第8話「スーパーまるかみ、妖精に甘くなる」
異世界に来て、もうすぐ一ヶ月半。
太陽と月のダブル出演にも、そろそろ愛着が湧いてきた今日このごろ。
スーパーまるかみ、今日も開店準備完了。
バックヤードの冷蔵庫も異常なし、唐揚げは揚げたて、プリンも補充済み。
「よし、いらっしゃいま――」
言いかけたところで、自動ドアがスッと開いた。けど、足音がしない。
「……?」
誰もいない……かと思ったら、視線を少し下げると、そこにいた。
ふわふわと浮かぶ、小さな影。
身長は人間の子どもの半分ほど、透き通るような薄緑の髪に、きらめく羽。そして、抱えてるのは――でっかいマシュマロ、何故?
「お、おはようございます……いらっしゃいませ?」
「こんにちはー! わたし、リリルル! 森の湖に住んでる妖精よ!」
まぶしい。声がキラキラしてる。
テンションもテンポも高すぎてついていけないけど、愛嬌だけはすごい。
「うわぁ……ほんとにお店だぁ……! 甘いにおいがする〜! いいにおいがする〜〜!」
リリルルと名乗ったその妖精は、店内をふわふわ飛び回りながら、お菓子コーナーをガン見していた。
「これなに!? くっきー!? これは!? めれんげ!? これはぷでぃんぐ!? あああっ、おもち!? きゃーっっ!」
ひとつひとつの説明にいちいち反応してくれる。語彙力が高いのか低いのかよくわからんが、少なくとも大興奮なのは伝わる。
「い、いかがなさいますか……?」
「あるもの全部ください!!」
「だめです!!」
無邪気すぎる注文に、思わず即座に突っ込んでしまった。
でもまあ、その気持ちはわかる。今日の入荷、スイーツ系多めだったし。
「じゃあ……しぼるぅ……えーっと、これと、これと、これと……ううーっ、三つだけ! 三つにしとくぅ!」
「すごい理性だ……」
選ばれたのは、チョコレートマカロン、カスタードプリン、そしていちごジャムサンドクッキー。
わかる。どれも間違いない。
「お会計、銅貨3枚になります」
「はーいっ!」
ちいさな手(?)でがんばって銅貨を出す姿は、もう反則級のかわいさだった。
こうしてスーパーまるかみに、甘党妖精族の新たな常連候補が誕生したわけだが――
「これ、ほんっとにぜんぶ甘くておいしい……人間って天才なのね……っ!」
レジ横のイートインベンチでマカロンをほおばりながら、リリルルさんはうっとりしていた。
その姿を見ていたガンドルフさん(通りすがり)がぽつり。
「……我が鍛冶場にも、これを導入するべきか」
「導入って、何を……?」
「“おやつ休憩”だ」
「……ガンドルフさんの場合酒盛りになりませんかね?」
ラッカさんは「やっぱ妖精は甘いもんに目がないんだな!」と言いながらいつも通りコロッケを手にしてたし、ミリエラさんは「その体で甘味三つも入るの不思議よね?」とコメントを残つつ今日も茶葉を追加購入して行った。
リリルルさんは、ひと通り食べ終えたあと、目をキラキラさせながら言った。
「またくるー! つぎは“しょーとけーき”ってやつたべるー!」
ショートケーキはまだ仕入れてない。が、なんだかこのままじゃ近いうちに導入することになりそうな気がする。
「いらっしゃいませー!」
スーパーまるかみ、甘党妖精も虜にして、今日も元気に営業中です。
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