第18話「スーパーまるかみ、アレンジ飯で盛りあがる」
昼過ぎ、来客の波が一段落した店内。
今日は風が少し強く、街道沿いの砂がちらついている。
そんな午後、レジ横のイートインスペースに腰を下ろした俺は、ようやくの昼飯に取りかかっていた。
惣菜コーナーの焼きそばに、目玉焼きとちょっとだけマヨネーズをのせて、レンジで温め直したもの。
いわゆる“まかない飯”というやつだ。
「……よし、人が居ないうちに食うか」
一口かき込むと、ソースの香りと卵のまろやかさ、そしてマヨのコクがちょうどいい。
前の世界では、昼の定番だった。特別な料理じゃないけれど、疲れた身体には染みる味。
「ふぅ……そういうば今日は珍しく誰も居なくて静かだな……」
そう思った矢先。
「……む? この香ばしいにおい……」
ウィーンと開いた自動ドアのほうから、ガンドルフさんの重厚な声が聞こえた。
気がつけば、ものすごい勢いスピードで近づいてきてイートインスペースに腰を下ろしている。
「その皿の上……見た目は雑だが、戦士の飯のような威厳がある。しかも……白き糊……?」
「これはマヨネーズです。卵と一緒に焼きそばに乗せて……」
「ふむ。この香り……こやつ、まさか“精霊との契約食”か?」
「いや、ただの俺の昼飯です」
説明している間に、今度は風に乗ってひらひらと何かが舞い込んできた。
……いや、違う、リリルルさんだ。
「うわーっ! なにそのごはん〜!? ちょっといいにおいしすぎない!? 反則!」
「リリルルさん、飛びながら入ってこないでくださいって何度も――」
「むりむり!このにおい嗅いだらもう無理っ!……あ、ちょっとだけちょーだい!」
そして、断る間もなく、焼きそばに手が伸びた。
……ひとくち奪われた。
「はふっ、もぐ……んん〜〜っ、たまごと焼きそばとマヨの三重奏……これ、商品化すべき!!」
「いや、これまかないで――」
「まかないってことは、非公開のレアメニューってことでしょ!? 限定感ある〜!」
その声を聞きつけて、人の気配が増えていく。
「店長、焼きそばにソーセージ追加したら最強じゃね?」
そう言っていつのまにかやってきたノッカさんが惣菜売り場からソーセージを持ってきた。
「焼いてから、ごはんに乗せて、胡椒ふって……うん、完璧。これ“戦士飯”って名前でいいな」
目に星を浮かべてキラキラしている。ソーセージ愛を語る時は普段の不敵な笑みじゃない。
「わたくしはですね、こちらのプリンに冷たいミルクティーを注ぐと……飲むプリンになります」
ミリエラさんが持ってきたのは、まさかの“プリンティー”。
「見た目は悪いけど味はいいです。とろっとした舌触り、甘さも緩やかに中和されますし、脳に優しいですよ」
脳に優しいって、プリンでそこまで分析しなくても……。
「おいおい! オレの“コロッケ×唐揚げ×おにぎりサンド”を忘れちゃいけねぇ!」
と、ラッカがパンを持って現れた。なぜパン?
「こうやってコロッケを潰して、唐揚げを並べて、おにぎりの米部分をサンドイッチの具にする! で、最後にバター! うめぇぞ〜!」
すごい。破壊力がすごすぎる。
それを聞いて、ガンドルフさんがうなる。
「貴様……まさか“混成重撃弁当”をここまでの形に昇華するとは……!」
なんの戦いだ。
「みんな、そんなに自由にアレンジしてたんですね」
思わず呆れ……いや、感心して声に出す。
リリルルさんが言った。
「だってさ、最初は“そのまま食べるもの”って思ってたけど、ちょっと手を加えたら、新しい世界が開けたって感じで〜!」
「うむ。鍛冶と同じよ。“良い素材”はあるが、“加工の妙”が重要じゃ」
そう言ってガンドルフさんがうなずく。
「……完璧すぎるものは、つまらない時もあるんですよね。自分の“好き”を足す余地があると、愛着も湧きます」
ミリエラさんの一言に、みんながうなずいた。
そして気がつけば、イートインスペースの空気がいつもよりあたたかい。
よし、と俺は惣菜棚の端にバックヤードに転がっていた小さなメモボードを取り出して設置した。
「“みんなのおすすめアレンジ”、書きたいやつはここにどうぞ……っと」
ちょっとした思いつき。だけど、案外こういうのが広がっていくのかもしれない。
ふと見ると、ミリエラさんが手のひら大の透明な板を出していた。
「これ、魔導掲示板にしておきますね。定期的に内容を更新・保存できますから」
「すごいな魔法って……」
「ふふ、今さら?」
――閉店間際、掲示板を見てみると、すでに何か書かれていた。
《鍛冶屋プレート》焼きそば+卵+唐揚げ+マヨ(ガンドルフ)
《スナック茶菓子プリン》プリン+冷紅茶《戦士飯》ソーセージ+ごはん+胡椒
《ラッカスペシャル》揚げ物全部をパンに挟んでソースぶっかけ(ラッカ)
《おとぎスイーツ》プリン+好きなおかし+ゼリー(リリルル)
……なんか、こういうのも悪くないな。
コーヒーをすすりながら、レジ横の席でそっとつぶやく。
「……食べ方は、自由か」
空には今日も、太陽と月。
スーパーまるかみ、異世界に“食べる楽しみ”を広げながら、今日も元気に営業中です。
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