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第7話「スーパーまるかみ、商人の来訪」

 異世界に来て一ヶ月と数日。

 空には今日も安定の太陽と月の同時出演。

 もはや突っ込む気力もない。照明2つ付きの舞台で働いてるようなもんだ。


 そんな異世界スーパーマーケット・スーパーまるかみには、今日も常連たちがやってくる。


「唐揚げとハイボール缶、あとあのピリ辛のつまみ! あれは良い!」


 ガンドルフさん、朝っぱらから全力。毎度ありがとうございます。


「店長! 新しいカップ麺、入ったってチラシに書いてあったぞ!」


「いや誰が書いたんですかそのチラシ。配ってませんよね?」


「広場の掲示板になんか貼ってあった」


「え、情報流出してる……?」


 ラッカさん、あなたももう完全にここの広報担当ですよね。


「保冷剤の大きいの、在庫残り少ないわ、追加発注がいると思うの」


「ミリエラさん、それもう店の関係者の発言です」


 そんな常連に囲まれつつ、いつもの営業が始まった……そのときだった。


 ウィーン、と小気味よい音がして、自動ドアが開いた。


 入ってきたのは、旅装束に身を包んだ、年の頃は50前後の男性。人間族っぽい。

 中背で体格は細め、立派なヒゲをたくわえつつ、身のこなしがやたらスマート。そして、何より――


「おお、これが噂の“不思議の国の商店”ですか……なるほど、光る天井と……自動で開く扉……これは面白い」


 うちはうさぎ追いかけて異世界来たわけじゃないんだが...。

 なんかめっちゃ目が輝いてる。観察眼がエグい。初見で概ね把握してる。


「いらっしゃいませー。ご新規のお客さまですね?」


「ええ。私はアラット。西の商業都市〈ナタリア〉から来た旅商人です。いやあ、噂は聞いてましたが……これは想像以上ですよ」


 アラットと名乗った商人さんは、まるで展示会でも見に来たかのような顔で、ぐるりと店内を見渡している。


「すみません、どちらで噂を?」


「いやあ、商人仲間の間ではもう有名ですよ。“謎の建物で見たこともないものが売られてる”“商品が魔法でも錬金でもないのに便利すぎる”“髭のドワーフが中毒になってる”とか」


「最後のは完全にガンドルフさんが原因ですね」


「あと"コロッケが異常にうまい"って評判もありました」


「それも多分、ラッカさんですね……」


 アラットさんは商品棚をひとつひとつ丁寧に眺めながら、何かを記録するように頷いていた。

 ……メモ帳とか持ってるわけじゃないのに、どこか“記録されてる感”がある。さすが商人。


「いやー、これは……仕入れたい」


「はい?」


「いえ、いえ、個人的に、です。今日は様子見。買い物客として。まずは実際に味や使い勝手を試してみてから」


「……なるほど、商人の鑑ですね」


 アラットさんはその後、パンとおにぎりとレトルトカレー、あとハイターを買っていった。選択肢のバランスが謎だけど、たぶん試したいカテゴリが明確にあったんだろう。


「この“おにぎり”という食べ物、非常に手軽ですね……持ち歩き用保存食としては革命的です。……この木屑のようなものも“説明”が読めればもっと理解が進むのですが……」


 鰹節とかそりゃわからんよな。

「すみません、それ、うちの母国語なんで……」


「いえ、十分です。見れば使い方はなんとなくわかりますし、第一、こういうのは“使って覚える”ものですから」


 ポジティブ! めっちゃ前向き!

 こういう人が異世界で成功するんだな……


 会計を終えたアラットさんは、商品を丁寧にリュックに詰めると、軽く頭を下げた。


「いずれ、取引の相談に来るかもしれません。その際はどうか、ご検討を」


「え、あ、はい。ありがとうございます」


 スッ……と自然な動作で出ていったアラットさんを見送りながら、俺はひとつ大きな息をついた。


「……なんか、ちゃんとビジネスの話ができそうな人来たな……」


 ラッカさんでもガンドルフさんでもない、“地に足のついた商人”の登場に、少しだけ現実味を感じる俺だった。


 コーヒーを一口。変わらない香ばしい味。

 そして――


「いらっしゃいませー!」


 スーパーまるかみ、今日も元気に営業中です。

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