第54話「スーパーまるかみ、おすすめが止まりません」
昼下がりのまるかみは、ちょうどお客さんの波が引いて、静かな空気が流れていた。
そんな時だった。
ウィーン。
自動ドアが開いた瞬間、ひんやりとした風が吹いた気がした。
入ってきたのは、漆黒のローブに身を包んだ女性と、後ろに従う数人の影。
ロアーナさんだ。
魔族議会直属、内調局の“監査官”。
以前来店したときは、ポテサラに感銘を受けすぎていたが、少しは落ち着いただろうか?
今日の同行者は、ローブ姿の護衛が3人。その後ろには、補佐官らしき文官風の女性が1人。
「ごきげんよう、店長。また来ました」
「ロアーナさん……ようこそ、いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます」
俺がぺこりと頭を下げると、ロアーナさんは軽く顎を引き、周囲に指示を出す。
「本日も通常通りの購買訓練を実施する。過不足なく動いて」
「はっ!」
護衛たちは即座に隊列を解き、散開した。
さながら買い物部隊の進軍である。
ロアーナさんはというと、ゆるやかに惣菜コーナーの前で立ち止まり、じっと棚を眺めた。
「……これ、前回はなかった味。香草の香りがする……“改良型”かしら」
「あ、それは新しく出した“バジル入りポテサラ”です」
「……ふむ。試してみましょう。……そちら、これを三つ」
「はっ」
護衛の一人が無言でカゴを差し出し、パックを受け取っていく。
その様子を見ていた補佐官が、少しだけ戸惑った表情を浮かべた。
「ロアーナ様、数量の制限は……?」
「問題ないわ。初回調査分の評価が良好だったので、今後は“常備対象品目”になる予定よ」
「は、はい。了解しました……」
ロアーナさんは、続いて飲料コーナーに向かう。
麦茶の棚を見て、指先でラベルをなぞった。
「……これ、以前とボトルの素材が違う。軽量化されてるのかしら」
「はい、今月から新しい仕入れ元に変わってまして。強度は維持しつつ、梱包しやすい形状になってます」
「それは便利……24本入りを、4箱。……いえ、5箱に増やしましょう」
「5箱!?」
補佐官が小声で驚いている横で、護衛の一人がすでに台車を確保していた。
判断も動きも早い。
「それにしても……これは便利……これも……この小分け干し肉も……何故こんなに……」
ロアーナさんの目が、見るたびに輝きを増していく。
その視線の動きに合わせて、どんどん商品がカゴに収まっていく。しかも、どれも複数個単位。
「この乾燥野菜セットも備蓄に有効。非常時の分も含めて、15……いや、20セット」
「ロアーナ様、本当にそんなに……」
「補佐官」
「は、はい」
「備蓄とは、“備えて蓄える”と書きます。備えがなければ、後悔だけが残るものよ」
「……おっしゃる通りです」
補佐官はおとなしくメモを取りながら、護衛たちと手分けして商品を回収していく。
気がつけば、レジ前にはすでに7つのカゴが並んでいた。
(いやいや、多いな……)
店長として売上はうれしいが、明らかに一回の買い物の規模じゃない。本当に補給である。
それでも、ロアーナさんは涼しい顔で次の商品を選び続けていた。
ときどき、商品をじっと見つめては、「これは良い素材だ……」「この並び、美しい……」とひとりごとのように呟く。
そんな様子を見ていたが、俺の視線を特に気にすることなく、ロアーナさんは気になる商品を手にとっては考察し指示をしていく。
その指示を受ける護衛たちの動きも一切の無駄がなく、慌てることもない。訓練の賜物ってやつかもしれない。
その時、護衛の一人が冷凍ケースの前で何かを見つけたらしく、声をあげた。
「ロアーナ様。“甘味”の新種かと思われます!」
「ほう、どれだ?」
「こちら、外装に“夏季限定”とあります。冷菓の一種。桃の香りと書かれています」
「……よろしい、そちらも全種、各三つずつ確保を。……研修員への差し入れにしましょう」
補佐官が慌ててメモを走らせる。
護衛たちの動きもますます機敏になる。
──と、ここでようやく、全ての商品がカゴに収められたようだ。
ロアーナさんが軽く右手を挙げた。
「店長。おかげさまで、本日も素晴らしい補給が叶いました」
「お気に召していただけたなら、何よりです……いや、ほんとに」
正直、会計がどれだけになるのか、ちょっと怖い。
けれど、それ以上に、あのロアーナさんが目を輝かせて買い物してくれるというのは、純粋にうれしい。
手早く商品をスキャンし、会計済みのカゴに入れていく。
「では、支払いはこちらで」
補佐官が取り出したのは、例の黒い魔導札。
金属製のカードに、魔族議会の印章が光っている。
「この店舗での購買証明として、記録をお願いします」
「承知しました。記録に複写して、領収も発行いたしますね」
淡々と処理を進めていくと、護衛の一人が小声で感心していた。
「……この方、魔族側の事務局でも通用するのでは……?」
「静かに。失礼にあたるわよ」
ロアーナさんは、静かに一礼した。
「店長。必要なものを、必要な時に、適切な形で得られる。この場所は……それが可能な貴重な拠点です」
「そう思って頂けて大変恐縮です……」
レジ横に並ぶ商品袋は、すでに10袋以上になっていた。
満足げな表情で袋のひとつを手に取り、肩越しにこう言った。
「店長さん、また"補給"に伺いますね」
「……かしこまりました」
俺は一歩下がり、深く頭を下げた。
「本日は、ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
「ええ、必ず。また来ます」
ロアーナさんは微笑み、護衛たちと補佐官を引き連れて、堂々とまるかみを後にした。
彼女の足取りは、初めて来店したときより、どこか軽やかだった。
スーパーまるかみ、今日も誰かのお気に入りになれたようです。
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