「第四話」 AllKi&Frost Briefing 004(後編)
後編になります。
オルキは2人が居住ブロックに向かうのを見送った後、専用のカウンターでバイクをレンタルした。
『レッドベース』は広大故に移動にも時間が掛かる。NPCが運営しているバスやモノレールもあるが、ある程度の資金力のプレイヤーは要所要所に設置されているレンタルショップからバイクや車などを借りて移動するのが一般的だった。
バイクで10分ほど移動すると『レッドベース』で一番大きな市場に到着した。
正式名称は『ブノック武器市場』なのだが、プレイヤーには単純に『武器市場』と呼ばれていた。
バイクを近くのレンタルショップに返却して、何時も利用しているプレイヤーショップへ歩いて向かっていると、突然路上から一人の男が飛び出してきた。ぶつかりそうになったことも気付かず眩しそうにあたりを見回していている。
RPGならクエストが始まりそうな様子だが〈FoW〉にクエストの類は存在しない。
しかし明らかにおかしい挙動にオルキは心当たりがあった。おそらく正解であろう予測にそって声を掛ける。
「ヘイ新兵、彼女の歓迎は強烈だったろ?」
~Frost~
「ヘイ新兵、彼女の歓迎は強烈だったろ?」
フロストは光景に驚いていると、後ろから声を掛けられた。
驚いて声のした方向を振り返ると一人の男が立っていた。彼はこちらの反応に面白そうにハハハッ、と笑うと続けて話し始めた。
「このゲームの歓迎はかなり雑なんだ、ビックリしただろ?」
「えっ、え?」
顔も知らない人にいきなり親しそうに声を掛けられキョドってしまう。その反応がまたツボに入ったのかオルキという男は再び笑い出した。
流石に知らない人間にここまで笑われると、イラッとしてそれが表情に出る。
オルキはこちらの表情に気付いて笑い顔を無理矢理真面目な顔にしようとしているが、唇の端がつり上がっているし目が笑っていた。
「いや、別におちょくってるわけじゃないぞ。俺も最初の頃全く同じ反応をしたことを思い出してさ……ははっ」
「笑いを隠し切れてないですよ……」
「いやーすまんね。お詫びにと言っちゃなんだけど少しこの市場案内してやるよ、主力武器もまだ持ってないだろ?」
なんだかよくわからないが、彼はこの市場の案内をしてくれるらしい。
満足に説明すらされないチュートリアルだけでゲームに放り出されたフロストにとって、彼の提案はとても魅力的だった。
何故そんなことをしてくれるかは分からないが、ゲームシステムで分からないことをついでに訊いてしまおうと考えて、提案に乗ることにした。
「いいんですか?これから何すればいいか全然わからないんで正直いって助かるんですけど」
「遠慮しなくていい、お詫びってだけじゃないからな。俺もこのゲーム初めてばっかの親切な人に色々教えてもらったから、自分がしてもらった分を他の人にするだけだよ」
「そこまでいうなら……私はフロスト、よろしく」
「おう、よろしくな。さっきも言ったが俺の名前はオルキだ。イベント始まる前にささっと済ましちゃおう」
その後オルキに案内されながら色々なことを訊いた。〈FoW〉では皆あのような歓迎を受けるらしい。
そして〈FoW〉の仕様を説明してもらった。
大抵のプレイヤーは銃を使っているが、たまに近接武器をメインに使っている人がいることや、『レッドベース』の他にも『ブルーベース』、『グリーンベース』という要塞都市が有ること。
スマートフォン端末でアイテム欄についてや、装備の方法についても教わる。
様々なことを話しながら移動していると、目的の店へと到着したらしくオルキが立ち止まった。「この店だ」と指を指された店は、ドアに「OPEN」と書かれた板が掛かっている以外は看板も何も無い殺風景な店だった。
「え、ここに入るの?」
「ああ、外の見た目は良くないけど、品揃えは結構良いぜ。とりあえず中に入ろう」
そう言うとオルキは先に中へと入っていった。ここまで来て引き返す訳にもいかないので恐る恐るついていく。外と違い店の中は多くのモノが陳列されていた。
オルキは「先にこっちの要件済ましちゃうから待っててくれ」と言うと、は銃や弾・服・装備品などの陳列棚をスルーして奥にまで移動すると、カウンターにある呼び鈴を叩いた。
奥は倉庫になっているのだろう、「いま行きます」の声と慌ただしい物音が聞こえる。しばらくするとカウンターに1人の男が出てきた。
「オルキか、いらっしゃい。HK417の調子はどうだったか?」
「まぁまぁだな。しばらくコレ使おうと思うから7.62mmの強装弾を200発ぐらい欲しいんだけど」
「通常弾ならまだ在庫があるが強装弾だと100発しか置いてないぞ」
「200発用意でき次第でいいよ。後の100発はいつぐらいまでに用意出来そう?」
「1日もあれば十分だ。ここに取りにくるのか?クランホームに届けておいてもいいが」
「いつもどおり届けておいてくれ」
カウンターに出てきた男はこの店の店員だったようで、オルキと話し始めた。どうやらそれなりに親交があるらしく親しげに商談を始めていた。
