第27話「スーパーまるかみ、冷たいひと口いかがですか?」
外に出ると、むっとした熱気がまとわりついてきた。
朝からじわじわと気温が上がり、地面からの照り返しすら感じる。
店に戻ると、冷房の効いた店内がほっとするほど涼しい。
この世界でも、冷凍と冷蔵の技術があるというのは、改めてありがたいと感じる。
「今日は……冷たいものを、前に出そうか」
あまり動かなかったアイスの冷凍ケースを、入口近くの通路へ移動させる。
シルヴィさんが小さく驚いたように声を上げた。
「冷凍棚を動かすなんて、珍しいですね」
「こう暑いと、冷たいものに目が行くと思いまして。目立たせておきましょう」
棚の上に、手書きで“冷たいものあります”とだけ書いた紙を掲げる。
冷房の効いた店内だからこそ、扉を開けたときのアイスの涼しさが際立つ。
開店してしばらくは客足もまばら。
けれど、来店する客の顔には、どこか火照ったような疲れが見えた。
「いらっしゃいませ。今日は冷たいもの、いかがですか?」
棚の前に立ち、さりげなく声をかける。
そのひと言で、足を止める人が徐々に増えていった。
最初にアイスを手に取ったのは、リリルルさんだった。
涼しげに空をひとまわりしてから、棚の上にちょこんと降りてくる。
「うわ、こんな場所にあったんだ、アイス!」
「今日は外が暑いですから、いかがですか」
「そんなん言われたら買うに決まってるじゃん!」
ピンク色のアイスバーを手に取ってレジへ向かい、きちんと会計を済ませたあと、
イートインスペースにふわっと飛んでいって、そこで包装を剥く。
「んーっ、舌がしびれる! でもうまっ!」
羽根をぱたぱた震わせながら、嬉しそうにアイスをかじっていた。
続いてやってきたのは、ラッカさん。
いつもなら惣菜コーナーに直行する彼が、今日は足を止めて冷凍棚を覗いていた。
「ふむ……冷たい食いもんか。前からあったか?」
「ええ。ただ、あまり出なかったので奥に引っ込めていました」
「たしかに今日は、ちょっと冷たいものがほしくなるな」
手に取ったのは、チョコレートでコーティングされたシンプルなアイスバー。
レジで精算を済ませたあと、彼もイートインの椅子に腰掛けて、包装を剥く。
一口かじって、ラッカさんは眉を少しだけ動かした。
「凍ってるのに、甘みがしっかりしてる。……これは、いいな」
「ありがとうございます。動かして正解でした」
「仲間にも試させてみるか」
そう言って、ラッカさんは同じアイスをさらに二本、かごに追加していった。
午後になる頃には、棚の中はだいぶ寂しくなっていた。
シルヴィさんが在庫を確認しながら、静かに呟いた。
「本当に、たくさん出ましたね。……あの、一本、私もいただいていいですか?」
「もちろん。今日はよく働いてくれましたから、ごほうび、俺からのおごりです」
「ありがとうございます」
彼女はバニラアイスを手に取り、イートインの片隅に座って、静かに包装を開ける。
一口かじって、ふっと表情がやわらぐ。
「……冷たくて甘いって、贅沢ですね」
日が傾く頃には、外の暑さも少し落ち着いてきていた。
売れ残りの確認を終えて、俺は冷蔵棚から水を汲み、カップにインスタントコーヒーを入れる。
今日はこっちも冷たいもので。
溶かしたコーヒーに氷を落とすと、カラン、と小さな音がした。
アイスコーヒーを一口。苦味と冷たさが、涼しい店内にほどよく馴染む。
「……今日はよく売れたな。暑さも、悪くないもんだ」
空には今日も、太陽と月。
スーパーまるかみ、冷たいひと口が、今日をちょっと軽くします。
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