目覚めの追憶
私が何度も繰り返すのは、魔法が存在する世界だった。
遠い遠い昔の記憶は、もう殆ど思い出せない。
今は全く見ないビル群。それだけは印象的だった。
死んだのは……なんだったかな。
そうトラックに轢かれたの。
覚えてるのは…本当にそれだけ。
当時の名前・姿・家族・暮らし、何もかも。
でもきっと、遠い過去の私は楽しかったのだ。
初めてこの世界で目覚めた時の事は強烈に覚えてるから。
絶望だった。帰りたかった。
当時はまだ覚えていた家族の元へ。
やりたい事がまだまだあったのに。
夢も叶えられずに終わったのだ。
…………まぁ、薄情な私はもうそれも思い出せないが。
それが、私が初めて死んだ時の話。
普通死ぬのって一回じゃないかしら?
新しく生まれ落ちた世界に慣れるのは大変だった。
魔法もマナーも貴族制度も。
完璧に慣れるまでに3回くらい死んだかしら。
あら、4回?5回?忘れたわ。
………イカれてるわね。自分でも思うわ。
でもね、仕方がないでしょう?
何回死んだと思ってるの?………実は私もわからないの。
10回までは、数えてた。死なない方法を模索した。
そこからは……流れに逆らわず生きた。そして死んだ。
何度も……何度も。
たくさん…たくさん試したのよ。
でもダメだった。だから終わらない物語だと思うようにした。
おとぎ話には終わりがあって、また"昔々"と始まるの。
そうしたらね、死ぬのもそこまで嫌じゃなくなった。
私の物語の終わりが、あの処刑の日ってだけ。
私の物語の始まりは、オギャアと生まれた日。
死んだらまた始まりに戻るだけだもの。
戻らなかったらそれはそれで良い。やっと終われる。
処刑される事が決まってる物語なんか、出来るなら終わってほしいもの…。
あら。間違わないでね、死にたいわけじゃないのよ!
生きられるなら……そうね、処刑の日より先を生きたいわ。
酷い最期より、やっぱり穏やかな最期の方がいい……。
死にすぎて、生きすぎて、合計の年齢は……数百歳かしら。
20歳を越えた頃に死ぬから、10回で200歳。アハ。
10回以降は数えてないもの。数百歳、千はさすがに……よしましょう。
もうすぐ私の4歳の誕生日なの。
公爵家令嬢としてふさわしいパーティー衣装を選ぶ日。
…………もうどれも飽きたわ。全部着たもの。
そういえばもうすぐ来るわね、おマヌケメイドのメリアが。
部屋を蹴破りながら転ぶのよ。これは何回見ても飽きないわ。
…………ほら、ドタドタ聞こえてくる。
公爵家のメイドは貴族令嬢しか勤められないのに。
品は無いけど、それがまた新鮮なのよ。
さぁ、来たわ。
「お嬢さ、まぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
────ドン、ガシャァン、パリィーン
そして私はこう言うの。
「騒々しいわメリア。メイドの矜持はどうしたの?」
「お"じょうざま"、申し"訳ございま"せ"ん"」
泣きながら謝罪を述べるメリア。
泣かなくたっていいのにね。
ずっと泣かせてても良いんだけど、
私が苛めたみたいになるから止めておく。
「もう下がっていいから着替えてらっしゃい。
ジーナを代わりに寄越して頂戴。
話があるからちょうどいいわ。」
ボロボロな姿で礼をして行くあの子を見て、
平和で幸せな時間だなぁって実感するの。
どうせまた執事に叱られるんだわ。
これが私、クリスティナ・グローリアの物語。
束の間の穏やかな日常。……繰り返す死へと続く道。
クリスティナ・グローリア
グローリア公爵家令嬢 女主人公
メリア
おマヌケメイド。いい子(アホな子)
ジーナ
メイド長。執事と一緒にメリアを叱るのが日常。
メイドの矜持 1,淑やかに 2,優雅に 3,恭しく
(心構えみたいなもの)