第13話「スーパーまるかみ、カップ麺で湯気が立ちます」
今日の目玉は、カップ麺――その名も『ビッグ・ザ・グレートカップ』である。
なんというか、名前の時点でもう“やる気”しか感じない商品だ。
通常サイズの3倍、具材は謎肉とキャベツ多め、スープは濃いめの醤油ベース。デカすぎない?
そして、もちろん新商品なので入荷数は多くない。人気爆発の予感しかしない。
惣菜と並ぶ人気商品になるかもな……なんて思っていたら、予想を裏切らない人物が颯爽と現れた。
「おう店長ーッ! なんか面白そうな新しいメシ入ったって聞いたんだけど!」
「ラッカさん、また大声です。いらっしゃいませ」
「へへっ、まーたちょっと寄ってみただけさ! で、どれ? “グレート”ってやつ!」
「こちらですね。新商品のカップ麺になります。お湯を注いで三分待つと完成です」
「三分!? たったの!? ……あれ、そういや湯なんて、どこで……?」
「ご安心ください。ミリエラさんが置いていった魔導ケトル、こちらにあります」
バックヤードのテーブル横に据え置かれた魔導ケトルは、今日も健気に熱湯を沸かしてくれている。
見た目は完全にステンレス製なのに、動力源は魔力。ノータンク。便利すぎる。
「……これ、あんときの“チン”って鳴る鍋か?」
「鳴りませんが、使い方は似たようなものです」
ラッカさんは感心しながらケトルを使い、フタを開けたグレートカップに湯を注ぐ。
「なぁ、これって誰が作ったんだ?」
「うーん...製造元は……多分、埼玉県のどこかですね」
「“さいたま”って、なんか強そうな響きだな……」
そのとき、ちょうどドワーフのガンドルフさんが入店してきた。
「ん、湯気……なんだその香ばしい匂いは」
「お、ガンドルフさん! 今日の新作です、“ビッグ・ザ・グレートカップ”!」
「……名前が長いな」
「そこは勢いで覚えてください」
ガンドルフさんもカップ麺を手に取り、黙ってケトルに向かう。さすが、行動が早い。
そして、三分後。
「おおお……香りが、鼻にくる! スープがすごいぞ!」
「麺がつるつるしてて……クセになる!」
ラッカさんが汗をかきながら夢中ですする。
その横で、ガンドルフさんは黙々と食べつつ、なぜか途中で小さくガッツポーズをした。
「……これは、戦士の飯だ」
「カップ麺を称えるセリフとしては最高ですね、それ」
レジ前に座ってその様子を見ていた俺は、湯気の立つ店内にちょっとした満足感を覚えた。
こうして異世界の住人たちはまたひとつ、日本のジャンクフードの魔力に取り込まれていった。
そして、ふと棚を見ると――
「もう、残り……二個?」
販売開始から二時間。予想以上のスピードで減っていた。
補充、考えないとな。
俺はコーヒーを淹れながら、ふうと息をついた。
コーヒーの香りと、麺のスープの匂いが混ざる空気の中で。
「……こういうのも、悪くないな」
スーパーまるかみ、今日も異世界にあったかい湯気と胃袋をお届け中です。
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