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第6話「スーパーまるかみ、異世界営業ひと月が経ちました」

 異世界に来て、一ヶ月が経った。


 ……一ヶ月?


 冷静に考えて、スーパーごと異世界転移して、一ヶ月経ってまだ冷蔵庫もレジもネットも使えてるって、すごくない? いや、すごいとかのレベル超えてるんだけど。


 しかも――客が増えてる。マジで。


「おう、あのクルクルしたやつ、また入ったか?」


「はい、カップ焼きそばですね。棚のいちばん下です」


「うむ、うむ! あれは飲み明けに最高だ!」


 ドワーフのガンドルフさんが、今日も手に山盛りの肉とアルコールをカゴに詰めながら、焼きそばを本命にするという謎の嗜好を披露している。

 強面だけど常連。しかも会計が早くて正確。頼れる山の男。


 そしてその横では――


「よっ、店長! 今日も“コロッケ”あるか?」


「ございますよ。揚げたてです」


「マジか! やった! 今日も勝った!」


 獣人のラッカさんが、元気よくレジに駆け寄ってきた。

 最初こそドアにビビってたけど、今ではスッと入ってくる。慣れってすごい。


 ちなみにこの人、昨日“レジ袋もリユースする派”になった。異世界SDGs、エコえらい。


 そのあとに静かに入ってきたのは、長い銀髪と緑のローブがトレードマークの――


「いらっしゃいませ、ミリエラさん」


「ごきげんよう。今日は石鹸と紅茶、それから例の“冷える箱用の冷える板”、ありますか?」


「保冷剤ですね。もちろんあります。奥の冷蔵棚の上です」


 エルフの魔導師ミリエラさんは、スーパーまるかみに通ううちに「文明の利器」をどんどん取り入れてしまった。

 今では“冷凍食品専用箱”を自作し、保冷剤と組み合わせて長距離持ち帰り対応までしている。


 異世界勢の順応性、マジですごい。


 店内では他にも、魔族の若者が焼きそば麺の戻し時間で真剣に悩んでたり、妖精族の子どもがレジ横の飴コーナーで30分悩んでたりする。


「……ほんと、すっかり“日常”って感じだな」


 異世界。

 魔法あり、エルフやドワーフなんかも普通に暮らす世界。

 そんな中で、俺はいつも通り、惣菜を揚げて、レジを打って、コーヒーを飲んでる。


「なあ、店長。この店では何か面白い催しものとかないのか?」


 ラッカがコロッケをレジに置きながら、にやりと笑う。


「うーん...催しものですか...特売セールとか感謝祭とかですかね...」


「セール?感謝祭?」


「あー、そういう概念とかないんですかねー?」


 そう。一ヶ月経っても、確かにただ普通に営業していただけではある、それが大変ではあったが...。雨が


「あとでお店の前に『お客様の声』アンケートでも置こうかな……“お酒の種類を増やしてほしい”とか“スプーンが欲しい”とか、いろいろ言われるけど」


「俺は“冷たい揚げたてコロッケ”が欲しいぜ」


「それはちょっと難しい注文ですね」


 ラッカと軽口を叩きながら、いつも通りレジを打つ。

 ガンドルフさんが横で黙々と酒を選び、ミリエラさんが茶葉をまとめ買いしていく。

 特別なことはないけど、みんな笑ってる。話してる。


 異世界に来た当初、どうなるかと思ったけど――


「……なんとか、なるもんだな」


 一口コーヒーをすする。香ばしい匂いと電子音。そして、空には月と太陽。


「いらっしゃいませー!」


 スーパーまるかみ、異世界転移から一ヶ月。

 今日も変わらず、元気に営業中です。

6話いかがでしたでしょうか?


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