やることもないので近くの棚に置いてあった銃を眺めると、大きいものから小さいものまで様々な種類があった。
いつの間にか商談が終わったのかオルキがこちらに声をかけてきた。
「何か良さそうなのあったか?狭いが品揃えは結構いいから多分気に入る銃が1つは有るはずだ」
「いらっしゃい、オルキのお連れさんか。どんなものをお求めで?」
「えっと・・・どんなのがいいだかよくわからないんですけど」
「ああ、新兵か。なら使いやすいのを幾つか教えてやろう」
店員笑いながらそう言うと、カウンターから売り場に出てきて幾つかの銃を陳列棚から取り出した。
「まずはアサルトライフル。連射力があって貫通力もあってそれなりに飛ぶ。まぁライフルといったら大抵の人が思い浮かべるやつだな。連射出来て大抵の距離に対応できる。M16とかAK47とかが有名だな」
アサルトライフルを2丁持ち上げて説明をしてくれる。そして少し離れた棚から更に幾つかの銃を持ってきた。
「次にサブマシンガン。貫通力はまちまちで余り遠くまで飛ばないが、連射力があって小さく取り回しがいいおかげで近距離戦で強い。扱い易いし初心者にはこれがおすすめだ」
「まぁまずはこの2種類の中から選ぶのがオススメだ。他の銃は値段が高かったり扱いが難しかったりするからな」
「なるほど」
店員の説明を聞いたあとカウンターに置かれた色々な銃を物色していると、以前別のゲームで愛用していた銃を一つ見つけた。手にとって見よう見まねで構えてみる。
「M4A1か。いい銃だ、気に入ったのか?」
「・・・うん、前のゲームではこれをメインに使ってた。これの値段っていくら?」
「3万5千だが新兵価格で3万にしてやろう」
適正価格がわからないが、オルキの反応を見るとかなり安いほうなのだろう。近くにあったヘルメットを狙うと撃つ想像をする、ヘッドショット。
「コレでお願い」と店員に銃を渡す。カウンターから受け取った店員はレジを操作する。
「まいどあり、3万ゴールドだ。サービスで吊紐も付けておいてやる。そこに端末をかざしてみろ」
言われたとおりにポケットから端末を取り出してレジにかざすとピロリンと音が鳴った。同時に店員が持っていた銃も消えた。
「基本的に支払いはこうやって端末で払うことになるから憶えておけ。支払いが完了すると同時にこの銃はお前のものとなる、今はお前さんの欄に収納されてるから後で装備しておくといい」
その後オルキと店員に勧められ弾やマガジン、そしてそれらを装着するためのボディーアーマーを購入した。最初にあった5万ゴールドは、買い物が終わる頃には3000ゴールドにまで減っていた。
「俺の名前はギャッズだ、この店の店長をやってる。何か必要なモノができたらいつでも来い」
帰り際に実際は店長だったらしい彼から自己紹介をされた。ギャッズというらしい彼にこちらも紹介を返す。
「私はフロストです。色々良くしてもらってありがとうございました」
「これからもたまに買いに来てくれたらそれでいい」
「じゃ、明日200発まとめてホームに届けといてくれ」
「ああ、責任持って届けるよ」
オルキと共に店を出る。ギャッズが店の中から手を振ってくれていた。最初は胡散臭く感じた店だったが、今はすっかり馴染んでしまった。
~AllKi~
オルキが店を出て時間を確認すると、端末には19時30分と表示されていた。イベント開始まであと30分ほどだった。
流石にここらでフロストと別れてクランホームに行かないとマズい。
「俺はそろそろ自分の拠点に帰るわ。案内はここまでになるけど大丈夫か?」
「十分です、ありがとうございました」
「そっか。そりゃよかった。 じゃあ最後に助言すると、この都市の真中にある司令部に行くとクラス登録することができるから一度行ってみな。あそこは初心者向けのの案内冊子とか配布してるからさ」
「へぇ、司令部ですか」
「ここからだと見難いが中央へ行けばでっかい建物が見えるはずだ」
この都市の中央に位置する司令部は『レッドベース』の中でいちばん大きな建物だ。司令部の正面には常に賑やかで広い中央広場もある。
手続きに来たプレイヤーと中央広場に遊びにきたプレイヤーで常に市場以上に賑わっている場所だ。
「じゃあ此処らでお別れだフロスト。今度は戦場で会おうぜ」
別れ際にフロストとフレンド登録をしたあとに、武器市場から抜け出す。
バイクをもう一度借りて居住区にあるクランホームへと向かう。
(少し新兵君に時間を取り過ぎたか)、とも思ったが新規プレイヤーへのお世話は上級プレイヤーとしてのマナーのようなものだ。こういう時間の使い方だったら、イベントに遅れたとしても気分は悪くないものへとなるはず。
それでもバイクのアクセルグリップを少し強めに回して加速する。
「俺の分のケーキ残ってるかなぁ……」
スプリーとクーラが彼の分のケーキを残して置いてくれることを信じて、オルキはクランルームへと急いだ。
この話で一旦の区切りで、次から本編です。
戦闘シーンやヒロイン成分足りなくてすいません、そこら辺も次話から増やしていきます。
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