第4話「スーパーまるかみ、ドワーフに出会う」
異世界に来て四日目の朝。
今日も空にはデカすぎる月と、やる気があるのかないのかわからない太陽が仲良く浮かんでいる。
スーパーまるかみ、開店準備完了。
朝の点検も終わり、レジ前でコーヒーを飲んでいると、ドス、ドス、という妙に重たい足音が聞こえてきた。
「……お?」
自動ドアの前に立っていたのは、ずんぐりした体格に、ギュッと詰まった筋肉、ガチムチが過ぎる。
ガタイがいいのに背は俺の胸元くらいしかない。
顔は髭で覆われ、頭はつるつる。武骨な金属のベルトを締めた、その姿――
「……ドワーフだな、あれ」
自動ドアがウィーンと開くと、彼はピタリと立ち止まり、しかめっ面で首を傾げた。
「ほう……魔道の結界、か?」
「いらっしゃいませー。それ、ただの自動ドアです」
「ふん、妙な技術だな……」
ずしん、と重い足取りで店内に入ってきたその男は、店内の空気を一気に“山の工房”っぽく染め上げた。
「我が名はガンドルフ。ドワーフの鍛冶師だ。腹が減った。肉が欲しい。ついでに、強い酒もあると良い」
「……当店、惣菜コーナーと酒棚がございますので、ご案内しましょうか?」
「ふん、案内はいらん。己の鼻で探す」
そのまま迷いなく惣菜コーナーへ向かったガンドルフは、パック詰めされた唐揚げ、焼き鳥、ハンバーグ、スモークチキンをしばし睨み――
「これは肉。これも肉。これも……形は違うが、匂いが良い。……肉だな」
言いながらカゴにぽいぽい放り込んでいく。
すべて、匂いと形だけで判断している。逆にすごい。
続けて酒棚へ。瓶と缶の前で腕を組んで悩んでいたが――
「この瓶は作りや装飾が良い、多分、強い。これをひとつ。あと、この金の缶は気に入った。四本買おう。」
……完全に直感。ラベルに書かれた日本語は当然読めないらしい。
でもそれでほぼ当たりなのが逆に怖い。
精算カゴには唐揚げ(銅貨2枚)、焼き鳥(銅貨1枚)、ハンバーグ(銅貨2枚)、スモークチキン(銅貨2枚)、
ウイスキーが瓶1本(銀貨2枚)とハイボール缶4本(銅貨4枚)。
ざっくり換算して――
「合計、銀貨3枚と銅貨1枚になります」
「ふむ。よし、ある」
ガンドルフは腰の革袋から、金属製の小箱を取り出した。
中にはきっちり分別された異世界通貨が整然と収まっていた。
「ふむ……ついでにその袋もくれ」
「かしこまりました。レジ袋(鉄貨1枚)おつけします」
ピシャッと袋を渡すと、ガンドルフは手早く肉と酒を詰め込み、袋を片手でぶんと肩に担いだ。腕が完全に岩の柱。
「良い店だ。また来る」
「ご利用ありがとうございました」
去っていく背中は広く、静かで、やたらかっこよかった。
……なんなんだ、あの圧。
そして、異世界の住人が日本語を読めないっていう、至極まっとうな現実を前に、俺はちょっとだけホッとした。
「翻訳魔法とかない世界で助かったな……でも、そろそろ商品の絵ラベルやポップを増やすか?」
そんなことを考えながら、俺はレジでコーヒーを一口啜った。
スーパーまるかみ、今日も異世界で営業中です。