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61、フーテンの虎吾郎

 カコォーンと小気味よく鳴る竹の音に肩が跳ねる。

 ……鹿威しなんて初めて見た。

「ちょっと待っててくれ。すぐに茶を持ってこさせるからよ」

 座卓を挟んで正面に座る倉崎さんへとぎこちなく頷き、もう一度外へと視線をやった。

 PC選びに付き合った私は、現在、倉崎さんの家にお邪魔している。

 少々強引に連れてこられた私が見たものは、高級住宅街にでんと立つ日本家屋。そこに至るまでに乗った車もすごかったが(なんと運転手つき)、まさに屋敷と呼ぶにふさわしい倉崎さんのお宅には度肝を抜かれた。

 そして屋敷もすごいが、庭もすごかった。おそらく百坪では済まないだろう敷地の半分は緑で、庭というよりも庭園といったほうがよさそうである。落ち葉ひとつとっても計算されて置かれているかのような立派な日本庭園は、今も植木職人が松の木に鋏を入れていた。

 みゆきさんの『倉崎さんはどこぞの大金持ち』発言は、どうやら正解であったようだ。

 玄関ではお手伝いさんらしき女の人に出迎えられ、荷物と上着をごく自然に受け取られてしまった。案内された客間からは畳のいい匂いがして、突然やってきたというのに花瓶には花が生けられていた。うちの家の和室と大違いだ。

「面白いかい?」

「えっ、あ、すいません」

 きょろきょろしていた自覚はなかったのだが、珍しいものばかりで視線が飛んでいたようだ。

「すごいお宅ですね」

「俺の趣味じゃねえんだが、リホちゃんに喜んでもらえたら何よりだ」

 倉崎さんは相変わらずキザなことを言って、私を苦笑させた。

「そういや最近、あの優男を見ねえが、どうしたんだ」

「優男? タモツ君のことですか?」

「名前は知らねえが、たぶんそいつだ」

 タモツ、タモツなあ。

 あいつはキャラの大崩壊を起こした日から、店に姿を現さなくなってしまった。みゆきさんには電話で「母が体調を崩して……」と言ってたそうだが、たぶん嘘だな。タモツ曰く、一週間くらいで復帰するとのこと。お前、一週間でキャラの修復できんのかよ。

「なんかショックなことがあったらしくて、休んでます」

「このまま出てこなくてもいいんだがな」

 倉崎さんはタモツが気に入らないようだ。タモツのほうも同じで、裏に引っ込むたびに「あのクソジジイ」と悪態をついている。従業員という立場上、面と言えないから余計に腹が立つのだろうが、帰りに私に八つ当たりするのはやめてほしいもんだ。

 何度目かの鹿威しが鳴ったとき、障子を隔てた向こう側に人影が映った。「失礼します」と若い男性の声が聞こえ、障子が横に引かれる。

「お茶をお持ちしました」

「ミノル」

 倉崎さんの意外そうな声に、ミノルと呼ばれた男性はにこりと笑った。

 彼はお茶とお菓子を手に客間に入ってくると、私に向かって丁寧に頭を下げた。私も這い蹲る勢いでそれに応じた。

「お前、何でここにいる」

「若い女性を連れ込んだと連絡が入ったので、間違いが起こらぬよう急遽参った次第です」

 彼の視線が倉崎さんからこちらに移る。若い女性って、私のことか。

 倉崎さんの不満顔をよそに、彼はお茶とお菓子を私の前に並べてくれた。「柿羊羹です。美味しいですよ」と微笑まれる。休日だというのにスーツ姿をした彼は、恐縮する私に優しく話しかけてくれた。

「会長がご迷惑をおかけしていませんか?」

「かいちょう?」

 倉崎さんを見ると、彼は苦虫を噛み潰したような表情で、ミノルさんを睨みつけていた。余計なことを言うな、という顔だ。

「俺の茶はどうした」

「ございませんよ。会長にはこれから行っていただかなくてはならない場所がありますから」

「はあ? 聞いてないぞ」

「またトボけて。会食の約束をお忘れですか?」

「あれは断ったはずだ」

「会社としては承諾いたしました」

 倉崎さんは鬼の形相で、ミノルさんは仏の笑顔で対峙した。

 その間、私は緊張感からお茶すら喉に通らなかった。羊羹好きなのに。

「……分かった」

 折れたのは、倉崎さんのほうだった。次いで申し訳なさそうな顔を私に向けてくる。

 大丈夫ですよ。このお茶と羊羹を食べたらすぐに帰ります。

 私が発言するよりも先に、ミノルさんが言った。

「里穂子さんのお相手は僕にお任せを。車を外に待たせてありますので、会長は着替えてそちらにどうぞ」

 え、帰してくれないの。

 見知らぬ他人と会話が弾むほど、私のコミュニケーション能力は高くない。困った表情を浮かべる私に気づいているだろうに、ミノルさんは笑みを保ったまま倉崎さんを立たせて会食とやらに向かわせようとする。

