幸せな誕生日
父のエスコートで大広間に入る。
私の4歳の誕生日なの。
今日は近しい人だけのパーティー。
家族や、家に仕えてくれる使用人・騎士諸々。
後は父達の本当に親しい友人が何名か。
普通使用人とかは………って思うでしょ?
彼らだって貴族家の子息子女だし、
執事長なんか伯爵なのよ。メイド長は子爵夫人。
何で貴族なのにそんなことをするかって?
執事長の家はそういう家柄なの。
騎士を多く輩出する家があるように、
他家に仕える事を信条とした家がある。
多くは公爵領内に住む貴族が領主の家に仕えるのよ。
メイド長の場合はちょっと違って、
祖母の伝手で父の乳母になった後メイド長として働いて貰ってる。
有能な人材は逃すな…ってね。
貴族ではない使用人や騎士もいるけど、
実力があれば雇い入れるのが家の方針だから、
このパーティーに参加する権利は大いにあるわ。
今日はそう、近しい人だけ。
明日は午後から領民を庭園に招くちょっとした挨拶会。
明後日が一番盛大なパーティーになる。
帝国主要貴族が一堂に会する程の規模なの。
誕生日は、通常はカードや贈り物をする程度。
子供の4歳と5歳になる誕生日だけは盛大に開催するの。
4歳になる時に死を迎えぬように、
5歳になって死を越えるように祈りを込めて。
4=死…と言う意味ではない。
そして別に死ぬ事を忌避しているわけでもない。
魔力が不安定で、一番体調を崩しやすい年齢なのだ。
命を落とす子供も、決して少なくないわ。
そして5歳を過ぎたら、殆どの子が安定する。
魔法国家に住む者が、
己の魔力に殺される事が無いように願うの。
たくさんのお祝いで、祈りで、守られるように…と。
皇族は、子供が5歳の年に祝うので参加はしない。
だから彼らは通常の誕生日と同じようにカードのみ。
5歳の年の内容は追々ね。
さて、今日のパーティーに話を戻しましょう。
私とお父様は広間奥の壇上に上がる。
お父様が挨拶をされるわ。
「本日は、娘の生まれた日に集まってくれて感謝する。
この場で酒は出せないが、食事は楽しんで欲しい。
娘の、クリスティナの健康を祈って。グラスを持て。」
父の挨拶に合わせて皆がグラスを手に持つ。
手に持っているのはシャンパングラス。
中に入っているのは………ジュースや紅茶。
それぞれ好きなノンアルドリンクで乾杯するのだ。
「クリスティナ、乾杯を。」
父に促され、1歩前に出る。
「本日はありがとうございます。
皆様、どうぞお楽しみ下さい。乾杯!」
────かんぱーーーーい!!!────
私の合図と共に、皆がグラスを掲げた。
壇上の私達がグラスに口を付けたのを合図に、
皆も飲食を開始する。
私とお父様も壇から下りて、家族の元へ向かう。
「お母様!私上手く出来てましたか?」
「えぇ立派だったわ。
スレンディルも今日はとても大人しくて。
きっとお姉さまをしっかりお祝いしたかったのね。」
「そうなんですか。
本当、こんなに人が居るのに珍しくぐっすりね。」
弟は、母の腕の中でぐっすり眠っていた。
まさに天使の寝顔よ!
母は弟を生んで日がまだ浅いわ。
産後の肥立ちは悪くはないらしいけど、
体力の低下が少しあるそうなの。
そして弟には乳母がいないので、母の手で世話をしている。
メイドも世話はするけど、基本は母なのだ。
貴族の子を守るためにも乳母ではない他人に
全部を任せる事はどの家でもやらないの。
探してはいるらしいが、なかなか見つからないそう。
優秀な夫人達はもう既に他家の乳母となっていた。
両親曰く、私があまり手がかからなかったために
乳母を探す事を忘れていたらしい。
まったく失礼しちゃう!
私のせいにしないで欲しいわ!
何度も死に戻っている私だけど、
赤ちゃんの時は記憶がない。と言うか自我がない。
横着をしたお父様達が悪いのよ!!
お母様やお兄様お姉様への挨拶もそこそこに、
私は料理を取りに行く。
家の料理長の料理は世界一だもの。
私の目的はもちろんスイーツ!
幸せを運ぶ食べ物なのよ!
私の処刑まで………後、16年。
本作の乳母は、世話係・養育係の立ち位置とします。
公爵家の子供を世話するためには、
マナーや教養がしっかりしている人間を選ぶ必要があるのです。




