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第32話「スーパーまるかみ、筋肉に効く一杯を」

 昼過ぎのまるかみ。

 客足が一段落した時間、店内には穏やかな空気が流れていた。


 冷蔵棚の整理をしていると、自動ドアが開く音がした。

 視線を向けると、見覚えのあるがっしりした体格のドワーフが、どっしりとした足取りで入ってくる。


 斧を背負ったその姿に、思わず口元がゆるんだ。


「おや。ゴドークさん、お久しぶりですね」


「おう、覚えててくれたのか」


 ゴドークさんは、以前ラッカさんと一緒に来たことがある。

 久々に今回は一人での来店だ。


「今日は何かお探しですか?」


「いやな、最近ちょっと鍛えててな。活動の幅を広げるには基礎が大事だって話になって……。で、めちゃくちゃ特訓やら何やらで、腹が減るようになった」


「なるほど」


「ただ、重すぎるもん食うと動きが鈍るし、軽すぎると力が出ねぇし。合間にも食える、何かちょうどいいもん、あるか?」


「前衛ですもんね。なるほど……それでしたら」


 俺は少し考えて、冷蔵コーナーの一角を指さした。


「こちらのサラダチキンはいかがでしょう。高たんぱく、低脂質で消化もいい。スパイス味とプレーン、二種類ございます」


「……チキンを、塩で煮たのか?」


「いえ、蒸してあります。やわらかく、味もしっかりついています」


「なるほど……」


 


 ゴドークさんがサラダチキンをじっと見つめていると、

 シルヴィさんがタイミングよくやってきた。


「ブロッコリーのサラダもありますよ。チキンと合わせる方、けっこういらっしゃいます」


「ブロッコリー……緑の木みたいなやつか?」


「はい、栄養価が高くて、意外と筋肉向きらしいですよ」


「へぇ……筋肉に木とはな」


 


 彼の手がサラダチキンとブロッコリーのパックをそっと持ち上げたとき、俺は一つ提案を足した。


「そして、もう一つ。プロテインというものもあります」


「プロ……? そいつは何だ?」


「水で溶かして飲む、たんぱく質を効率よく補う粉末ですね。味もいろいろありますよ」


「……効くのか?」


「特訓......というか、筋肉を使う運動をされてますし、合わせこちらも続ければ、ちゃんと結果が出るものです。試飲してみますか?」


「飲めるのか!? 試し飲み、好きだぞ!」


 


 すぐにレジ裏で紙カップと水を用意し、シルヴィさんがプロテインのチョコ味を一杯分シェイクする。

 泡立ちを落ち着けてから手渡すと、ゴドークさんは慎重に口元へ。


 一口。


「……んぐっ……なっ」


 もう一口。


「……な、なんだこれ。飲みやすい!? 甘い!?」


 そして、目を輝かせて叫んだ。


「効きそう!!」


 


 飲み終えたあと、ゴドークさんは棚へ戻って、真剣な目でプロテインのラインナップを見比べ始めた。


「他に、味は?」


「ストロベリー、ミルクティー、抹茶ミルクもございます」


「ストロベリー……は乙女っぽい気がするが......飲む。いや飲ませろ。いや買う」


「どうぞどうぞ」


「チョコもだ! さっきのうまかった!」


 


 かごの中にはサラダチキン、ブロッコリーサラダ、そして三種類の大容量プロテイン。

 小柄な体格に似合わず、勢いよく買い物を済ませていくゴドークさん。


 会計を終えると、彼は力強く親指を立てた。


「これからは、トレーニングのあとに飲むぞ。……これは筋肉の儀式だ!」


「……はい。継続こそ力なりです」


「筋肉は裏切らねぇからな!」


 そんなセリフを残して、彼は背筋をしゃんと伸ばして店を出ていった。

 足取りはなぜか、さっきよりも軽い気がした。



 レジに戻ってきたシルヴィさんが、ポツリと呟く。


「……また一人、栄養の道に入りましたね」


「ええ。まるかみ、筋肉沼もカバーしております」


 


 いつものように、湯を沸かす音が聞こえる。

 マグカップにインスタントコーヒーを注ぎ、香りを吸い込むようにひと息。


 一口飲んで、静かに言った。


「……筋肉が育つ音がしたな」


 


 空には今日も、太陽と月。


 スーパーまるかみ、筋肉にも、心にも、効く一杯あります。


いかがでしたでしょうか?


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― 新着の感想 ―
良い感じに読み応えあって楽しかったです。(^^)
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