第11話「スーパーまるかみ、アラットさんの商機」
ウィーン、と控えめな音で自動ドアが開いた。
「こんにちは。今日も、営業されていて安心しました」
現れたのは人間族の商人、アラットさん。
少し日焼けした肌と旅装束が、前回よりいくらか“なじんだ常連”を思わせた。
「いらっしゃいませ、アラットさん。もちろん、毎日営業中です」
「ええ、そうだろうと思っていました」
そのままアラットさんは、カゴを取りながら店内を見て歩く。
前回とは違って、今回は明らかに“買う気”で来ている。
「相変わらずいい品揃えですね」
「ありがとうございます、まぁうちは基本、安定重視でして。……変わり映えがあまりないとも言えますが...」
冗談混じりで言うと、アラットさんは口元だけで笑った。
「変わらないって、案外すごいことです」
乾麺、インスタントスープ、飲料など、ひととおりの商品を手際よくカゴに入れていく。
途中、紙皿とスプーンのコーナーで立ち止まり、じっと形を見つめていた。
「この道具も、面白いですね。軽くて、捨てられる。旅先で助かる品です」
「ありがたい言葉です。よければ日用品コーナーとかも見ていってください」
「ふふ、また“発明”を見つけてしまいそうですね」
そう言って、アラットさんはレジ前の陳列棚で足を止めた。
そして、並んでいた商品の中から、ひとつだけ、そっと手に取った。
「それと……これはあくまで個人的な話ですが」
アラットさんは、かごに一つだけ追加で入れた。
「“例の芋のやつ”、これは本当にいい。口にするたび、なぜか落ち着く」
「“ポテトサラダ”って言ってあげてください。食べ物が概念化されてるの、怖いんで」
「失礼、つい属性思考が染みついてしまっていて」
アラットさんはその後、麦茶とおにぎりを追加してレジに来た。支払いもスムーズ。
「次は、商売の話も少し持ってこようと思います。小さな提案からですが」
「ありがとうございます。こちらはいつでもお待ちしてます」
「……ええ。変わらないままで、いてください」
そう言って、アラットさんは静かに手を挙げて帰っていった。
レジ前に残ったポテサラのPOPには、いつの間にか“芋の奇跡”と書き加えられていた。
たぶんラッカさんのしわざだ。スーパーまるかみの異世界方面広報担当になりつつあるな...。
「……いらっしゃいませー!」
異世界の誰かの記憶と結びつく味。
スーパーまるかみ、今日も営業中です。
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