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7、現行犯逮捕

 道場に持ち込んだデジカメと携帯は入り口で没収された。しかも見学者は正座。座布団なし。じじい許すまじ。

「おいそこしっかり声出さんかぁあアア!!」

「はい!」

 休憩はまだか、防具で顔が見えん。

 私的には右から三番目の彼の声が某声優に似ていてさっきからキュンキュンしてるんだが。

 その隣の彼もいいな。一番若くて経験が浅そうだ。さっきから先輩たちに翻弄されてる様がおいしいです。

 しごいてるおじさんも素敵だな。門下生たちを厳しくも見守るその眼差し。あぁ私も怒られてみたい。

「何をニヤニヤ笑っとるか」

「アイタ!」

 後頭部をスパーンと叩いたのは誰であろう、キタちゃんのじいさまである。

「傷害罪だ」

「ふん、違う。暴行罪というのだこれは」

 どっちも駄目じゃん。そう思った私の頭をじいさまが再び叩いた。

 その瞬間思った。あの台詞を言うなら今しかないと。

「二度もぶったね? 親父にもぶたれたことないのに!」

 防具をつけたキタちゃんがブハぁっと噴き出したのが分かった。他にも数人の警察官たちが同様の反応を起こす。ガンダム世代ですね。

「貴様ら真面目にやらんか!!」

「「「っは、はい!!」」」

 叱られたのは決して私のせいではないと思う。




 昼ごはんは門下生の方々と一緒に食卓を囲むこととなった。キタちゃんのお母さんとおばあちゃんが大量のおにぎりやから揚げ、だし巻卵に沢庵を用意してくれていた。

 ごはんは美味しかった。しかしひとつだけ文句を言いたいことがある。

 なんで私がじいさまの隣なんだ。

「里穂子はちゃんと勉強やっとるか」

「やってるよ。じいさまが思ってる以上に私は優秀ですよ」

「本当か、麗華」

「一年の学期末テストは三十番以内に入ってたよ」

 キタちゃんナイスフォローである。そういうキタちゃんは二十番以内に入るほどの優等生ぶりだった。

 おかしいよね、テスト勉強一緒にしたことあるけど、教科書読まずに漫画ばっか読んでたのにね。

「里穂子、腰が曲がっとるぞ」

「曲げてるんですぅ」

 間髪入れずに背中を叩かれた。

「人様の家の子を叩くとかっ! 現役警察官の皆さん見ましたか!?」

 しかしなぜか全員に目を逸らされた。キタちゃんのお父さんなんか笑ってるし。

 ここは完全アウェー。唯一の味方はキタちゃんだけだよ。

「そういえばリホ、岩迫君と何かあった?」

 なんとここで味方からまさかのキラーパス!

 処理できずに咽てしまった。

「そろそろ試験があるだろう。男にうつつを抜かすとはたるんどるぞ、里穂子」

「何言ってんすか、今は平成の世ですよ。ていうか岩迫君はただのクラスメイトであって何かあったとすれば数学の問題の解き方教えてあげただけですよ」

「勉強口実に好きな女の子に近づくのは常套手段だと思うけど」

 発言したのは若干二十歳の星野巡査である。

 剣道を始めてまだ半年の彼は道場で何度も転ばされていた。その姿に私は萌を禁じえなかったのだが、防具を外した彼は童顔も相まってまるで高校生のようだった。

「メアド交換したんでしょ」

 キタちゃんの怒涛の攻めが続く。目が笑ってるのは気のせいか。

「岩迫君誰にでも優しいもん。クラス全員のメアドどころか、裏庭に住み着いてる野良猫のメアド聞いててもおかしくないと思うよ」

「リホちゃんはその男の子が好きなのかい?」

 キタちゃんのお父さーん!

 親子そろって何言いだすんだ。ちなみにキタちゃんはお父さん似である。

「ないっす、ないっす。ていうか私、他に好きな人いますし」

 二次元のな。

 事情を知るキタちゃんが俯いて笑いを堪えている。「えーだれだれ?」とキタちゃんのお父さんが身を乗り出して訊いてくる。女子高生か。

「剣術が得意で糖分大好きで普段はだらしないけどやるときはやる人です」

 キタちゃんが天元突破して咽ながら台所へと消えていった。

 警察官の皆さんはその人物像に感心していて、キタちゃんのお父さんは「リホちゃんに彼氏かあ…」と気の早いことを言っていた。いや、できることなら結ばれてみたいもんだが、二次元と三次元には超えられない壁が存在するんですよお父さん。

 ちなみに隣に座るじいさまはムスっとした顔で黙っていた。




 帰りはなんと星野巡査に送っていただいた。やったね!

 いい機会だから警察官の仕事について色々訊いてみた。いつか警察官モノを描きたいものだ。上司×部下は王道として、警察官×リーマンもいいな。ある事件をキッカケに近づく二人とか全国の警察官の皆さんすいません。

 しかしそんなヨコシマな私に神様は天罰を下しやがった。

「リホちゃんの好きな人ってアレだろ」

 バレました。

 星野巡査は漫画読む人でした。オタクじゃないです。

「すいません逮捕してくださいその代わり黙っててくださいお願いします」

「言わないよ。でも北川先生、ショック受けてたから誤解は解いておいたほうがいいぞ」

「おじさんが?」

「じゃなくて」

 じいさまが、らしい。

「あの鬼先生がリホちゃんと漫才みたいな会話してるの見て、俺たちがどれだけ驚いてたか分かる? リホちゃんは麗華ちゃんとはまた違った特別なんだなって俺は思ったよ」

「私、今日は三回も叩かれたんですけど。それも特別ですか」

「俺らなら拳骨だし」

 大切にされてるんだよ。

 そう言った星野巡査の笑みが、夕焼けに照らされてなんともいえない憂いを帯びていた。

 私はその顔を見て、初めて三次元の男の人に対し純粋に格好良いと思ったのだった。




 ちなみに自宅近くで兄と遭遇した。二人とも無言で睨みあっていた。

 実は兄と星野巡査の間には浅からぬ因縁があったのだが、そのときの私にはまだ知るよしもなかった。

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