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少年魔王の『世界征服』と英雄少女の『魔王退治』  作者: NewWorld
第2部 最終章 見つめあう二人
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第130話 暗黒宮殿~王の間~

 エドガー、ルーファス、リリア、ルヴィナ、イデオンの五人は、真っ直ぐに抜けた通路の先にある螺旋階段を上った後、これまでになく大きな部屋にたどり着く。


 そこは、暗黒宮殿メイズパレスの最上階。第五階層のワンフロア全体を占拠するほどに広大な『王の間』だった。漆黒の床に敷かれた血のように赤い絨毯が続く先には、同じく漆黒の玉座がある。


 しかし、その玉座には、収まるべき主がいない。ただ、その両脇には、間違いなく『王』としての威厳を漂わせた一対の『魔』が立っている。


「ほう……。やはり、強い力をビンビンに感じるな。特にあの赤い一本角の獣人の野郎、あいつが獄獣王だな! よっしゃ、あの時の借りは返させてもらうぜ!」


 禍々しくも圧倒的な気配を漂わせる『魔』の王を見て、イデオンは嬉々として笑う。そんな父親の姿に、エドガーはあきれたように息をついていた。


「相手は第二階位の化け物だってのに、簡単に言ってくれるぜ」


「いいじゃない、エドガー君。わたしは……あなたのお父様のああいう部分は、英雄として見習うべきなんじゃないかと思うわよ?」


「……ええ、まあ、そうなんですけどね。でも、いつも慎重派のルヴィナ先輩がそんなことを言うなんて、少し意外ですね」


「……そう、かしら?」


 エドガーに言われ、ルヴィナは戸惑ったように首をかしげる。いついかなる時も冷静で、慎重に物事を判断し、無謀な行動を避けていたはずの自分。それが特殊クラスの面々と過ごす日々を経て、気づけば今回の『リリア救出作戦』のような無茶を考えるまでになっていた。


「ふふ……」


 ルヴィナは含み笑いを漏らすと、エドガーの顔を見上げるようにして言葉を続ける。


「……でも、あなただって、一年前とは随分大きく変わったと思うわよ」


「そ、そうですかね……?」


 ルヴィナに微笑みかけられ、頬を赤くしてうろたえるエドガー。


「うん。最初のころのあなたは、とにかく自分が英雄王の息子であることを気負いすぎていて、自分の力を誇示することばかりを考えていたみたいだもの」


「ははは……耳が痛いっす」


「……でも」


 そこでルヴィナは言葉を切り、柔らかな笑みをエドガーに向ける。


「あなたは変わったわ。……今のあなたは、自分の力を大切なものを守るために使うことを知っている。魔王の学院襲撃のときもグランバルドの防衛のときも、あなたは自分よりはるかに強大な敵を前にして、それでも守るべきものを守るために最善を尽くしていた」


「ルヴィナ先輩……」


「たとえ力が足りなくても、それでも『誰かのため』に戦う英雄は、決して負けてはならない。たとえ卑怯と罵られても、大切なものを守るため、絶対に勝たなくてはならない。それこそが……単なる恰好ばかりではない『真の英雄』のあるべき姿。わたしにそのことを教えてくれたのは、あなたなのよ。……だからエドガー君。この戦いも……一緒に頑張りましょう」


「は、はい!」


 自分を嫌っていると思っていたはずの少女から思わぬ言葉をかけられ、エドガーは感極まった声で返事をした。


「ルヴィナ先輩! 俺、頑張ります。俺の大切なものを……ルヴィナ先輩のことを守るためになら、獄獣王だろうが霊賢王だろうが、まとめて全部ぶっ飛ばせそうな気がするぜ!」


「……も、もう! すぐに調子に乗るんだから。ほら、そんな声をあげるから、睨まれてるわよ?」


「え?」


 エドガーはルヴィナの言葉に我に返り、玉座の脇にたたずむ二体の『魔』に目を向けた。すると……


「ああ? 俺もなめられたもんだぜ。エリザならいざ知らず、ただの獣人族のガキなんぞにあんな口を利かれるとはなあ。ぶっ潰してくれようか?」


 獰猛な唸り声を上げるのは、全員に赤い剛毛を毛羽立たせ、額に一本角を生やした大柄な獣人だ。その身体からは壮絶な怒気が炎のように揺らめき立っており、あたかも彼が纏う『筋肉の鎧』が、際限なく膨張していくかのごとき迫力を伴っていた。


