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トンチキ異世界の短編集

胃弱の聖女様

掲載日:2025/08/30



私は胃が弱い。


人よりちょっとだけ――いや、ごめんうそ。

かなり弱い。


脂っこい揚げ物や焼肉はアウト。辛いカレーもアウト。冷たいビールもアウト。ラーメンもアウト。

 

なのに飲み会に行けば「ほら、若いんだから食べなよ!」と勧められる。断れない私は一口食べて、即「うっ……」と青ざめる。


 

下痢止めに胃薬、整腸剤は常にカバンに入っている。

これがないと社会人生活なんてとても続けられない。




ーーー



その日も会社の飲み会で唐揚げとビールを断れず、帰宅する頃には胃がキリキリ。唐揚げにレモンなんてかけてもかけなくてもどっちでも良い。無理やり食わそうとしないで欲しいものだ。


「もうムリ」とベッドにダイブした瞬間、視界がぐるんと回った。



ーーーー



気づけば、石畳のような場所に座っていた。

物々しい雰囲気で鎧姿の兵士やローブを着た人々が私を囲んでいる。


「召喚は成功した!」

「聖女様が降臨なさった!」


「いや…あの…私胃が痛いんですけど」


青い顔でお腹を押さえると、人々は感極まった表情でひざまずいた。


「なんと!聖女様が邪をその身に受け止めておられる!」

「尊き犠牲だ…!」


「いや…ただの胃痛だから!!」


ーーーー



それからというもの、ことあるごとに胃弱体質が誤解された。



宴で料理を勧められ、一口で「うっ」と青ざめる。

 → 「聖女様が毒を見抜かれた!」


辛くて脂っこいスープを飲んでトイレに駆け込む。

 → 「穢れを流し、浄化なされた!」


我慢できずゲップをしてしまう。

 → 「瘴気を正常化なさった!」


「いやいや、全部ただの胃弱だから!!!」


ーーーー



そして、ある日のこと。

国境近くの森で魔物が暴れ、黒い瘴気をまき散らしていた。兵士たちは倒れ、ローブの人々は祈るばかり。


 

そのとき私の胃に、かつてない激痛が走った。

「うっぷ……やばい、立ってらんない……」と膝をついた瞬間、胃の奥がぎゅるりと鳴る。


 


目の前の瘴気が、少しずつ薄れていく。

魔物が苦しげに呻き、そのまま地に伏した。


「……え?」


「聖女様が瘴気を浄化なされた!」

「やはり全てをその身に受けてくださっていたのだ!」


「……ちょっと待って。え、私、ほんとに?」


 胃の痛みはすっと引いていた。

 瘴気も、もうどこにもない。




「いや本当だったんかい!!!」


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