第15話「スーパーまるかみ、特売セールで目が回る」
異世界に転移して、ちょうど三ヶ月が経った。
太陽と月が同時に空を照らす日常にもすっかり慣れ、店のドアがウィーンと開く音にも驚かなくなった今日この頃。
スーパーまるかみには、ドワーフもエルフも獣人も、妖精族までもがふらっと立ち寄るようになり、「あの店、便利らしいぞ」と言われる程度には根付いてきた。
――だからこそ、俺は考えた。
「ここらで一発、“感謝セール”やってみるか」
思いつきじゃない。ちゃんと理由がある。
この三ヶ月、支えてくれたのは他でもない、異世界の常連たちだった。
コロッケを愛しすぎて語彙力を失うラッカさん。
文明の利器を日常に溶け込ませていくミリエラさん。
“肉と酒と魂の戦士”ガンドルフさん。
そして、“甘味伝道師”ことリリルルさん――。
彼らに何か“ありがとう”を伝えたい。異世界式の贈り物はまだよくわからないけど、俺にはこれがある。
「セールだ。超お得なやつ。値引き、サービス、おまけつき」
とはいえ、告知手段に限界がある。
そこで、店内掲示板と出入口にセール告知ポスターを貼り出すことにした。
俺が案だしし、文字はミリエラさんに魔導筆で補完してもらった。
さらにラッカさんが「広場の掲示板にも貼っといたぞ!」と勝手に支店展開。
おまけに、リリルルさんが「“ぷでぃんぐがやっすくなる日”ですって〜!!」と空中から叫んで回ったらしく、結果的に広報は完璧だった。
そして、迎えた当日――
開店前から並ぶ人影ができていた。
「おい、今日のコロッケって本当に半額なのか!?」
「“芋の奇跡”とやらが銅貨半枚だって!?」
「妖精達が“神がましましの店”って言ってたぞ!」
※それは多分、甘味盛り盛りの意味です。
ドアが開いた瞬間、いつもより賑やかな足音と笑い声が店内を満たした。
「はぁぁ……プリンとマカロン、どっちにしようか迷っちゃうぅ〜〜〜っっ!」
「リリルルさん、まずは飛ばずに歩いて選びましょう!」
普段は穏やかなイートインコーナーも今日は満席。
惣菜コーナーは人だかり、冷蔵棚は何故か空前の麦茶フィーバー。
それでも、みんな譲り合って買い物を楽しんでくれている姿に、ちょっと胸が熱くなった。
「……まぁ、俺は地獄だけどな!!」
惣菜を揚げ、レジを打ち、品出しして、バックヤードで補充。
トイレ行く暇もない。ちょっとコーヒーブレイクしたいところだが、そんなものしたら俺がブレイクする(物理的に)。
「店長、ビールの棚がすっからかんだ!」
「ポテサラ、あと2個しかないぞ!」
「チーズが“融和の香り”になってたわ!」
※最後のはエルフのミリエラさんの感想です。美化されすぎ。
常連たちも声をかけてくれるけど、それだけでは手が足りなかった。
気づけばあっという間に日が暮れて、ようやく閉店時刻。
「本日の“まるかみ感謝セール”、終了です。皆さま、ご来店ありがとうございましたー……」
最後の会計を終え、ドアを閉めたその瞬間。
「うっわ……足と腰と腕と頭が……崩壊寸前……」
店内には誰もいない。
コーヒーメーカーからコーヒーをカップに注ぎ、レジ前に座ってようやく一息。
コーヒーをすすりながらぼんやり考える。
「ありがたい一日だったな……でも、限界だったな」
だって、完全ワンオペ。スタッフゼロ。異世界での孤軍奮闘。流石にパートのエース主婦・佐藤さんも異世界までは出勤できないらしい。
補充ミスはあった。唐揚げ揚げすぎて焦がした。ガンドルフさんに「肉という代物であれば大体食える!」と謎フォローをされて助かったけど。
こんな日が増えたら――正直、体がもたない。
「……そろそろ、バイトかパートを雇うか?」
異世界での人材確保は未知数だけど、どうしようか――。
「あー、アラットさん……商業ネットワークとかあるかも知れないし、その辺強そうだしな。今度来たら相談、してみるか」
そう呟いた瞬間、なんだか少しだけ未来が開けた気がした。
空には、今日も月と太陽。
スーパーまるかみ、本日、異世界三ヶ月感謝セールを無事終了しました。
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