第17話「スーパーまるかみ、ソーセージを極めし者」
異世界転移から三ヶ月と数日。
昨日は魔族部隊が来店して、スーパーまるかみが本格的に“兵站拠点”と化しかけた。
今日は平和で静かな朝――のはずだったのだが。
ウィーン。
自動ドアが開いて、すらりとした影が差し込む。
革鎧、猫耳、腰に双剣。すらりとした肢体に軽やかな足音。
獣人の双剣使い、ノッカさんが入店した。
「おっす、店長!来てやったぜ」
「いらっしゃいませ。ノッカさん、今日はお一人で?」
「たまには一人で来たい日もあんだよ。あいつらといると落ち着いて選べねぇからな」
言いながらも、口元にはうっすら笑み。
歩き方はキビキビしているのに、どこか浮き足立ってる気がしなくもない。
「ラッカがさ、“ソーセージの新作出たぞ”って昨日うるさくてな。でけぇ声で叫ぶんじゃねえっての」
「ノッカさんソーセージ好きですもんね。はい、“あらびきスモークブラック”という商品が入荷しましたよ、スパイシーで肉感も強め。がっつり系ですね」
「お、そういうの好きだぜ。……気取った味より、素直に腹にくるやつのがいい」
そう言ってまっすぐにソーセージコーナーへ向かうノッカさん。
目当てのパッケージを手に取ると、少しだけ目を細めた。
「……黒と赤。なんか……かっけーな、これ。強そう」
強そう、という表現がなんかズレてるけど、そこがノッカさんらしい。
「でもこれ、ちょっとだけ……ほら、なんつーか。……贅沢な感じっていうか」
ふいに言葉を濁して、視線を逸らす。
その仕草がほんの少し――照れているように見えた。
「三袋買うわ。今日は剣の稽古会があるんだよ。終わった後、差し入れにしようかと」
「さすが気配りができる剣士ですね。じゃあ、おつまみ系もいかがですか?」
「んー、チーズ入りのピリ辛スティック? それ、前にミリエラが買ってたやつじゃね?」
「はい。辛さ強めですが、味に深みがありますよ」
「いいね。辛いの、案外好きなんだ。……辛いもん食って汗かくの、気持ちいいし」
そう言いながら、ノッカさんは手に取ったスティックをカゴに入れる。
その時、ふと小声で――独り言みたいに呟いた。
「……汗かくっていえば、稽古のあと髪、ちゃんと結び直さねーとな。ぼさぼさで見られたくねーし」
ぼそっと。完全に独り言。
でも、その“見られたくない”って誰への気遣いなのか、ちょっと気になる。
本人はすぐに口笛なんか吹いてごまかしてたけど、耳がほんの少しだけ、赤かった。
「プリンも追加。別に好きってわけじゃねーけど、疲れた時に甘いのあると、嬉しいじゃん?」
「ですね。甘いものは、体も気持ちも回復しますから」
「……あー……なんか、言い方がさ、優しすぎんだよ、店長」
「すみません、接客業なもので」
「ふっ、なら仕方ねーな」
支払いを終えたあと、袋詰めを受け取ると、ノッカさんは肩に担いだ袋を軽く叩いた。
「しかしよ、ここの袋……ちょっとかわいくねぇか? この、花の模様」
「あ、それ密かに人気なんです。エルフ層と妖精層に特に好評で」
「ふーん……そっか。…あっ、別に気に入ってるとか、そんなんじゃねーからな?」
口調は男前なのに、照れている...ツンデレか。
「また来るぜ。……店長、今度ソーセージの詰め合わせとか、やってみてくれよ」
「お中元みたいですね……了解です」
ドアの前でふと立ち止まって、こちらを見ずに手を振る。
「じゃな店長!またソーセージ買いにくるわ!」
「はい是非、ありがとうございましたー!」
ノッカさんの背中が夕陽の光を受けて、少しきらきらして見えた。
戦士の背中なのに、どこか乙女の気配も混ざっているような、不思議な余韻。
コーヒーを注いで、一口すすった。
空には今日も、太陽と月。
スーパーまるかみ、異世界の剣士にも“日常の味”を届けています。
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