「あの、私、本当に帰りますので、」

「リホちゃん、悪いがここでミノルと待っててくれねえか」

 ええー、倉崎さんまでそんなことを。

 ここで『別の用事が~』と言えない私はお人よしなのか臨機応変に欠けるというか。まごまごしているうちに、二時間ほどで帰ってくるという倉崎さんに夕食の約束まで取り付けられ、ミノルさんと二人、客間に取り残されてしまった。

「さて」

 さっきまで倉崎さんがいた場所に座ったミノルさんは、居心地の悪さに縮こまる私を興味深げに見つめていた。

「自己紹介がまだでしたね。僕の名前は倉崎実。まあ、ミノりんとでも呼んでください」




 悠々と泳ぐ錦鯉にエサをやる私と、隣で見守るミノりん。倉崎さんが出かけてから、一時間後の光景である。

「ミノりんもやりませんか?」

「僕はけっこう。子供のころに散々やりましたので」

「そうですか。でも鯉のエサやりってなんか楽しいですよね」

「ええ。エサだと思ったらなんでも食べますからね。昔はよく食卓に出た嫌いな野菜をこっそりあげたりしていました」

 しかし後にバレて倉崎さんに張り倒されたらしい。「ブロッコリーも嫌々人間に食べられるより鯉に食べられたほうが幸せだと思ったのに」じゃないですよ、ミノりん。

「ちなみに里穂子さん。この池にいる錦鯉、最低でも五百万円はしますからね」

「ごっ!!」

「祖父の趣味というよりは、伝統産業を守る意味での購入だそうですが。まったく、金持ちの考えることは分かりませんね」

 ご、五百万、だと……。

 二万円のデジカメで死ぬほど頭を悩ました庶民とは大違いの金銭感覚である。

「わ、私ごときがこのお鯉様にお食事を差し上げてもよかったのでしょうか」

「おや。人間ひとりを成人になるまで育て上げるのにかかる費用をご存知ありませんか」

 まあ比べるものでもありませんが。ミノりんはそう言って、空になったエサ袋を引き取ってくれた。

「このまま庭の散策を続けますか?」

「はい、ご迷惑でなければ。こんな機会、滅多にありませんから」

「分かりました。でも寒くなったら言ってくださいね」

 倉崎さんがいなくなってどうしようかと思ったけど、話してみるとミノりんはとってもフレンドリーだった。

 彼の最初のボケを拾ったのが甲を奏したようだ。これまでにも数度トライしてきたそうだが「初対面の人間はほとんどが聞かなかったことにするんですよね」とミノりんは残念そうに呟いていた。分かります。ボケ殺しは大罪ですよね。

「そうだ、蔵を見てみませんか?」

「蔵もあるんですか」

「ええ。面白いと思いますよ」

 ミノりんに連れられて、敷地の隅に建てられた蔵を見に行った。陽が落ち始め、暗くなり始めた庭に、ぼんやりとした灯りが見える。あれかな。そう思ってミノりんを見上げると、彼は険しい表情を浮かべ、灯りの点った先を見つめていた。

「里穂子さん、ここから動かないでくださいね」

 何事かとおろおろする私を木の影にやんわりと押しやって、ミノりんは足音を消して蔵に近づいていった。

 まさか、泥棒?

 ここでボケっと突っ立ってていいのだろうか。通報したほうが……でも勘違いだったら迷惑だし、でも万が一泥棒だったら一分一秒を争う事態だし、ど、どうする私!

「誰かいるんですか」

 あああミノりん声かけちゃった!

 大丈夫なの。彼、見るからに荒事には向いてなさそうなんだけど。

 木にしがみつきながら、会話に耳を澄ませる。蔵の中から誰かが喋っているようだけど、はっきりとは聞こえなかった。

 やがて、ミノりんが大げさにため息をついた。

「質屋だって馬鹿じゃないんです。未成年が身の丈に合わない商品を持ち込んだら、門前払いか通報されるかのどちらかですよ。そんなことも分からないなんて、これだからお坊ちゃんは」

「う、うるせー!!」

 蔵の中から聞こえたのは、思ったよりも若い男の子の声だった。

 意を決して木の影から飛び出し、蔵の入り口に立つミノりんの背中に回った。

「このことはお祖父ちゃんに報告しますからね。たっぷり絞られなさい」

「ずっ、ずるいぞジジイにチクるなんて!」

「そのジジイの持ち物を売りさばこうとするガキなんて、柿の木に逆さ吊りにされるのがお似合いです」

 そんな沢庵和尚みたいなお仕置きを現代でもするのか。倉崎家、恐るべしだな。

 ミノりんの背中からこっそり蔵の中を覗き込むと、古めかしい電球がひとつだけ点いていた。薄ぼんやりとしたオレンジ色の灯りの下では、同い年くらいの男の子が怒った顔をして立っている。