「ふん。相変わらず、『紅月の王』は野蛮だな。だが、今の言葉を捨て置くほど、わたしも『王』としての在り方を捨てたわけではない。わが支配の力もて、身の程知らずな言葉の報いは受けさせてくれようぞ」


 青い衣に身を包む、若い男性。しかし、彼の言葉には、他者を圧さずにはいられない『支配力』が込められている。事実、彼が一言発するたびに周囲の空気が震え、彼という存在に強引に従属させられていくかのような錯覚に襲われる。


 びりびりと凶悪なプレッシャーを放ってくる獄獣王と霊賢王は、一度は敗れたとはいえ、依然として最強クラスの『魔』であることに違いはない。


 しかし、そんな重苦しい空気の中、涼しい顔で進み出る少女が一人。


「あらあら、霊賢王。ネザク君に泣かされて逃げ帰ったくせに、また性懲りもなく出てきましたの? 今度はわたくしに泣かされたいのかしらね」


 少女は鈴の鳴るような声で、抜身の刀で斬りつけるかのごとき言葉を放つ。


「な! お、おのれ……ブルーブラッドめ! この裏切り者が! ちょうどよい! 貴様は、このわたしが直々に八つ裂きにしてくれるわ!」


 たちまち憤怒の表情を浮かべた霊賢王は、それまでの超然とした態度をかなぐり捨て、怒号とともに腕を振り上げる。すると周囲の風が強引に彼の手元に収束していき、みしみしと音が聞こえそうなほどに圧縮された空気の塊が形成されていく。


「相変わらず、一つ覚えの《絶体王星》? 再戦を申し出てくるくらいなら、新技の一つや二つ、披露してごらんなさいよ。……こんな風にね。発動、《限りなく澄んだ月の牙》」


 リリアが正面に伸ばした手の中に、蒼水晶でできた優美な形の霊剣が出現する。そして同時に、それは強烈な吸引力を持って周囲の『真月』を……すなわち『魔力』を吸い上げていく。狙いはもちろん、霊賢王の手の中に集まった空気を支配する魔力だ。


「な、なにい!?」


 手の中の圧縮空気が霧散していくのを目の当たりにして、霊賢王は動揺の色が隠せない声で叫ぶ。


「さて? それじゃあ、今度はこっちの番かしら?」


「おのれ! こ、この力はいったい……? だ、だが、ならば……こうするだけだ!」


 霊賢王が再び手を振りかざすと、今度は彼の周囲に漆黒の床がせりあがって半球状の防御壁を形成した。


「……なるほど。一度完成して形を決めた『壁』には、霊戦術ポゼッションによる支配の魔力も必要ないというわけね」


 リリアは自身の『吸月』の力で破壊されない黒壁を見つめ、小さく息をつく。


「だが、所詮はただの壁だ。物理的に壊せないものではあるまい」


 そこに口を挟んだのは、リリアの隣で術式の準備を完了させたルーファスだった。


「くっくっく! 馬鹿め! この暗黒宮殿メイズパレスの構造体は、ただの石ではない。いかなる魔法もはじき返し、いかなる力も透さない。貴様らがそうやって手をこまねいているうちに、わが最大の魔法で貴様ら全員を消し飛ばしてくれるわ」


「そうか? 最大の魔法とやらは、随分と簡単に準備できるものなのだな」


「な、なに……?」


 霊賢王は、驚愕に目をみはった。いつのまにか、自分を覆う半球状のドームのうち、正面部分が決壊している。そして、うがたれた穴の向こうには、水晶の霊剣をこちらに向ける白金の髪の少女がいた。


「発動、《森羅万象の因数分解》」


 ルーファスは手を伸ばしたままの姿勢で、『詠唱』の言葉を口にした。しかし、その魔法効果自体は、すでに発動済みである。魔法の発動を『詠唱』に先行させる、極めて高度な魔法制御。遅延型ディレイではなく、先行型白霊術ヘイスト・イマジン


