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26、一、二、一、二

 体育祭に向けて学校全体が準備に奔走していた。

 美術部のちよちゃんは入場門のアーチを作ってるし、応援団員の子達は必死に振り付けを覚えている。イヤなのは体育教師がいつもより気合が入っていることだ。

 本日、赤組の二人三脚メンバーは旧体育館前に集合である。体操服に着替えた私は真柴さんと一緒に集合場所に行った。

「笠野来てないじゃん」

「あれ、聞いてない? 笠野、騎馬戦に行ったよ」

「はぁ? なにそれ」

 なんでも部活のライバルから騎馬戦での勝負を申し込まれたらしい。代わりに騎馬戦のメンバーから二人三脚に誰かが移ってくるのだが、その誰かはまだ分からないと酉谷君は言った。

「ったく、勝手なやつ」

「誰でもいいけど、時間やばいよ」

 代わりの子はまだ来ない。というか本当に来るんだろうか。

 いや待てよ、相手がいなけりゃ私練習しなくてもいいじゃん。よーいドン係だやったね!

 しかし私の野望は二秒で終止符を打たれた。

「ごめんお待たせ!」

 やってきた男子を見て、赤組女子が嬉しそうな声を上げた。

「吉村、よろしくな」

 イケメンスマイルを浮かべてやって来たのは、お隣の岩迫君だった。




「さっちゃん、内側の足からな」

「分かった、やっちゃん」

 美男美女カップルがいる。

 私たち赤組のメンバーの視線はひとつのカップルに釘付けになっていた。

 我等が漫研部長、ドイツ出身の幸子部長とテニス部部長の香坂先輩である。

 さっちゃんやっちゃんと呼び合う二人は幼馴染だった。しかも息はピッタリ。足が繋がれているとは思えない速さでトラックを爆走している。

 あの二人がいたら一位確実だろ…私たち練習いらないんじゃね。

「吉村、足結んでいい?」

 やっぱりやらないわけにはいかなった。

 赤いハチマキで二本の異なる足が結ばれるのを見下ろしながら、私は神谷が手を繋いできたときのことを思い出していた。

 あのときと同じ気恥ずかしさがある。真柴さんの言うとおりだ、いかんよこういうのは。

「よし、行こうぜ」

「う、うん」

 二人三脚、それは密着する競技である。二人が一体とならなければならないので、肩を組むのは当然だった。

「うわっ」

「な、なに、どうしたの岩迫君」

「吉村、肩ちっちゃい!」

「普通だと思うけど……」

「なんか緊張する、うわー俺、顔赤くなってない?」

 なってますとも。

 やめてこっちまで赤くなっちゃうから落ち着いて! ていうか岩迫君、今までに女の子の肩くらい抱いたことあるだろ。なに今さら驚いてんの。ここは余裕ぶっこいてくれないとこっちが困るんだけど。

「お前らなにしてんだ」

「見てるこっちが恥ずかしいからやめてくれる?」

 酉谷・真柴ペアに注意されるほど私たちは狼狽えていた。

「相手はイモかカボチャかぐらいに思っときゃいいのよ」

「だそうだ」

 実に堂々たるペアである。

 私たちは赤い顔を見合わせて苦笑いした。

 そして練習開始から三十分。

 私は自分の運動オンチぶりを呪っていた。

「ごめんね、ごめんね」

「そんなに謝んなよ。まだ一回目だろ」

「本っ当にごめん」

 ていうか私体力無さすぎだろ。すぐに息が上がって足が縺れてしまう。

 二人一緒に何度か転んでしまって、私はこれ以上はないくらいにいたたまれない気持ちになっていた。

「ちょっと休憩しよう」

「うん……」

 間違いない、赤組のウィークポイントは私だ。

 どんより落ち込む私の隣で岩迫君が励ましてくれるけど、駄目なもんは駄目である。当日は罵声を浴びるんじゃないかという妄想にまで及んで、重いため息が出る。

「そんな落ち込むなよ。完璧な人間なんていないんだからさ」

「運動できないって致命的じゃん。自然界じゃ生き残れないよ」

「吉村は頭いいだろ。俺はそっちのほうが羨ましいよ。それにさ、吉村は嫌かもしれないけど、俺はけっこう嬉しいな」

「なにが?」

「だってやっとお前に恩返しができるんだぜ。数学とか教えてもらうとき、俺も今の吉村みたいに心の中じゃ何度も謝ってた。俺、バカだから一回の説明じゃ理解できないだろ。でも吉村、何回でも丁寧に教えてくれるじゃん。だから謝るなよ。何回でも練習に付き合うからさ。頑張ろう、な?」

「岩迫君……!」

 なんて良い子なんだ。天然記念物として国はこの子を保護するべきだね。

 最近の若者は、なんて言ってるけどここにとびきり素敵な若者がいますよ。

「そろそろ休憩終わり。やれそう?」

「うん」

 もう迷いはなかった。

 私たちは立ち上がって練習を再開することにした。


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