第30話「スーパーまるかみ、星に願いを」
30話!
投稿開始から毎日更新目指してやってきてちょうど一ヶ月になりました!
ある日、まるかみのバックヤードから、俺は一本の笹を担いで出てきた。
朝、デジタル時計のカレンダーを見た時にちょうど七月七日だったからだ。
店の隅に置かれたその青々とした植物を、たまたまいた常連たちがじっと見つめる。
「それって……なんかの魔力植物?」
リリルルさんがぴょこっと浮かびながら言う。
「違うよ。これは“笹”って言って、昔いたところで『七夕』って行事に使うものでね」
「ナナバタ?」
ラッカさわが首を傾げる。
俺は棚の隙間に笹を立てかけながら、説明を始めた。
「七夕。星に願い事をする日だよ。紙に願いを書いて、この笹にくくるんだ。そうするとね、天の川の神様が――まあ、そこはいいか」
「願い事を……紙に?」
ミリエラさんが目を丸くする。
「たとえば、“もっと強くなりたい”とか、“美味しいものがたくさん食べたい”とか、“腰が痛くなくなりますように”とか……」
「おい、最後のそれ誰のことだ?」
ガンドルフさんがむっとしたように腕を組む。
俺はレジ下から、切りそろえた短冊用の紙と紐、それから筆を出す。
「せっかくだから、みんなも書いてみる? 願いごと」
「やるやるーっ!」
ノリのいいリリルルさんが即答した。
「あたしは一番上に飾っちゃおー! でっかいプリンが山ほど手に入りますようにって書くから!」
「願いというより強欲だな……」
紙と筆を配り始めると、思い思いの願いを書き始める一同。
ラッカさんは黙って筆を取り、真剣な顔で数文字を記す。
「……“強くなる”」
「さすがラッカさん、ぶれないね……!」
ミリエラさんは「良い発明が思いつきますように」と筆でしたため、見事な筆跡で皆をうならせた。
ガンドルフさんは「浴びれるほどの酒がほしい」とリリルルさんのことを言えないような欲望満載の願いを短冊に残し、リリルルさんに爆笑されていた。
「シルヴィさんも書きなよ」
リリルルさんがそう促すと、シルヴィさんは静かに短冊を手に取った。
「……では、ひとつ」
筆が走る。
「“店長の役に立てますように”……っと」
「なにそれ、真面目~!」
リリルルさんが茶化しても、シルヴィさんは淡々と筆を置く。
俺は「ありがとう」とだけ、笑って返した。
短冊が出揃ったところで、笹に紐で結びつけていく。
リリルルさんだけは宣言通り、ふわりと飛んで自ら笹の一番高いとこに結びつけた。
枝に揺れる色とりどりの願い。紙の音がさらさらと風に鳴る。
「なかなか壮観だな」
ガンドルフさんが腕を組んで見上げた。
「……うーむ、なんかあたしのプリンの短冊、一番上にしたけど、なんか目立ってない気がする!」
「リリルルさん、自分で結んだ位置でしょ」
「うるさいー!」
わいわいと騒ぐ声が、今日のまるかみを飾っていた。
しばらくして、それぞれが買い物を済ませ、帰っていったあと――
俺は余った短冊をひとつ手に取った。
筆を握り、しばらく黙っていたが、やがて文字を記す。
それは、誰にも見せない願い。
そっと笹の枝に結びつける。
「……この世界にも、星はちゃんとあるな」
コーヒーを淹れる。
湯気が立ちのぼり、静かな甘さが鼻をくすぐる。
紙の音が、さらりと笹の葉をなでていた。
空には今日も、太陽と月。
スーパーまるかみ、
今宵は星に、願いをひとつ。
ちょうど七夕でしたので、それっぽいお話にしました!
店長はなんて書いたんでしょうね?
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