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第1話「スーパーまるかみ、異世界出店しました!」

地元スーパーが異世界に転移したので、店長がとりあえず営業します。

ゆるっと日常、開店します!


「今日も一日、お疲れさまでした〜!」


 パートの主婦・佐藤さんがレジを閉じ、笑顔で手を振って帰っていった。佐藤さんはパート歴6年、仕事が速くて気も利く、スーパーまるかみのエース主婦だ。

時刻は22時。スーパーまるかみは20時閉店で、21時には片付けが終わり、22時には店長の俺が締め作業を終える、という流れになっている。


 俺の名前は丸上直哉。地元密着型スーパーマーケット『スーパーまるかみ』の三代目店長。28歳、独身、コーヒー大好き。店の屋上でよくドリップして飲んでるくらいには愛している。


 この店はじいちゃんが始めて、親父が拡大して、俺が継いだ。周囲の大型チェーン店に押されつつも、地元のおばちゃんや学生たちに愛されて、そこそこやっていけてる。まあ、借金もあるけど。


 そんな俺のささやかな日常が、ある日――いや、まさにこの夜――ぶっ壊れた。


「ふう……レジも締めたし、売上データもOK。あとは電気落として、帰るだけだな」


 バックヤードの古いコーヒーメーカーに湯を注ぎながら、俺は伸びをした。夜の店内は静かで、蛍光灯の音と、コーヒーの香りだけがそこにある。すこし冷えた空気の中で、俺は一杯のコーヒーをすすった。


 その瞬間だった。


 ドゥォォォォン!!!


 地鳴りのような音とともに、足元がグラついた。


「うわっ!? な、なに地震!? いや、爆発!? 誰か電子レンジにアルミホイル入れた!?」


 店の壁がミシミシと軋み、蛍光灯がチカチカと瞬いた。が、その直後、店全体がふわっと浮いた気がした。文字通り、物理的に。


 そして――すべての音が、消えた。


 気づけば、外が真っ暗だ。というより、違和感しかない。


「……え?」


 自動ドアを開けて外に出る。見慣れた国道がない。コンビニも、向かいのクリーニング屋も、隣の駐車場も消えていた。


 あるのは、月明かりに照らされた草原と、森と、遠くに見える石造りの塔。そして、満天の星空。


「いや、待て待て待て……。これは、ドッキリか? テレビ局の新手のバラエティか?」


 俺は空を見上げた。けれど、見覚えのない星座が瞬いていた。俺の知ってる空じゃない。


 数秒後。


「――異世界転移だな。これ」


 自分でも驚くほど冷静に、俺は呟いた。


 心のどこかで「ついに俺の番が来たか」と思っていたのかもしれない。なんせ、昔からそういうラノベ好きだったし。異世界、転移、スローライフ、魔法、剣、ギルド。そういう単語に弱い男、それが俺。


 でも、俺が転移したのは俺だけじゃなかった。


 振り返ると、そこには煌々と電気がついた『スーパーまるかみ』が、まるっと建っていた。


「おおぉぉ……。まるごと来たのか……!」


 店ごと転移ってパターン、読んだことないわけじゃない。だが、いざ自分が体験するとスケールのデカさに驚く。


 そうこうしているうちに、何かが近づいてきた。


「ふむ? 人の気配がするぞ?」


 低く、よく通る声。森のほうから、フードをかぶった一団が現れた。背丈や耳の形がバラバラだ。あれは……エルフ? ドワーフ? 獣人? そして――


「おい、あそこに光ってる建物があるぞ! 城か!? 魔術師の塔か!?」


「いや、あれは……食い物を売ってる店じゃないか!? 匂いがするぞ、肉の匂いが!」


「まさか、また幻覚魔法か?」


 その中の一人が、鼻をクンクンさせながら駆け寄ってきた。


「うおっ、けもみみ!? ほんとにいるの!? 本物!?」


 茶色い毛並みの耳を揺らすその青年は、どう見ても獣人。犬っぽい見た目で、目がキラキラしてる。


「ここは……何だ!? 食い物屋か? 取引できるか!?」


「ああ、えっと……はい、こちらはスーパーマーケットといって、食料品や日用品などを販売している店です」


「すーぱー……? なんだそれは!? 魔法の道具か!?」


「いえ、まあ……なんというか、文明の力といいますか。勝手に飲んだり食べたりはナシでお願いしますね」


「ふむ……わかった。そういう決まりなら従おう」


 俺が自動ドアを指さすと、一行はおそるおそる中へと入っていった。


「うおおお! 魔導の光が天井から!!」


「この水……冷たい!? 冷えてる!? しかも飲めるぅぅ!?」


「すげぇ! 触らずに扉が開くぞ!!」


「これは……これはまさしく、神の聖域では!?」


 ちょっと待て。落ち着け。これはただの地域密着型の個人スーパーだ。そんなファンタジー的リアクションされても困る。


 だが、彼らは子供のようにはしゃぎ、売り場をぐるぐる回っていた。異世界に転移して数分で、スーパーまるかみは完全に「異世界の奇跡」となった。


「……俺、明日からどうなるんだろうな」


 コーヒーの紙コップを持ったまま、俺はレジカウンターの椅子に座ってつぶやいた。


 まあ、なるようになるか。


 そんな気楽なノリで、俺の異世界スーパーマーケット生活は幕を開けたのだった。


初投稿にお付き合いいただき、ありがとうございました!

今後も異世界でスーパーを営業する店長の、ゆるい日常を描いていきます。

拙い文章ですがお付き合いください。

次回もよろしくお願いします☕


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