 私の存在に気がつくと、彼はさらに表情を硬くした。

「そいつ、誰だよ」

「お祖父ちゃんの友達です」

「ダチ? ガキじゃねえか」

「君もね。お祖父ちゃんの大事なひとです、失礼は許しませんよ」

 ミノりんに厳しく言われ、男の子は一瞬怯んだ様子を見せたが、すぐに睨みつけてきた。蔵の中からはこちらの顔が見えなかったのだろう、その面を拝んでやると言わんばかりに身を乗り出してくる。

 そして彼は、女の子のような悲鳴を上げて、尻餅をついた。

 キャー、だって。可愛い。

 ……じゃなくてだな。驚いたのは私のほうだ。まるで幽霊にでも遭遇したかのような視線を向けられ戸惑っていると、ミノりんがまた特大のため息をついた。

「蔵だけじゃなくて、お祖父ちゃんの書斎にも勝手に入ったようですね」

 ぱくぱくと口を開閉する男の子の耳に、ミノりんの説教の言葉は届いていないようだった。恐怖に染まった顔は青ざめていて、見ているこっちが心配になってくる。

「コタロー、いつまでそうしてるんですか。早く立ちなさい」

「な、ど、そっ、」

「なんで、どうして、そいつが? 君に説明する義務はありません」

 指を差された私は、困惑する以外の術がない。もう何が何やら、誰か説明してほしいんだけれど。

 そろそろと立ち上がったコタロー君とやらは、私と目が合うとますます恐怖に侵された表情を浮かべた。

 ここは愛想笑いでもして私が無害であることを知らせたほうがいいだろうか。そう思って顔の筋肉を緩めた瞬間。

「うわぁああああ!!」

 私を突き飛ばし、彼は蔵を飛び出していった。

 ……私のスマイルを見て悲鳴を上げて逃げるなんてひどくね?

 それほどとっ散らかった顔ではないとは思ってたんだけどなあ。自分の顔を両手で触って確かめていると、ミノりんが頭を下げて謝ってきた。

「従弟が無作法をしました。ぶつかった肩は大丈夫ですか?」

「あ、はい。大丈夫です」

 従弟だったのか。

 彼が消えた庭の向こうはしんと静まり返っていた。

「蔵を見たら、客間に戻りましょう」

 ミノりんが腕時計を見て言った。倉崎さんが出かけてから、まだ一時間ほどしか経過していないが、彼が言うには「もうそろそろ戻ってくるはずです」とのことだった。

 その予想通り、蔵を見せてもらっている間に倉崎さんは帰ってきた。ミノりんと一緒に玄関まで迎えに行くと、スーツ姿の倉崎さんを見ることができた。

「わあ、格好良いですね」

 思わず褒めると、倉崎さんはいつものキザったらしい態度を忘れ、普通に照れていた。

「いい歳こいてなに頬を染めてるんですか」

「うるせーぞ、実。ちゃんとリホちゃんをもてなしたんだろうな」

「それはもちろん。ああでも、コタローが蔵で悪さをしてましたよ」

「ぬぁにぃ?」

 あのガキャア、と倉崎さんは凶悪な顔で怒りを露にしていた。スーツ姿と相まって、その姿はヤクザの親分みたいだった。

「電話して、明日来させるようにしろ。来ないようなら親子揃って出入り禁止だとでも言っておけ」

「承知いたしました」

 祖父と孫の会話には見えない、完全に上司と部下の会話だった。

 倉崎家の内情を少し垣間見たような気がして、私はできるだけ聞いていませんよという態度をとってみせた。

「リホちゃん、待たせちまって悪かったな。お腹は空いてないかい?」

 先ほどとは打って変わって、倉崎さんが優しい顔で尋ねてくる。時間は午後六時を回っていて、空腹といえば空腹だった。でもすぐに夕食となっては、会食から帰ってきたばかりの倉崎さんはろくに食べられないだろう。

