胃弱の聖女様
私は胃が弱い。
人よりちょっとだけ――いや、ごめんうそ。
かなり弱い。
脂っこい揚げ物や焼肉はアウト。辛いカレーもアウト。冷たいビールもアウト。ラーメンもアウト。
なのに飲み会に行けば「ほら、若いんだから食べなよ!」と勧められる。断れない私は一口食べて、即「うっ……」と青ざめる。
下痢止めに胃薬、整腸剤は常にカバンに入っている。
これがないと社会人生活なんてとても続けられない。
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その日も会社の飲み会で唐揚げとビールを断れず、帰宅する頃には胃がキリキリ。唐揚げにレモンなんてかけてもかけなくてもどっちでも良い。無理やり食わそうとしないで欲しいものだ。
「もうムリ」とベッドにダイブした瞬間、視界がぐるんと回った。
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気づけば、石畳のような場所に座っていた。
物々しい雰囲気で鎧姿の兵士やローブを着た人々が私を囲んでいる。
「召喚は成功した!」
「聖女様が降臨なさった!」
「いや…あの…私胃が痛いんですけど」
青い顔でお腹を押さえると、人々は感極まった表情でひざまずいた。
「なんと!聖女様が邪をその身に受け止めておられる!」
「尊き犠牲だ…!」
「いや…ただの胃痛だから!!」
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それからというもの、ことあるごとに胃弱体質が誤解された。
宴で料理を勧められ、一口で「うっ」と青ざめる。
→ 「聖女様が毒を見抜かれた!」
辛くて脂っこいスープを飲んでトイレに駆け込む。
→ 「穢れを流し、浄化なされた!」
我慢できずゲップをしてしまう。
→ 「瘴気を正常化なさった!」
「いやいや、全部ただの胃弱だから!!!」
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そして、ある日のこと。
国境近くの森で魔物が暴れ、黒い瘴気をまき散らしていた。兵士たちは倒れ、ローブの人々は祈るばかり。
そのとき私の胃に、かつてない激痛が走った。
「うっぷ……やばい、立ってらんない……」と膝をついた瞬間、胃の奥がぎゅるりと鳴る。
目の前の瘴気が、少しずつ薄れていく。
魔物が苦しげに呻き、そのまま地に伏した。
「……え?」
「聖女様が瘴気を浄化なされた!」
「やはり全てをその身に受けてくださっていたのだ!」
「……ちょっと待って。え、私、ほんとに?」
胃の痛みはすっと引いていた。
瘴気も、もうどこにもない。
「いや本当だったんかい!!!」




