マック、スプリー、クーラ、俺と一同勢揃いした訳か。もう1人足りないのが残念だが」
「あいつはもうこのゲーム引退しちまったからなぁ。残念だが全員が揃うのは難しいんじゃないか?」
「それもそうか」
懐かしいメンバーに3人で話も盛り上がる。俺とマックもリサにパイナップルジュースをグラスに注いでもらった。
しばらく4人で飲んでいると、カウンターの上に置いてあったリサのスマートフォンがピピピピと鳴った。何かと思うと、リサはスマートフォンを手にとってアラームを止めて言う。
「もうそろそろイベントの放送が始める時間よ」
そう言われて時計を確認すると時間は17時59分を示していた。いつの間にか結構な時間が過ぎていたらしい。
クーラが壁に埋め込まれているテレビを起動すると、ちょうど番組が始まっていた。画面が《FoW》のロゴから一度暗転して再び明るくなる。そこには白衣の男が二人立っていた。
彼らの顔に俺は見覚えがあった。ゲーム雑誌の開発者インタビューで幾度か見た顔だ、画面の中で二人が自己紹介を始める。
『兵士達よ、楽しんでいるか?《FoW》のプロデューサー室見だ』
『こんばんは、《FoW》ディレクターのクラウスです』
モニタの中でニコニコと笑いながら挨拶しているこの二人はこのゲームの開発トップ達だ。二人は《FoW》開発の指揮者であると同時に、優秀なエンジニアといわれている。
室見という日本人の方はVRシステムの第一人者で、彼は実現不可能とまで言われていた全身の五感の制御を可能にした天才だ。
もう一人のクラウスという男も天才ゲーム開発者と言われ、今までに何度も凄く高い評価を受けたゲーム、所謂神ゲーを生み出してきた。
そんな二人がタッグを組みVRゲームを開発すると発表された時は全世界のゲーマー達の間でお祭り騒ぎが起きた程だ。
もちろん俺も発表を聞いて即座にバイトを入れるだけ入れて、タイタンと割高なβテスト参加権を購入した。
『今回君達兵士諸君が最も楽しみにしているであろう、今回の正式サービス開始、そしてイベントについての話をしよう』
『只今から正式サービス用のバージョンへと、オンライン上の全プレイヤーへプログラムのアップデートを行います。皆さんそれぞれのスマートフォン端末を確認してください』
その言葉と同時に、リビングに居た皆の端末がそれぞれ何かしらの音を発した。自分の端末をとりだして画面を見てみると、すっからかんのゲージと0%という文字、そして《FoW_Ver001.00へアップデート中です》と表示されていた。
見ている最中にもゲージが少しづつ溜まっていき下の0%の表示が1%へと変わる。
『現在全プレイヤーへ同時進行にて、ゲームのアップデートを行っています。端末上に表示されたゲージが全てたまり100%になったところで正式サービス、そしてイベントの開始です』
『では、アップデートが完了するまでにイベントの内容を発表しよう』
「お、ようやく発表か。」
テレビの音声とマックの声に釣られて、スマホからTVのモニタへと視線を移す。
イベントについては開催日だけしか発表されず、内容については一切のお知らせがなかった。それがついに発表されるらしい。
『今回のイベントは全プレイヤーが強制参加となり、ゲームシステム自体に大きな変更が加えられている』
『イベントは今回の正式サービス開始に伴うもので、赤、青、緑の各陣営の何れかが勝利するまで続きます』
説明を聞いているかぎり、今回のイベントはかなり長期のものらしい。
二人が話してる間にもみるみるとゲージは溜まっていき、20%へ到達していた。
『この1年間のβサービスで戦場の土台は完成しました』
『ようやく正式サービス開始へと漕ぎつけることが出来た。《FoW》全プレイヤーへ感謝しよう』
『そしてFlame of Warは、このアップデートでようやく完成形へとなります』
『この《ソリッドバニア》大陸は未完成の戦いの中にあった。しかしこのアップデートで最後の重要な要素が追加され、本物の戦争が完成する』
60%に到達した。
『この戦場は我々二人が作りたかった世界なのです』
『私は極めてリアルな世界を作りたかった』
『私は大きな興奮をもたらすゲームを作りたかったのです』
75%に到達した。
『最も人が興奮する時とは一体なんだろうか?それは敵を殺す時だと私は考えている』
『もっとも現実に近い、欲望にあふれた空間とはなんしょうか?それは敵を殺す時です』
『そう、最後の要素とは敵を殺して生き延びる快感だ』
ゲージが90%に到達した。
「運営、こんな過激なこと言っちゃうんだ・・・・・・」
スプリーが震える声で呟いた。
この二人はあまりメディアなど表に出る人間ではなかったが、俺が読んだインタビュー記事では、ゲームとリアルを混同するような変人ではなかったはずだ。
『生への執着、この要素が追加され《FoW》はようやく正式サービスとなるのです』
『敵を殺して生き延びろ‼このゲームをクリアしてみせろ!』
皆のスマートフォンが一斉に鳴り響く。ゲージが溜まりきって、100%へと到達していた。そして画面が切り替わり炎が燃えるようなエフェクトが表示される。
そして炎が燃え尽きると、そこにはゲームを起動するときに表示される、《Welcome to the Flame of War》の文字が血のように赤黒い色で表示されいてた。
『ようこそFlame of Warへ。正式サービスチュートリアルを開始する』
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