第40話「スーパーまるかみ、花火も売ってます」
レジの帳面を整理していたとき、客同士の雑談がふと耳に入った。
「先日隣の村でちょっとしたお祭りがあったみたいですよ。うちの村も来週くらいですかね」
「へえ、もうそんな時期かぁ」
詳細は分からなかったが、その「お祭り」という言葉が妙に耳に残った。
まるかみが転移してから、もう半年以上。
需要が少しずつ分かってきた今なら、季節商品を扱っても悪くない。
そう思い、今回は少し趣向を変えてみた。
仕入れたのは、光る棒状の手持ち花火、ひゅるりと上がる簡易打ち上げ花火、そして見た目が華やかなセット商品。
日本で売っていたものの中で、なるべくこの世界でも楽しめそうなもの選んだ。
もちろん、安全性には配慮してある。火を使う商品だからこそ、念には念を。
《夜を彩る!光の花火セット》
売り場の一角に、ちょこんと並べてみた。
「……あの、これは、何?」
最初に興味を示したのは、旅装の青年だった。
棚の前で立ち止まり、眉をひそめて花火の箱を手に取る。
「花火といって、火をつけると光ったり、空に上がったりします。主に夜に楽しむものです」
「……飛ぶんですか?」
「飛びます。空に向かって」
「えっ、人に当たったり……?」
「それは、使い方を間違えた場合です」
青年は不安そうだったが、「お祭りで使うなら映えるかも」とひとつだけ試しに買っていった。
その晩、村のほうから、ひゅるる、と音がした。
次いで、ぱん、と小さな光が弾ける音。
……どうやら、実際に試してくれたらしい。
翌日、花火コーナーには人だかりができていた。
「これが昨日のあれか!? 夜に空が光ってて、びっくりしたよ!」
「お祭りでやったら、絶対盛り上がるでしょ!」
「私この『きらきら星シャワー』が気になります!」
思っていた以上の反応に、棚の在庫がごっそり減っていく。
どうやら一晩でちょっとした噂になっていたようだった。
「店長さん、この『百連雷』って、ほんとに百発あるんですか?」
カゴに花火を入れる人たちを見ながらシルヴィさんが聞いてきた。
「いえ、たしか10発くらいですね」
「詐欺じゃないんですか?」
まぁ日本人の俺でもそう思う時はあるから、わからなくもない。
「いえ、商品名に誇張はよくあることでして……」
「……まあ、そういうもんですか」
こうして売れはするものの、火を使う以上、注意も必要だった。
「シルヴィさん、お願いがあるのですが」
「はい、なんでしょうか?」
「花火の使い方をまとめた注意書きを作っていただけますか? 俺が伝える内容をできれば誰にでも分かるように」
「お任せください!」
その返事の速さは、さすがだった。
マーカーと紙を手にしたシルヴィさんは、棚の横にぺたりと貼り紙を一枚。
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《まるかみの花火をお楽しみいただくために》
・火は落ち着いた大人の方が扱ってください
・人に向けてはいけません!ぜったいです!
・近くに水を用意しておくと安心です
・広い場所で、まわりに人がいないところで使いましょう
・終わったあとは、しっかり後片づけを!
・“百連雷”はそんなに鳴りません
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店内を通る客がそれを見て、ふむふむと頷いていく。
「これは、武器じゃないのか?」
打ち上げ花火を手にした男が、真剣な顔で聞いてきた。
「遊具です。装備品ではありません」
「だが、火を吹くとなると……投擲武器では?」
「お祭りで楽しむものです。そもそもそんな威力ないですし」
「……なるほど」
納得したのかしてないのか、微妙な表情で打ち上げ花火を三つ購入していった。
その日の夕方には、補充していた在庫もほとんど売れていた。
こんなに花火が必要になるとは、正直想定していなかった。
閉店後、コーヒーを淹れながら、棚の整理をする。
外から、ぱん、と乾いた音が聞こえた。
窓の外、空の一角に、小さな光の花がぽつんと浮かんで消える。
イートインの椅子に腰を下ろし、ホットコーヒーを一口。
「……まあ、悪くない反応だったかな」
帳面に、「花火:季節商品(需要あり)」と小さく書き足しておく。
空には今日も、太陽と月。
スーパーまるかみ、祭りの夜にも明かりを添えます。
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