第28話「スーパーまるかみ、見た目で判断するべからず」
午後のまるかみは、静かに落ち着いていた。
昼の山場が過ぎ、店内にはほどよい間が流れている。
シルヴィさんはレジ横で伝票の整理をしていて、俺は棚の商品の向きを整えていた。
そのとき、入口の自動ドアが開いた。
音に反応して顔を上げた俺の目に、ずらりと並ぶ屈強な男たちの姿が飛び込んできた。
肩幅が広く、筋肉が鎧のように盛り上がっている。
無精ひげに吊り上がった目、ずっしりとした足取り。
しかも全員無言で店内に入ってくるものだから、店の空気が一瞬で張り詰めた。
気づけば、シルヴィさんの手も止まっていた。
俺はひとつ息を整えて、いつもどおりの口調で声をかけた。
「いらっしゃいませ。冷たいものも温かいものも、取りそろえております」
すると、先頭の男がこちらを見て、ふいに口を開いた。
「お、おう……っと、ええと。サッと腹に入れられる食いもん、あるか?」
「ございます。惣菜や菓子もありますし、もしよろしければ――サンドイッチなどいかがでしょう」
「サンド……なんだって?」
男たちが顔を見合わせる。どうやら耳慣れない単語らしい。
「パンのあいだに肉や野菜などを挟んで、手を汚さず食べられるものです。冷たいままでも味がしっかりしていて、持ち歩きもできます」
「……なんだそりゃ、気になるな。ちょっと見せてくれ」
冷蔵棚の一角へ案内すると、透明なパックに入ったサンドイッチがずらりと並んでいる。
玉子、ハムカツ、焼きそば入りの変わり種まで。色とりどりで見た目にも楽しい。
「ほぉ……これ、ぜんぶ同じもんか?」
「見た目は似ていますが、中身はそれぞれ違います。中身の具によって味も食感も変わりますよ」
「種類が多いな……これ、何個でもいけそうだぞ」
「量もさまざまございます。お好みに応じてどうぞ」
「しかも片手でサッと食えそうだ。便利だな、これ」
「へへ、なんだこれ……飯ってより、ちょっとした楽しみだな」
「こっちの“カツ”っての、うまそうだ。……二つ買っちまえ」
口々に驚きを口にしながら、それぞれの腹具合に合わせてサンドイッチを手に取っていく。
見た目に反して、商品を戻すときの手つきがやたら丁寧なのが印象的だった。
レジには、彼らが順番に並んできた。
「へえ、お前さん、レジもやるのか。器用だな、お嬢ちゃん」
先頭の男が、シルヴィさんに気さくに話しかける。
「はい。まだ慣れないことも多いですが……」
「いやいや、見事なもんだよ。声もはっきりしてて気持ちいい」
シルヴィさんは少しだけ照れくさそうに頭を下げた。
全員が会計を済ませると、彼らはイートインスペースへ向かい、腰を下ろして食べ始めた。
テーブルを囲んでパンをかじりながら、声を潜めて工事の段取りや材料の話をしている。
「……大工の方、ですか?」
俺が声をかけると、まとめ役らしき男がうなずいた。
「おうよ。ここから少し先で小屋の補修をしててな。なんか食えるもんないかって、寄らせてもらったんだ」
「それはありがとうございます。手軽に食べられるものをお探しでしたら、いつでもどうぞ」
「ありがてぇな。これなら食ってすぐ動ける。明日も来るかもな、へへ」
食事を終えた彼らは、食べ終わった袋をきちんとまとめてゴミ箱に捨てたあと、店の中央でこちらを振り返る。
「うまかった! また寄るぜ!」
にこやかに手を振るその姿は、最初の印象からはかけ離れて、まるで少年のようだった。
店を出たあと、シルヴィさんがふうっと息をついた。
「……見た目だけで判断するのは、良くないですね」
「ええ。物腰のやさしいお客様でした」
「最初はちょっと、怖かったですけど」
「俺も、ちょっとだけ背筋伸びました」
ひと段落ついた店内で、俺は湯を沸かし、いつものマグカップにコーヒーを淹れた。
香ばしい香りが立ち上る。カップを口に運んで、ひと口。
ほどよい苦味と熱が、肩の力をゆっくりと抜いてくれる。
空には今日も、太陽と月。
スーパーまるかみ、見た目よりも味と笑顔で、お待ちしています。
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