第10話「スーパーまるかみ、エルフの魔道具革命」
異世界に来て、ついに二ヶ月を迎えた朝。
今日も空には月と太陽。変わらない。すごい。そろそろ天気予報アプリ入れたい。
スーパーまるかみ、今日も開店。
ポテサラの人気が地味に爆発中で、最近は惣菜棚に「例の芋のやつ」って手書きPOPを添えるようになった。
言い出しっぺはラッカさんで、筆書きはミリエラさん。みんな巻き込み型。
ウィーン、とドアが開く。
「ごきげんよう、店長」
「おはようございます、ミリエラさん。今日も“例の芋のやつ”ですか?」
「ふふ、それもあるけど、今日はお披露目がメインなの」
そう言って、彼女が取り出したのは、ずんぐりした土色の筒型の壺……いや、壺というにはパーツがやけにメカっぽい。
「……それは?」
「最新の魔導具。“お湯の精を呼ぶ壺”よ。要するに――全魔導お湯沸かし器」
「要約したことで精霊っぽいくだりが一気になくなりましたね」
説明によると、これは火も魔力もいらず、水を注いでつまみをひねるだけで熱湯が出るという代物。
内部の符術が圧縮熱蒸気を生み、さらに蒸気を循環させることで安定加熱……とにかく異世界なのに電気ケトルが来てしまったらしい。
「こ、これは……」
ぬっ、と隣の棚からガンドルフさんが現れた。
「火を使わず湯が沸くのか……?」
「ええ、夜勤の鍛冶仕事に便利でしょ?」
「お主……それは革命だぞ……」
「なんでこっちの革命始まった……?」
次にやって来たリリルルさんは、興味津々で魔導壺のふたを開け――
「うわ〜〜〜! これで“あまいこーひー”ってやつ入れられるの!? 飲みたい〜!!」
「それはカフェインが強すぎるからストップね」
ラッカさんは「俺もこれでラーメン作ってぇ〜」とか言ってたが、お前インスタント麺食べすぎだ。
ミリエラさんが説明している間、俺はじっと魔導具を見つめながら考えた。
これがあれば、お湯がすぐ出せる。カップ麺、お茶、レトルト食品の湯煎……
もしかして、異世界側のライフスタイルと現代食品、がっちり繋がる日が来るのでは……?
「……それ、貸してもらえます?」
「もちろん。しばらく置いていくわ。壊れたら自己責任でね?」
こうして、スーパーまるかみに“異世界ケトル”が導入された。
そして俺は気づく――
この店、スーパーっていうか……すでに“拠点”だ。
「……店長?」
「……あっ、すみません。ちょっとセンチメンタルになってました」
ミリエラさんは笑ってポテサラ(最近お気に入りらしい)とサラダチキンをレジに置いた。
「この世界、きっともっと変わっていくわよ。ここの存在で」
「えらく責任、重くないですか?」
「でも、ちゃんと支えてるじゃない。スーパーまるかみは、“日常”を創ってる」
「……ありがとうございます」
コーヒーを飲みながら、俺はふと、魔導具の蒸気が立ち上るのを見た。
それはなんとなく、“この世界とこっちの世界の距離”が、少しだけ近づいた気がする瞬間だった。
「いらっしゃいませー!」
スーパーまるかみ、今日も便利と日常の交差点で、営業中です。
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