大好きな人
全てが終わって夢から醒めた、ある王様の哀哭
10歳の時に見かけた彼女。
花のように可憐な人。
………俺の、初恋の人。
避暑に訪れた先で見つけた花畑。
道に迷った訳ではないが、花の匂いに誘われた。
一つ一つの花は小さいが、とても綺麗に咲いていた。
木陰で君は眠っていて、誰かを待っているのだろう。
邪魔をしないように遠くで見てた。
彼女の待ち人が現れた。
2人は並んで木陰に座る。幸せそうに笑い合う。
羨ましくて悔しくて、2人から目を反らす。
目を反らす瞬間に見えた彼女の顔は、
とてもとても綺麗だった。
今日は妻だったモノの処刑の日。
広場は大盛り上がりだ。
皆が望んでいるのだ。人の皮を被った悪魔の死を。
あいつは人なんかじゃないのだ。
国庫を逼迫させ、
国民の血税で贅の限りを尽くし、
気に入らない者は容赦なく断罪する。
そして何より、俺の最愛の人を傷つけた。
なぜあんなモノを王妃として迎えたのか……。
当時の自分を罰してやりたい。
犯した罪は償うべきだ。責任を持って処刑せねば。
これで俺の罪も償える。
最愛の人と結ばれる。
家臣が罪を読み上げる。聞くに堪えない数々の罪。
広場の熱気は最高潮。
邪悪な王妃、極悪非道、悪魔の手先と罵声を浴びせる。
殺せ、殺せ、償え、償え…と。
あの悪魔はただ前を見つめ、無表情のままそこにいた。
あの悪魔の死を惜しむ者などいるものか。
そんな奴がいたら目を醒まさせてやらねば。
見てくれだけは極上の薔薇だから。
ついにその時が来るのだ。待ちわびた時が。
この世から悪魔が消えるのだ。
やっと………。やっと…………。
───シャキン……ゴロゴロゴロ……。
?????
広場静まり返った。何が起きたんだ?
何かを……処刑した………。首が……転がった………。
妻の……王妃の……首だった。
あれは男か?
無惨な姿の彼女の首を、誰かが抱きしめ泣いている。
それはお前の役目じゃない!!俺の役目だ!!
俺が抱きしめてやらねば…………俺が殺したのに?
なぜこんな事………彼女は何をした?
城下を回って国民と触れ合い、問題解決に勤しんだ。
過去に類を見ない、美しく優しい王妃だった。
なぜだ。なぜだ!なぜだ!!なぜだ!!!
彼女が死んだ…………初恋の……人………。
彼女は……俺の………初恋の人………!
──あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!
俺が殺した!愛する人を!!
いくら叫んでも、もう彼女は応えない。
隣にはごちゃごちゃ喚く女。吐き気がする。
最愛の人だと?そんなわけがない。
俺の愛する人は……物言わぬ彼女………。
夢から醒めたようにぼんやりしている。
国民達も呆然としている。
隣の女が何かをしたらしい。
あの女が死んだら幸せになる筈なのに…と。
隣の女に、俺自身に反吐がでる。
時は戻らない。命はもう、戻らない。
俺が"何度も"殺した愛しい人……。
大好きな…大好きな人………。
広場は光で包まれた………。