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第36話「スーパーまるかみ、あったかい発明品」

 昼過ぎの店内。伝票の確認を終えたタイミングで、自動ドアが静かに開いた。


「こんにちは、店長さん」


 現れたのは、青葉の塔に住む発明好き魔導士、ミリエラさんだった。

 魔導カートの上には布に覆われた大きな物体が載っている。


「こんにちは。今日はずいぶん大きなものをお持ちですね」


「ええ。ちょっとした装置を作ってみたんです。もしかしたらこちらで使えそうかもしれないと思いまして」


「わざわざありがとうございます。ぜひ」


 ミリエラさんが布を取ると現れたのは、金属製の円筒状の装置。扉のついた本体に、細い排気口のような開口部と魔導石の挿入口がついている。


「中に食べ物を入れておくと、温かさを保てるんです。蒸気の調整もある程度できますので、湿気でべちゃつかないように工夫してあります」


「なるほど……。これ、ずっとやってみたかったものに使えるかもしれません」


「お役に立てるなら、しばらく置いておきますね」


「ありがとうございます、助かります」


 


 翌日。

 装置は入口脇に据えられ、湯気を立てながらほんのり甘く香ばしい匂いを放っていた。


 温かみのあるその香りは、静かな店内にやわらかく広がっていく。


 


 しばらくして、レジ奥から様子を見ていたシルヴィさんがそっと近づいてきた。


「……店長さん。この香り、すごく気になります」


「昨日ミリエラさんが持ってきた装置のおかげで、温かい惣菜を出せるようになったんだ。今日からちょっと試しに置いてみようと思ってね」


「そうなんですね……。これは皆さん気になるかもしれません」


「それは良かった。せっかくだし、ひとつ試食してみて」


「いいんですか? ぜひ」


 俺が装置からひとつ取り出し、紙袋に包んで手渡す。

 シルヴィさんはそれを受け取り、イートインスペースの席へ。

 席に座り、包みを開くとふわりと湯気が立ち昇った。


 一口かじると、ふわっとした皮と中の具の香りが鼻に抜け、思わず目を丸くする。


「……やさしい味です。皮もふかふかで、これ……すごく好きです」


「そう言ってもらえると嬉しいな。温かいってだけで、けっこう特別なんだよ」


 


 しばらくすると、ふらっと入店してきたのはラッカさんだった。


「……この匂い、なんだか腹が鳴るな」


 入口近くの装置に目を止めたラッカさんに、俺が声をかける。


「温かい惣菜を始めたところなんです。よかったらどうですか?」


「ひとつ、もらう」


 


 俺が中からひとつ取り出して紙袋に包み、ラッカさんに渡す。

 ラッカさんは黙って会計を済ませ、そのままイートインスペースへ。

 座って袋を開き、一口かじるとそのまま黙々と食べきり、何も言わずにもう一つ買いに戻ってきた。


 


 それから少し経ち、今度はガンドルフさんがやって来た。


「おい、なんかいい匂いがすると思ったら……これか?」


「温かい惣菜です。蒸してあって、中には肉や甘いあんこが入ってるものもあります」


「ふむ……じゃあ、肉のやつを一つもらおうか」



 俺が紙袋に包んで手渡すと、ガンドルフさんも静かにイートインスペースへ向かう。


 しばらくしてから「これは……ありだな」とぽつり呟いたのが聞こえた。


 


 午前中のうちにセットした中華まんは売り切れ。装置は予想以上の活躍ぶりを見せた。

 午後用に慌てて追加をセットする。


 夕方、ふたたび店のドアが開く。


「こんばんは、店長さん。あの装置、うまく使えましたか?」


 姿を見せたのはミリエラさん。入口脇に設置された保温装置に目をやり、少し驚いたように表情をやわらげる。


「……本当に、きれいに使っていただいていたんですね」


「おかげさまで、すごく好評でした。午前中にセットしてものは完売です」


「それは良かったです。自分の発明がこうして役立つのを見るのは、やはり……嬉しいですね」


「ちょうど追加分が出来上がっているはずです。よかったらひとつどうですか? お礼にごちそうしますよ」


「いいんですか? では、甘いほうを、ひとつお願いします」


 


 ミリエラさんは受け取った中華まんを手にイートインスペースへ。

 袋を開けると、ふかふかの蒸し包みから湯気がふんわりと立ちのぼる。

 ひと口食べて、自然と微笑んだ。


「……優しい甘さですね。温かいものって、それだけで気持ちまで和らぎます」


「ほんと、そう思います」


 


 夜になり、営業を終えた静かな店内。

 俺はレジ裏で、カップにコーヒーを注ぐ。湯気が立ち上り、香りが静かに満ちていく。


 ひと口、飲んでから呟いた。


「……あったかいって、すごいな。ほんとに」


 


 空には今日も、太陽と月。


 スーパーまるかみ、あったかい発明が、人の笑顔をひとつ増やします。

いかがでしたでしょうか?


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