第14話「スーパーまるかみ、ドワーフたちの宴支度」
ウィーン。
いつものように自動ドアが開いた。が、その空気は、いつもと少し違った。
「店長、ちょっといいか?実はな……今日は、仕入れに来た」
静かに歩いてきたのは、ドワーフのガンドルフさん。
しかし、彼の声には明らかに熱気がある。眼光がギラついている。
「おはようございます、ガンドルフさん。……仕入れ、ですか?」
「今夜、鍛冶場の仲間十数人と“宴”をやる。肉と酒とつまみを大量に用意したい」
「……十数人分、ですか」
「いや、“鍛冶場のドワーフ”十数人分だ。食う量が人間の軽く3倍はあると思ってくれていい」
俺は一瞬、惣菜ケースの在庫と、冷蔵庫の酒を頭の中で確認した。
「わかりました。できる限りご協力します。……どのような品をお求めでしょうか?」
「まず、唐揚げ。40」
「40、ですか」
「あと、チキンカツ20。ミートボール10パック。ソーセージ10袋。ポテトフライも同じく10...いやこれは20だな」
「はい、すぐに確認いたします」
「ナッツ2袋、チーズスティック10、イカ天5袋。あと“あのピリ辛い豆のやつ”、あれは20袋欲しい」
「あ、"ピリ辛チリピーナッツ"ですね、はい」
「酒はビール40本、ウイスキー10本……全部冷えたやつで。あとなんだったかな..."ダイハチロウ"だ、デカい焼酎、他には――」
俺はもう、軽く業者の気分だった。
さすがドワーフ、無限の胃袋。
「レジ袋には入りきらないと思いますので、箱にまとめますね。お持ち帰りは……」
「うちで作ってる特注の大型荷車を持ってきた」
「……完璧ですね」
バックヤードの補助冷蔵庫からストックを引っ張り出し、荷台にどんどんと商品を積み上げる。
「ガンドルフさん、お支払いは銅貨・銀貨・金貨どれでも対応可能ですが、今回は……」
「全部銀貨で。とりあえずここに500枚あるんだが...足りるか?」
「ありがとうございます。たぶん大丈夫ですね...しっかり数えてお返ししますね」
カウンター越しに渡された袋入り銀貨を受け取り、丁寧に精算する。
買い物がすべて終わったあと、ガンドルフさんは唐揚げ一個をレジ横のイートインスペースでつまみ、大量のお惣菜が入った荷箱を肩に担ぐ直前、ふと振り返った。
「この惣菜、こっちの世界の“鍛冶飯”になりそうだ」
「それは光栄です。またのご来店をお待ちしております」
「うむ。……次は鍋料理も頼みたい」
「……鍋ですね。わかりました、仕入れておきます」
ドワーフたちの宴支度を終えたその背中には、堂々たる風格があった。
そして自動ドアの先には、鉄のトロッコを引く屈強でガチムチなドワーフたちの姿――。
次の瞬間、地響きのような笑い声が、遠くまで響いていった。
その余韻の中、俺はゆっくりとコーヒーを淹れた。
香り高い一杯を手に、静かになったレジ前の椅子に腰を下ろす。
「……うちの惣菜、異世界の宴会まで制圧してるのか」
スーパーまるかみ、今日はドワーフたちの大宴会も支えています。
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