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第8話 ノリノリな陽気な二人

 「それで、ク~ちゃんどこ行けばいいの」


 ドデカい武器を駆使してこの子の片腕を剥がしにいっても無駄だろうと思う俺は、アイちゃんに素直に返事をする。


 「そんなの俺に聞かれたって分からんよ。アイちゃん。二人の居場所知らない?」

 「知らない」

 

 高速で首を振った。本当に知らない時である。


 「それじゃあ、さっき占いがどうのこうの言ってなかったっけ? それで俺たちを探したの?」

 「うん。マカさんの占いで、マールベンの床屋さんに行くといいよって」

 「すげえ人だな。なんだそのピンポイントな指示。ああ、そんで、マカさんって誰なんだ? 詳しい情報をくれ」 

 「王都にいる占い師でマカさん」

 「いや、だから」


 マカさんの詳しい情報を中々教えてくれない。

 俺の聞き方が悪かったようだ。


 「マカさんのお名前は?」

 「マカさん!」

 「え? マカ・・・ってのがお名前なの?」

 「ううん。違う。覚えてない!」

 「嘘だろ。親し気なのに! 知らないの?」

 「うん。仲良しだよ」

 「じゃあ、なんで知らねえんだよ」

 「わかんない」

 「もしかして、俺の名前は?」

 「ク~ちゃん」

 「いや、本名よ」

 「クスネル・シューゲンだよ」

 「お。合ってる。じゃあ、あいつは。さっきのトイカって奴」

 「ええ・・・なんだっけ」


 名前が出ただけで、嫌そうな顔をした。

 人を嫌いになる事がないアイちゃんにしては珍しい事だった。

 でもその気持ちもなんとなくわかる。

 あれ、気持ち悪いもんな。

 もう少し普通に告白すれば、まともに見えなくもないのに、残念な奴だ。

 スペックから考えれば、別に悪くもないのにな。

 顔とか身長とか。それに身分とかさ。

 金持ちだぞあいつ。たぶん。

 身なりも結構いい感じの奴だった。


 とここで思った。

 俺、スキルを使ってあいつを調べれば良かったんだ。

 俺も間抜けだなと思ってアイちゃんに呆れるのはやめた。


 「まあいいや。アイちゃんもあいつの事は忘れてもいいよ」

 「いいの。やっぱりク~ちゃん大好き」


 俺の肩に顔を摺り寄せてきた。

 俺は『顔を擦って来ないで』とは思う。


 「はいはい。それで、どうするかな」


 俺は悩んだ。

 皆を探すのにも闇雲じゃどうしようもない。

 今のは行き当たりばったりで、たまたま見つけたに過ぎない。

 でも今度は明確に探さないと見つからないような気がした。

 何せあの二人は頭が良い。

 特にマー君は、冒険者としてもソロでもやれるくらいのしっかり者だから、ちゃんとした道筋じゃないと見つからない気がした。


 「マー君。どこに行ったんだろう。五年経っているからな。あそこの位置からだいぶ動けるもんな」


 俺は最後に会っていた場所から逆算して位置を割り出そうとしたが、五年も経っていれば、この世界のどこにでも移動できるし、海だって空だって移動できるから、考えてもほとんど意味がなかった。

  