 その最大の利点は、魔法の発動タイミングを敵に察知されないという点である。逆にその欠点として挙げられるものは、万が一、発動後に『詠唱』を中断させられた場合、魔力消費が莫大なものになるという点だ。とはいえ、戦闘においては極めて有効性の高い技術である。


「さて、またしてもあなたの魔法は、失敗ですわね」


「そ、そんな、馬鹿な……」


 強引に魔力を吸い上げてくるリリアの『吸月』に対抗するため、霊賢王は魔力を遮断する結界内部に支配の魔力を充満させるという方法によって、これまでとは比較にならない凶悪な魔法を使おうとしていた。


 しかし、気づけば目の前の壁には穴が開き、そこから莫大な魔力が流れ出ていってしまっている。


「そうそう、いいことを教えてあげましてよ? わたくしの《鏡化吸月》は、吸い上げた力を利用することにこそ、その真価を発揮しますの」


 霊賢王の目の前に突き付けられる、限りなく透明な月の牙。鋭くとがった先端には、先ほどまで自分がかき集めていた膨大な魔力が一点に集中している。


「ま、まさか……や、やめろ! ……そんな馬鹿な! どうして、わたしが! 霊界第二階位の王たるわたしが、こんな小娘に! 嘘だ嘘だ嘘だ!」


「往生際が悪いですわよ?」


 リリアは、霊剣の先端から力を解き放つ。




 一方、同じく怒りをあらわにした獄獣王グランアスラの前には、英雄王イデオン・バーミリオンが相対している。

 一本角の赤い獣人は、獣化モードとなった銀牙の獣王と比較してなお、頭ひとつ分以上は上回る巨大な体躯を誇っている。


「ぐははは! 星の力をたっぷり吸った『心月の魔石』。この身体は最高だぜ! お前の身体も悪くはなかったが、これに比べりゃ『月とすっぽん』だな。ぐははは!」


 準備運動だとばかりに、拳を素振りしては、足を踏み鳴らしてみせる獄獣王。そのたびに激しい風が巻き起こり、漆黒の床を伝わる振動が広間全体を大きく揺るがす。


「くだらん力の鼓舞はよすんだな。俺がその程度でビビると思っているのか? 貴様の方こそ、今度は人の身体を乗っ取ろうなどとせず、正面からかかってくるがいい」


 圧倒的な存在感を放つ獄獣王を前に、イデオンは言葉通り、まるで動じた様子もなく、気負った様子さえないままに構えをとって立っている。

 

「おやじ! がんばれ! 後は任せたぜ!」


 敵を怒らせたきっかけを作った当のエドガーはといえば、そんな父親の背後に隠れるようにして無責任な声援を送っていた。


「ちょ、ちょっと、エドガー君?」


 先ほどまでの威勢の良さから打って変ったエドガーの態度に、ルヴィナが面食らったように問いかける。


 するとエドガーは、彼女の耳元に顔をよせ、小さく囁いてきた。


「はっきり言って、いくら親父でもあの化け物を一人で倒すのは無理です」


「え? じゃ、じゃあ、どうするの?」


 いきなり顔を近づけられたことに頬を赤くしながら、ルヴィナは目を丸くして聞き返す。


「それでも、親父なら一対一でもあの化け物をしばらく抑えておくことはできるはずです。……その間に、俺とルヴィナ先輩であいつを倒す準備をしたいんです」


「わたしとエドガー君で?」


「ええ。まあ、二人の愛の共同作業といったところですかね?」


「……ばか。いいから作戦を話して」


 そんなやり取りを続けている間にも、二人の獣人は咆哮をあげて互いの力をぶつけ合い、空気を揺るがす激しい戦いが始まっている。


「すみません。まずは……」


 エドガーの説明を聞き、ルヴィナはあきれたように息を吐く。


「……なんというか、あの先生にして、この弟子ありって感じね」


「まあ、俺は『悪魔の弟子』ですからね。親父あたりにはとても聞かせられない作戦です」


 そう言って、エドガーは悪戯っぽく笑うのだった。


「発動! 《紅蓮烈火の咆哮》」


 イデオンが咆哮に燃え盛る炎を乗せた衝撃波を放つ。


「こんなもんが効くかよ!」


 しかし、グランアスラはそれを右手で打ち払うようにかき消してしまう。そして、お返しとばかりに顎を大きく開き、そこから大音声の咆哮を解き放った。


「ぐお!」


 炎も雷も乗せられていない純粋な音の衝撃波は、強化されたイデオンの身体にも強い負荷をかけてくる。倒れこそしないものの、腕で視界をふさぐようにガードしたイデオンは、敵の動きを見失ってしまった。


