第24話「スーパーまるかみ、小さな商売のはなし」
昼を少し過ぎて、店内が穏やかになってきたころ。
伝票をまとめていた俺は、見覚えのある人影が近づいてくるのが見えた。
自動ドアがウィーンと鳴る。
姿を見せたのは、肩にいつもの鞄を提げたアラットさんだった。
落ち着いた足取りで、まるかみの空気を吸うように、ゆっくりと入ってくる。
「ご無沙汰しております、店長さん。先日はありがとうございました」
「いらっしゃいませ、アラットさん。今日は……お買い物ではなさそうですね」
「ええ、少しだけお時間いただけますか?」
「もちろんです。あちらの席へどうぞ」
レジの奥にあるイートインスペースを示すと、アラットさんは丁寧に会釈してから向かった。
テーブルに腰かけたアラットさんは、鞄の口をゆっくりと開いた。
中から取り出したのは、小さな木箱。
ふたを開けると、内側に淡く光る魔法紋が刻まれていた。
「これは、時の流れが外の十分の一になる魔法の鞄です。中に入れたものを、長く持たせることができます」
「なるほど……ずいぶん便利な道具があるんですね」
俺は光のゆらぎを眺めながら、感心してそう答える。
実際、惣菜の保存という点では申し分ないだろう。
「この鞄を使って、まるかみさんのおにぎりや惣菜を持ち歩いて、街道沿いや宿の前で販売してみたいんです。小さな規模で、まずは少量から」
「売るために仕入れたい、ということですね」
「はい。もちろん、勝手に転売するつもりはありません。商品を扱う以上、話を通すのが筋だと思っています」
アラットさんは背筋を伸ばして、きっぱりとそう言った。
「まるかみさんの名前があるからこそ、ちゃんとした形にしたいんです。これは、私の商人としての矜持でもあります」
「……ありがとうございます。そのお気持ちは、こちらとしても嬉しいです」
しばらく考えてから、俺は口を開いた。
「まずは試験的に、という形でお受けします。内容は、おにぎりを八つ、惣菜五つ、漬物を三つ。明後日のお渡しで、よろしいでしょうか?」
「はい、問題ありません! ありがとうございます」
「売れ残ってしまった場合は、お気になさらず。無理をしないことが第一です」
「はい。最悪、自分で全部食べますので」
アラットさんの表情には、肩の力が抜けたような笑みが浮かんでいた。
どこか、ほっとしたようにも見える。
その様子を、レジの近くからシルヴィさんが静かに見ていた。
アラットさんが席を立ち、深く頭を下げて出ていったあと、彼女がぽつりと呟く。
「……あのような形で、仕入れが行われるのですね」
「少し特別な例ですが、信頼関係があってこそ成り立つものですね」
「紙ではなく、言葉から始まるのが印象的でした」
「そうですね。ここでは、とくにそういう形が多いのかもしれません」
シルヴィさんはそっと息を吐いて、どこか納得したように頷いた。
空には今日も、太陽と月。
スーパーまるかみ、小さな商売にも、大きな信頼を添えて送り出します。
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