 空気を読んで、空腹を否定しようとした私だったが、彼のほうがずっと上手だった。

「俺はもうペコペコよ。会食だが、たいした量が出なくてなあ。リホちゃんはどうだい?」

 バイト先では一番ボリュームのあるメニューを頼む彼は、それをいつもペロリと平らげてしまう。お腹が空いているというのは本当なのだろう。

 でも今のはきっと私に気を遣って言ってくれた。

 なんとなくそんな気がして、さすがだなあ、と思うと同時に、自分はまだまだ大人には適わない子供なのだと自覚した。

「はい、私もペコペコです」

「そりゃ大変だ。早いとこ用意しねえとな。おう、ミノル」

「はい」

 ミノりんがスーツのポケットからスマホを取り出した。

「リホちゃん、寿司は好きかい?」

「はい、好きですけど、」

「じゃあ決まりだ。ミノル、手配してくれ」

「かしこまりました」

 ミノりんが電話している間に、私と倉崎さんは客間に移動した。ふたりきりになると、倉崎さんはさっきみたいにちょっと照れた様子で言った。

「なあ、リホちゃん」

「なんですか?」

「あー……そのよぉー」

 煮え切らない態度で視線を泳がせること数十秒、やがて彼は恥ずかしそうに切り出した。

「俺のこと、『虎さん』って呼んでくれねえか」

「はあ、」

 彼のフルネームは倉崎虎吾郎という。

 愛称で呼ぶくらい、別に構わなかった。

「虎さん」

「……おう」

 もう一回。そんな視線を受け、私は応える。

「虎さん」

 彼は皺の刻まれた顔をさらにくしゃくしゃにして、まるで十代の少年のような顔で笑った。

 それからおよそ半時間後、私はとんでもない光景に目を剥いていた。

「リホちゃん、好きなネタを頼んでいいからな」

 ご機嫌な虎さんの声が耳を通り過ぎていく。

 あのね、私ね、出前だと思ってたよ。

 それがまさか、寿司が来るんじゃなくて、寿司屋の大将と弟子がネタとシャリを持って出張出前に来るなんて、想像すらできなかった。

 何これ、まるで世界が違う。これがあれなの? 異世界トリップってやつなの?

 あまりのスケールの違いに呆然としながらも、目の前に並べられていく握りたての寿司の魅力には抗えなかった。

 とろける大トロ、超美味しかった。




 倉崎家にお邪魔してから、今日は最初のバイトがある夜だった。

 いつもどおりに仕事をこなし、夜九時過ぎに店を出た。

「リホちゃん、大通りを使って帰るのよ」

「はい。お疲れ様です」

 帰りに携帯を開いたら、兄からの着信履歴がいくつか入っていた。リダイヤルしてみると、ワンコールで出てびっくりした。

『お前、今どこだ?』

「どこって、バイト先出たばっかりだけど」

『戻れ。それか近くのコンビニにいろ。迎えに行くから』

「えぇ~、いらないって」

『いいから言うこと聞け』

 兄がこんなことを言い出すのは初めてのことではなかった。

 夜のシフトを入れだしたころから帰りが遅いのを気にしだして、ついには先日、まあタモツが醜態を晒した日だが、いつもの時間になっても帰ってこない私に痺れを切らして迎えに来たというわけだ。

 ありがたいんだけど、大げさなんだよなあ。

 兄の心、妹知らず。でも寒いし、迷惑かけちゃうし、私は平気だし。

「いいよ。すぐ帰るから」

『リホ』

「……分かりましたよぉ」

 電話口の向こう側から怒りが漏れ出すってどういうことだよ。

 私は渋々了承すると、ここから一番近いコンビニの場所を告げ、通話を切った。

 ついでだし、コンビニ限定のお菓子でも買って待っていよう。明日はバイトもないから、漫研の部室に行って皆で食べるのもいい。

 遠くのほうにコンビニの明かりが見えたころ、それは起こった。

「いだぁ!!」

 急に腕を引っ張られ、スッ転んでしまった。何、何事。

 あ、私の鞄。

 地面に投げ出された鞄に手を伸ばす。

「よこせ!」

「はぁああ!?」

 誰だよ、お前っ。

 なぜか見知らぬ他人が私の鞄を奪おうとしている。咄嗟に鞄に抱きついて阻止すると、向こうも負けじと持ち手を掴んで引っ張った。

 ふざっけんなよ! そん中にはキタちゃんから借りたBL小説が入ってんだよ! 帯には編集渾身の煽り文句が踊ってんだよ! それを見られるくらいなら私は戦うぞコラァ! オタクなめんなぁあああああ!

「クソっ、この!」

「痛い痛い痛い!」

 鞄を引っ張るだけでなく肩までゲシゲシ蹴ってくる。てめっ、やめろっ、この制服、クリーニングに出したばっかなんだぞ!

「あっ」

 力負けしたのは私のほうだった。鞄から引き剥がされ、地面に転がる。そのとき遠くのほうで複数の人間の声がした。

 相手は舌打ちすると、私の鞄を抱えて走り去っていった。キタちゃん、ごめん。小説は買って返すから……。

「おい君、大丈夫か?」

 顔を上げると、サラリーマンらしき男性が心配そうに覗き込んでいた。

 心臓がまだドキドキいってる。あれだけ勇ましく応戦していた私は、今になって急に怖くなった。

「ああ、ほら、もう大丈夫だから、な?」

 優しい声をかけられ、ますます心が弱くなっていく。浮かび上がった涙を流すまいと、必死に瞬きを我慢した。

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