「おらあ!」


 その巨体からは考えられないような猛スピードでイデオンの背後に回り込み、その背中に拳の一撃を叩き込むグランアスラ。


「ぐあああ!」


 すさまじい衝撃を背中に受け、血を吐きながら吹き飛ぶイデオン。床を転がりながらどうにか体勢を整え、自己治癒用の魔闘術クラッドを発動する。


「おらおら、休んでんじゃねえぜ!」


 しかし、グランアスラは息つく暇なく追撃を仕掛けてきた。


「ちっ! くそったれ!」


 イデオンは憎々しげに舌打ちしながらも、たちまち赤き獣人との乱打戦へともつれこんでいく。しかし、重く、速く、鋭い一撃は、身体強化の魔力を濃密にまとわせたイデオンの両腕をもってさえ防ぎきれず、腕にも身体にも傷を増やしていく。

 そうしてイデオンが痛みとしびれに顔をしかめる一方、グランアスラの赤い表皮には傷一つ付かず、打撃によるダメージもまるで浸透した様子がない。固い岩を殴っているような鉄壁の肉体を前に、かえってイデオンの方がダメージを負ってしまうほどだった。


「ぐははは! どうしたどうした! もうおしまいか? 何が英雄王だ! この雑魚が! さっさとエリザを出しやがれ!」


 調子に乗って叫ぶグランアスラ。しかし、この言葉がまずかった。


「なんだと? ……貴様、俺のことを『雑魚』と呼んだか?」


「ああ? 本当のことだろうが!」


「……断じて違う。俺は、銀狼族一の勇者にして、バーミリオンの英雄王だ。そんな俺が雑魚と呼ばれることを許せば、俺を誇りに思ってくれる国の民を貶めることになる」


「ああ? 御託はどうでもいいんだよ。弱い奴はさっさと死ね!」


「だから! ……そんな言葉を認めるわけにはいかねえんだよ! 発動、《銀牙の獣王》!」


 イデオンは、『獣化モードのまま』で獣化モードとなるための魔法、《銀牙の獣王》を発動させた。


「な、なんだと?」


「ぐるがああああああ!」


 銀の獣毛に覆われた筋肉が大きく隆起し、みしみしと音を立てて身に着けた装備品が破壊されていく。獣の目からは正気の光が失われ、牙と爪はそれまでの倍ほどの長さにまで伸びていく。


 獣の本能により、後方に飛び離れた獄獣王。しかし、それに追いすがるようにして銀の獣が跳躍し、鋭い爪を振りかざした。


「ちっ! 悪あがきしてんじゃねえ!」


 グランアスラは再び声を衝撃波に変えて放つ。しかし、飛び掛かっていく銀の獣は、一瞬身体を痙攣させるような動きこそ見せたものの、ひるむことなく爪を振り下ろし、あまつさえグランアスラの首元に噛みついた。


「ぐがあああ! くそ! 離れやがれ!」


 胸元を切り裂かれ、首の近くに牙を突き立てられたグランアスラは、イデオンの身体を全力で殴りつけ、吹き飛ばすことでどうにか体勢を立て直していた。


「ぐ……どこにこんな力がありやがったんだか……」


 吹き飛ばされ、倒れたままピクリとも動かないイデオン。グランアスラはその姿を視界に収め、荒くなっていた呼吸を整えると安堵の息をついた。だが、グランアスラは、この段階で安心するべきではなかった。


