第34話「スーパーまるかみ、ひとくちの甘さを翼に乗せて」
昼を過ぎて、店内がゆっくりと落ち着きを取り戻しはじめたころだった。
入口の自動ドアが開いた……と思った瞬間、ふわりと風に乗って、小さな羽音が複数飛び込んできた。
それは、いつもより賑やかな羽音だった。
「店長さん、こんにちはっ!」
元気いっぱいの声に振り向けば、そこにはおなじみの妖精、リリルルさんの姿。
しかも、今日はひとりじゃない。
背丈が同じくらいの、小さな妖精たちがリリルルさんの後ろに続いて、わらわらと舞いながら入ってきた。
「今日はね、まるかみに来たことがなかった仲間たちを連れてきたの! まるかみのこと、すっごく話してたら“行ってみたい”って言われちゃってさ」
「ようこそ。狭いところもありますから、ぶつかったりしないようお気をつけくださいね」
「はーい!」
妖精たちは色とりどりの服をひらひらさせながら、楽しそうに棚の上や冷蔵ケースの前を巡っていく。
「わあ!」「この包装かわいい〜」「これってどんな味?」「冷たい〜」と、興味津々。
リリルルさんはというと、完全に“案内役”の顔をしていた。
「これはね、チョコの中にミントのクリームが入ってるやつ! ちょっと大人の味って感じ!」
そんなふうに商品の説明まで始めていて、ちょっとした“妖精向けツアーガイド”のようになっている。
「この辺りはリリルルのおすすめ?」
「うん、あたしも前に買ったことあるやつ! ほら、プリンは冷蔵棚の下段! あとドーナツもおすすめ!」
やがて妖精たちはそれぞれ好きなお菓子を手に取り、イートインスペースに移動。
そのテーブルには、プリン、焼き菓子、チョコ、小ぶりなドーナツなど、色とりどりのスイーツが並ぶことになった。
――妖精たちによる、プチお茶会の開幕だった。
「やっぱり甘いものって、心にふわっとくるよねぇ」
「このとろけるの、最高〜! あたしこれ、10個は食べられると思う」
「チョコって、正義だよね?」
「ふわふわのドーナツも捨てがたいし……でも、ケーキの生クリームのなめらかさも……」
彼女たちは小さな体をふわふわと浮かせながら、スプーンを手にお菓子をつつき、語り合っていた。
誰もが笑顔で、楽しそうで、そして真剣だった。
俺とシルヴィさんは少し離れたレジ前から、その様子を見守る。
「……楽しそうですね」
「ええ。まるで甘味評議会みたいですね」
妖精たちの羽音と声のトーンが重なって、店の中に独特の賑やかさが生まれていた。
やがて、お茶会の時間がひと段落すると、妖精たちは袋をたたみ、ゴミをきちんと片づけていた。
意外とそういうところはきっちりしているらしい。
「店長さーん、今日もありがと!」
レジの方へ舞い戻ってきたリリルルさんが、ひょいっと目の高さまで浮かんでくる。
「また新作来てるね、あれって店長さんの趣味?」
「まあ、半分くらいはそうかもしれませんね」
「だと思った〜! だってさ、あのチョコクランチ、新しかったし」
いたずらっぽく笑ったあと、リリルルさんは後ろを振り返る。
「さぁ、みんな! 行こっか!」
妖精たちは名残惜しそうにイートインを見回してから、「ありがとー!」「また来るー!」と口々に言いながら、空へと舞い上がっていった。
自動ドアが閉まり、羽音が遠ざかる。
しばらくの間、店内には、少しだけ甘い余韻が残っていた。
俺はいつものように湯を沸かし、マグカップにインスタントコーヒーを淹れる。
静けさの中で香りが立ちのぼり、ホッと肩の力が抜けていく。
一口、ゆっくりと口に含みながら、ぽつりと独り言。
「……騒がしいのに、残るのは軽い余韻なんだよな」
空には今日も、太陽と月。
スーパーまるかみ、小さな羽の甘い語らいも、いつでもどうぞ。
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