表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/56

第5話「スーパーまるかみ、クレーム受けました」

 異世界に来て五日目の朝。

 空には今日も、やる気のある月と気まぐれな太陽が、相変わらず仲良く並んでる。

 いい加減交代制導入しない? 月さんそろそろ過労でしょ?


 スーパーまるかみ、本日も無事に開店。


 コーヒー片手にレジで伸びをしていたその時、見慣れた――いや、まだ慣れきれない――ウィーンという自動ドアの開閉音が響く。


 入ってきたのは、丸い耳と茶色い毛並みの、ちょっと目つき鋭めな獣人の中年男性。

 昨日来たラッカじゃない。年齢的にもオーラ的にも、もうちょい厳しめ。


「……いらっしゃいませ」


「おう。ちょっと聞きたいことがあるんだが」


 やけに切り出しが硬い。

 この時点で、俺の中の「対応マニュアル:クレーム編」が起動する。


「はい、どうぞ。なにか商品に不備がございましたでしょうか?」


「……昨日、うちのガキがここで“かれーぱん”ってやつを食ったんだよ」


「はい、カレーパンですね。ありがとうございます」


「でな、言ってたんだ。“辛くなかった!”って」


「……えっ、そっち?」


 クレームの方向が完全に想定外だった。


「あのガキ、辛ぇもんに挑戦して“ひー!”ってなるのが楽しい年頃なんだよ。だから、あれは“かれー”って名前でいいのか?」


「え、はい……あれ、甘口ですので……お子さまにも安心な設計で……」


「そうか……なら、納得だ。すまん、怒鳴り込むつもりはなかったんだ。ただ、次は名前に恥じないもっと辛いのも置いてくれって、そう言いたくてな」


「……あ、ありがとうございます。ご意見、参考にさせていただきます」


 なんだ、いい人じゃん。怖い顔に騙されるとこだった。


「ちなみに、“からあげ”ってのも食ったんだが、あれはいいな! あれは文句なしだ!」


「ありがとうございます!」


 なにこれ、ほぼファンレターじゃん。

 でもありがたい。異世界にも“意見を伝える文化”があるってわかっただけでだいぶ救われる。


 その後もお客様は続々とやってきた。

 冷凍食品の使い方を聞いてくるエルフ、レンジ加熱に驚いて「魔法や火をを使わず加熱するとは……!」と謎の納得をする魔族、栄養ドリンクを「生命の水か?」と問う妖精族(※未成年ではなかった)。


 みんな個性は強いが、ちゃんと“客”としての距離感を守ってくれている。

 こっちも真面目に、接客する。


「……でもまあ、“辛くない”が最初のクレームって、ほんと平和だな」


 コーヒーを飲みながら、俺は天井を見上げる。

蛍光灯が今日も元気に光ってる。


「よし、辛口カレーパン、発注しとくか」


 いつかこの世界にも“激辛チャレンジ系”が根付く日が来るかもしれない...なんてちょっと思ったら、楽しくなってきた。


「いらっしゃいませー!」


 異世界スーパーマーケット、今日も元気に営業中です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