第12話「スーパーまるかみ、冒険者パーティご来店です」
「おい店長ーッ! 今日は仲間連れてきたぜ!」
朝のオープンからそれほど時間が経っていないというのに、スーパーまるかみの自動ドアが、ウィーンと音を立てて開いた。
その先頭には、耳をピンと立てて、いつも通り元気に走り込んでくるラッカさんの姿。
「おはようございます、ラッカさん。走るのはダメですよ!」
「おっと、すまん! でも今日はな、大事な紹介があるんだよ!」
ラッカさんの後ろから、次々と異種族の冒険者たちが入ってくる。
筋骨隆々な大男の人間の戦士、身軽そうな双剣使いの猫獣人娘、ローブ姿の小柄な魔導士風エルフ、そして無表情な斧を持ったドワーフ……。
「ラッカさん、……フルパーティで来たんですか」
「だってさ、この前“揚げ物の神域”って話したらさ、全員『それどこ?』ってなってさ!」
「“揚げ物の神域”って呼ばれてるんですか、うちの惣菜コーナー……」
「だってさ、唐揚げとコロッケがさ! あの、表面カリッ、中じゅわっでさ!」
全員が頷いた。真剣な顔で。
「おはようございます。ようこそ、スーパーまるかみへ。本日はご案内が必要でしょうか?」
「おお、さすが神域の管理人……いや、これは頼もしい」
人間の戦士(名前はダインさん)が、やけに感心した顔でうなずく。
「ラッカからは聞いてたけど、思ったより……きれいな場所だな」
「魔力の流れが妙に整ってる……これは意図された構造だわ」
ローブのエルフ(サーリャさんと言うそうだ)が棚の並びをじーっと観察してる。
でもそれ、ただの陳列です。
女猫獣人の双剣使いさん(ノッカさんというらしい)は、すでに惣菜売り場で唐揚げケースを見つめて目がキラキラしていた。
「これ……ほんとに買えるの? これが全部“売り物”なの!?」
「はい、お一人さま何点でもご自由にどうぞ。ただし、勝手に食べないようにお願いしますね」
「うおおおおぉぉ……!」
悲鳴のような歓喜が売り場に響く。
やめて、唐揚げを拝んで泣かないで。
ドワーフの斧使い(ゴドークさん、ゴクドーではない)は黙ってコロッケを五つ手に取り、ふところから出した銀貨で精算しようとする。
「申し訳ありません。こちら、税込で一つ銅貨1枚となっておりまして……」
「ふむ、えらく安いな。ではこれで釣りを頼む」
「ありがとうございます。こちら銅貨五枚のお釣りです」
金額をすんなり理解してくれるの、地味にありがたい。
もしかしてこの世界のドワーフさん賢すぎない?
「ラッカさん、みなさん、レジ袋はお使いになりますか?」
「おう、今日は使わせてくれ! ほら、持ちきれねえ!」
「承知しました。鉄貨一枚で一袋です」
レジ袋があっという間にパンパンに膨らんでいく。
揚げ物、焼き鳥、ミートボール、チキンカツ……完全にパーティの補給食だ。
そして全員が袋を抱えて帰っていくころ、ラッカさんがひとこと。
「なあ店長、またみんなで定期的に買いに来てもいいか?」
「もちろん、いつでもどうぞ。……ただし、走らないように」
「ははっ、了解だ!」
冒険者たちの足音が遠ざかり、店内が元の静けさを取り戻す。
……と思ったら、奥の冷蔵庫の前でガンドルフさんが酒瓶。じっと見つめていた。
いたのか。
「……あいつら、元気いいな」
「はい。でも、ありがたいお客さまです」
俺はレジに戻って、コーヒーを手に取った。
一口すすって、ふうと息をつく。
静かになった店内と、鼻をくすぐるコーヒーの香り。
「さて……今のうちに商品の補充、しておくか」
スーパーまるかみ、今日も異世界の胃袋をしっかり満たしております。
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