第3話「スーパーまるかみ、ライフラインと仕入れを知る」
異世界に転移して三日目の朝。
空には今日もでっかい月と、ちょっと頼りない太陽が並んで浮かんでいる。
……完全にダブル出演。月さん、そろそろ休んで?
スーパーまるかみ、今日も営業準備完了。レジ立ち上げて、惣菜ケースの温度確認、バックヤードで飲料の補充。
「おはようございます。スーパーまるかみ、開店準備完了です」
誰も聞いてないのはわかってる。でも、言わないと始まらない気がして。
レジを立ち上げて、冷蔵ケースの温度チェック。バックヤードのドリンクもOK。
惣菜コーナーは今日も揚げ物が鎮座してるし、店内は異世界とは思えないほど普通に営業可能な状態。
「……ん? ていうか、仕入れってどうなってんの?」
倉庫を覗くと――あった。昨日の朝に発注した分の納品ダンボールが、棚にきっちり並んでる。
野菜に精肉、冷凍食品にカップ麺。伝票もシールも、いつもの業者のマーク入り。内容も量も間違いなし。
でも――
「搬入した形跡が、ねえ」
防犯カメラを巻き戻してみても、納品業者の影もなし。防犯カメラには、空っぽだった倉庫に“唐突に”箱が出現する様子が映ってた。
物理法則、完全無視。
「……まぁいいか」
異世界だし。
もっと突っ込むべきかもしれないけど、結果的に仕入れが届いてるならOK。
こっちが気にしたってどうにもならない。現実逃避って便利な言葉だな。
続いて気になってくるのが、ライフライン。
「水道は……普通に出る。しかも飲める。ガスは……そもそも使ってない。電気は……」
蛍光灯、冷蔵庫、レジ、コーヒーメーカー、自動ドア。
「……全部、生きてる」
発電機の音とかもないのに、コンセントから普通に電気が来てる。
なんならネットも生きてる。スマホで天気アプリ開いたら“現在地:不明”になってたけど、電波はある。どうなってんだ。
「これはもう……異世界転移型まるごとポータル送電システム、とかって名前つけとくか……」
口に出しても納得はできないけど、もうそれでいいことにする。電気が止まったら考えよう。止まる気配ないけど。
そして気が付いた、超・重要な点。
「……あれ? 昨日の売上って、どうなってる?」
異世界通貨(銅貨)で受け取った、ミリエラさんのコロッケ代。
いつも通り、レジ内の“入金ボックス”に突っ込んだだけだったんだけど……。
PC画面の売上確認ページを開くと――
「……ある。入金されてる。てか、円換算されてんじゃん」
明細には《現地貨幣:銅貨×1/換算レート:100円/入金反映済》の文字。
「なにこれ超怖い。でも便利」
異世界の硬貨をそのまま入れたら、自動で日本円換算されて口座に入ってるという謎システム。
税理士の佐伯さんに説明できる気がしない。てかそもそも、異世界での売上って帳簿どうするんだ。課税対象?
「……まあ、税務署には黙っておくか……いや、そもそも連絡つかねえけど」
そんなこんなで、仕入れOK、電気水道OK、換金OK。
このスーパー、異世界生活には過剰なくらい準備万端だった。
ついでに住まいの問題は解決済みだ。
「2階が事務所兼俺の住居」
ミニキッチン、風呂、ベッド、Wi-Fi完備。
異世界なのに、俺の生活空間、完全に日本クオリティ。
外から声が聞こえた。
「兄ちゃん! 昨日のやつよりでけぇ肉はあるか!? あと白くて冷たいやつもな!」
「“アイス”という言葉を覚えてください……」
「……こ、この巻物……“チラシ”と呼ばれておりましたが、色彩に富んでどんな魔法使いが書いたものか……」
「それ、ただの広告です。落ち着いて」
常連が、増えてる。
まだ三日目だっていうのに、異世界住民の生活に一部取り込まれつつあるスーパーまるかみ。
「よし、今日も営業開始!」
エプロンを締め直し、俺はレジに立った。
「いらっしゃいませー!」
異世界スーパーマーケット、今日も平常運転です。
第3話いかがでしょうか?
転移、通過、ライフラインと導入書けたかなと思います。
10話くらいまではストックあるので毎日投稿していきたいと思います。
ノリと勢いで現代に生きる忍者?のお話も書いているのでよかったらそちらも読んでいただけたら嬉しいです。
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