5、君の笑顔にカンパイ!
主にBL漫画ばっかり描いている私だが、ノマカプや性転換なども大好きである。キタちゃんには節操がないと言われるが、広く深くがモットーだ。
「主人公、こんな感じでどう?」
「銀髪?」
「ううん、白髪」
「ベタ塗りめんどいだけでしょ」
「バレたか」
キタちゃんとタッグを組んだオリジナル漫画の制作が今のメインである。
舞台は架空の日本。和風ファンタジー。妖怪とか陰陽師とか式神とか。題材はよくある感じなんだけど、そこはキタちゃん、独自の色を出してくる。
漫画の原作ってどうやればいいのか分かんないと言ったキタちゃんは小説を書いてきてくれた。それを読んで私号泣。二次もそうだが、泣かせやがる。
キタちゃんの小説は読んでいると情景が浮かびやすい。私の頭の中で登場人物たちに色がつき動き出す。絵にするのは早かった。
「なんか脇役のキャラのほうが力入ってるように見えるのは気のせいなの」
「いや、まあ、」
「いいけどね。書いてる途中であんたの好きそうなキャラだとは思ったけど」
キタちゃんは私のことなどお見通しであった。
だってだって主人公の幼馴染で飄々としてて関西弁で、ってこれで萌えずにいられるか、否、ない。BL漫画ではないのだが、彼の主人公へと注ぐ目をイヤらしく描写してしまいそうだ。
「あ~完成が楽しみ~。キタちゃん、直してほしいところはばんばん言ってね」
「漫画に関してはあんたの好きにしていいのに」
「ううん。私ね、キタちゃんの小説の雰囲気っていうか空気をさ、完璧に漫画で表現したいんだ。今の私じゃ力不足なのは分かってるけど」
「……私もリホの描く漫画の雰囲気好きだよ」
「キタちゃん……!」
滅多に人を褒めないキタちゃんが視線を落として恥ずかしそうに言っている。
そんなことされたら私、
「萌えr」
「先輩たち、部室で百合はやめてください」
「来たなメグっぺ! えぇい邪魔だ、私は今からキタちゃんと愛し合うのだ!」
「園田今日はパンなんだ」
「無視!」
と、茶番はここまでにしておいて現在昼休みである。あと三十分しかない、ごはん食べなきゃ。
「メグっぺ、玄米茶飲む?」
「いただきます」
部室には紅茶緑茶玄米茶が常備されている。他にも部員のお気に入りの茶葉やコーヒーが棚にあって、名前がなければ好きなときに飲んでいいことになっていた。
お昼ごはんはいつも部室で食べているわけではないが、今日みたいにクラスの違うキタちゃんと示し合わせてくる場合もある。
一年生のメグっぺこと園田めぐみは、いつも部室に来て昼ごはんを食べていた。教室で友達と食べないの、なんて野暮な質問は誰もしない。空気の読めない五味が言いかけていたが、そこは空気の読めるマリちゃんが光の速さで黙らせていた。
クラスに馴染めないのかもしれない。単に一人が好きなのかもしれない。
メグっぺを見ていると、自然と私は去年のことを思い出す。
高校一年生のとき、私は中々友達ができなかった。色んな中学から生徒が集まってくるし、運よく同じ中学の同じクラスだった子がいればいいけど、それもなくて私は孤立してしまった。
自分から話しかけて友達をつくるスキルがあればいいものの、名前も趣味も知らない相手になんて怖くてできない。話しかけられれば普通に話し返せるけど、内心はビクビクしていてあまり会話が長引かなかった。
そんな私に友達ができたきっかけは、キタちゃんだった。
家は道場、中学三年間は学級委員長だったキタちゃんの顔は実に広かった。席に座ってるだけだった私に知らない子たちが話しかけてきてくれたのは、キタちゃんのお陰だった。
「先輩たち、二人で漫画描くんですよね」
「あ、うん、そうだよ。世界のキタガワが原作ですよ!」
「できたら読ませてくださいね」
ん? 私、先輩なのにな、あしらわれてるな。
まあいいだろう。食べながらだけど、描いたキャラクターを見せてみた。
「メグっぺ、どう思う? 忌憚のない意見を聞かせてくれたまえ」
から揚げにお箸をぶっさし口に運ぶ。昨日の夕食の残りなだけあってけっこう固い。なんとか一個食べ終わったとき、メグっぺが言った。
「ヒロイン、薄いというか、特徴ないのはわざとなんですか」
「あぁうん、今回の話、ヒロインあんまり動かないんだ。一般人というか、ええと、キタちゃん、なんて言えばいい?」
「ヒロイン以外のキャラがけっこう濃いからね。存在感は薄く設定してる。主人公引き立てたいし」
「なるほど」
メグっぺは思ったことを割りとぽんぽん言う子なのでこういうときとても助かる。編集者に向いてるんじゃないだろうか。
「原稿、手伝ってね」
「はい」
完成、楽しみですね。
メグっぺは、はにかんだ笑みを浮かべながらそう言った。
やっべ、メグっぺ萌えるんですけど。肌白いからな、赤くなったらすぐ分かるんだよな。クラスの子達はそういうの知らないのか、なんかもったいないな。
「園田気をつけろ、リホが人間的にダメな顔してあんたを見てる」
キタちゃん、他の言い方でお願いします。