 胸の傷と首の傷。それらは、本来なら何もせずと獄獣王の回復力なら、簡単に治癒されてしまう程度のものだ。しかし、依然として血は止まらず、傷がふさがる気配もない。


 戦闘中の昂揚感は、痛覚を鈍化させ、自身の身体に起きた『細かな異常』の察知を大きく遅らせる。それはまさに、『悪魔の弟子』が狙った、獄獣王唯一の隙ともいうべきものだった。


「な、なんだ? か、身体が動かねえ」


 ここでようやく、異常に気付くグランアスラ。


「……ふう、親父なら必ず『傷』をつけてくれると思ってたぜ」


 安堵したような少年の声。それは、何も存在しないはずの目の前の空間から聞こえてきていた。


「ルヴィナ先輩。もう、大丈夫です。『ニーアの黒い霧』は解除していいですよ」


「え、ええ……わかったわ」


 その声を合図に、目の前に二人の少年少女が姿を現す。一人は、先ほど自分が倒したイデオンによく似た銀狼族の少年。もうひとりは、白髪の少女だ。


 二人の姿を隠していたのは、ルヴィナの『白霊戦術イマジン・タクティクス』によって顕現した、暗界第十八階位『闇の人形ニーア』の使う黒い霧の能力だった。


「て、てめえ、俺に何をしやがった!」


「うお!」


 獄獣王の大喝に、首をすくめるエドガー。しかし、すぐに気を取り直し、自分の両手を前に掲げて見せる。


「見てのとおり、『黒糸』をあんたの『傷口』に侵入させてもらっただけだぜ」


「……な! いつの間に」


 エドガーの手には、無数の透明な指輪がつけられており、そこから延びる黒い極細の糸は、そのすべてが獄獣王の首と胸の傷の中へと延びていた。


「ちなみに傷口の痛みは、ルヴィナ先輩の『白霊戦術イマジン・タクティクス』、『メロアの霊薬』を糸に塗りつけて消しておいたからな。全然気づかなかっただろ?」


 霊界第十一階位の『魔』である無貌の賢者メロアの能力。ルヴィナはエドガーの指示の元、あらゆる効能を有する霊薬を生み出す賢者の異能により、いわゆる『麻酔薬』を作り出していた。


「小賢しい真似を! だが、『星心克月』も得ていないような貴様程度の力で、俺をいつまでも束縛しておけると思うなよ?」


 言いながら、獄獣王は全身に力を込めて、糸の束縛から離脱しようとする。しかし、そもそも肝心な力そのものが入れられない。


「無駄だってば。俺はこう見えて、あの国の王子だ。バーミリオンで同じことがいつ起きても対応できるように、お前の《掠式星装》についてもエリザの話を聞いて、分析は済ませてきたのさ。で、ひとつ聞きたいんだけど、獄獣王さんよ。あんた、星を身体の外に纏うことが得意らしいけど……その分、『身体の中』に星を注ぎ込まれたらどうなるんだろうな?」


「な、なに? まさか、この糸……俺の肉体だけじゃなく、その内側の魂にまで届いているというのか?」


「……『白霊戦術イマジン・タクティクス』、《ラストホープの心糸》」


 ルヴィナが小さくつぶやく。霊界第十三階位、凶兆の蜘蛛ラストホープの糸は、対象の身体を縛ると同時に、体内に侵入させることで、その心を縛ることも可能なものだ。


「そんな、まさか……」


「悪いね。獄獣王さん。今回お前に打ち勝ったのは、エリザみたいに正々堂々真正面から戦った勇敢な戦士じゃない。……こそこそ隠れて機を窺い、手負いのあんたが仲間を倒して気を抜いたのを見計らい、挙句の果てには、最後の一撃を女の子にお願いしちゃうような男なのさ」


 エドガーは、『星心克月』を持たない。ゆえに、獄獣王の魂に『星辰』を流し込むのは、ルヴィナの役目だった。


「く、くそ! ふざけるな! こ、んな! こんなバカなことがあるか! くそったれ!卑怯者が!」


「おいおい、あんた。バトルの結果に言い訳するようじゃ、立派な戦士とは言えないぜ?」


 エドガーの合図と同時、ルヴィナは『心糸』に力を流し込んでいく。

次回「第131話 暗黒宮殿~屋上庭園~(上)」

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