 「マー君。シリちゃん。どこ行ったんだろ」

 「とりあえずさ」


 色々考えていたら、ゴっちゃんが言って来た。


 「ん?」

 「靴投げて決めるか!」

 「は?」

 「この靴のつま先が向いている方向に行こう!」

 「アホか。そんなんで移動して見つかるわけないじゃん」 

 「でも、動かなかったら、見つからないぞ」

 「たしかに」

 「そんで、悩んでいたって始まらないぜ!」

 「まあそうだな。いいよ。じゃあ。やってくれ」


 どうにでもなれと思って俺は許可を出した。

 ゴっちゃんは、靴を半分脱いで準備をし始める。


 「イエーイ。いくぞ。ク~ちゃん!」

 「早くいけよ」


 俺はツッコミを入れた。


 「イエーイ。いくぞ。アイちゃん!」

 「イエーイ。いったっていいよ。ゴっちゃん!」


 この二人、ノリノリである。


 「せーの・・・ほい!」


 ゴっちゃんは自分の靴を真上に飛ばした。

 靴が空中でクルクル回っている間。

 こんなので決めてもいいのかという思いと、どうせこんなんでも上手くいくのかもなという変な信頼感があった。

 いつも俺が悩んだときは、いつもバカバカしい方法で解決してくれるのが、俺の親友たちだった。

 くだらない事が一番良い。

 それが俺たちの間柄で起きる出来事だ。


 『ぼたっ』


 靴が落ちた先は、北東だった。


 「こっちだ! 行こうぜ。二人とも」

 「ああ。そうするか」

 「レッツゴ―! ゴっちゃん。ク~ちゃん」

 

 と行こうとしたが、俺はまず。


 「ちょっと待って。ごめん。俺、服が欲しいわ。みすぼらしい服しか持ってねえ」


 自分の服が気になった。

 どこに行こうが物乞いの格好のままはいかん。

 人探しには不向きなスタイルだからだ。


 「そうだな。その服じゃな」

 「でも金がねえわ。どうしよう」

 「俺もねえ。仙人の修行って金が無くても出来るからさ。この五年。稼いでねえわ」

 

 俺とゴっちゃんは、無一文コンビだった。


 「うち。お金、あるよ。買ってあげようか」

 「マジで。いいの」

 「うん。ていうかね。全部あげる。これで皆で活動しようよ」

 「いいの? アイちゃんのお金だよ」

 「いい。またみんなで冒険できるなら、うち、お金なんていらない」

 「そっか。わかったよ。じゃあいくらあるんだ」

 「わかんない。今、送金する」

 

 アイちゃんが自分のアイテムボックスにあるお金を俺に全部送って来た。

 その信頼がなんだか痛い。

 友達に全部預けるって、どんだけ俺を信じてるんだ。

 持ち逃げでもしたらどうするんだよ。

 って俺は思いながら確認する。


 「えっと。0が1、10、100・・・・」


 桁が馬鹿多くて、俺の目が点になっていく。


 「3000万だと!? おい。なんだこの金額!」

 「ん! そんなになってんの。うち、知らない」

 「えええ、自分のお金。知らないの」


 お金に興味が無さすぎる。

 自分が働いた金額を覚えていなかったらしい。

 買い物の時とかに見ないんですかね。

 どういう心境なんでしょうか。

 俺は親友の考えが分からなかった。

 

 「うん。宮廷魔法師団のお仕事しかしてなかったからさ。あそこね。ご飯とか寝るのとか。あとそれと、服も支給品だから、タダなんだ。だからお金ってほとんど使った記憶がない」

 「そうか。にしてもこれ、冒険者で言えば、SSクラスだよな。これくらい貯められるのってさ」

 「そうなの?」

 「ああ。個人で言えばだよ。でも、やっぱすげえよな。宮廷魔法師団ってさ。ここまで金持ちになるのか」

 「そうなのかな。あんまりいい所じゃなかったけどね」

 「そうなの。じゃあなんで入ったの?」 

 「なんか。マカさんに聞いたんだ」

 「お。そこでマカさんか」

 「うん。皆と別れて、修行しなきゃって思ったんだけど、魔法使いってどうやって修行するのって思ったんだよ。それで、とりあえず占い師さんの元にいけば修行になるかもって思ってね」

 

 なんでだよ。

 普通に高名な魔法使いの所に弟子入りすればいいじゃん。

 たとえば、冒険者だったら、あの魔法使いクランのハルート魔法団でもいいじゃん。

 と思ったのは黙っておこう。

 まだアイちゃんが話しているのでね。


 「そしたら、たまたまうちが王都の道路を歩いていたら、たまたま路上で占っていたマカさんがいてね。んで、占ってもらったんだ。そしたら、宮廷魔法師団に入りなさいってさ。言われて、試験を受けたんだよ」

 

 なんだかクソ怪しいな。 

 新手の宗教の勧誘か?

 いきなりそこに入れってピンポイントで言うのも変だな。

 それにもう一つ怪しい部分がある。

 王都からマールベンはむっちゃ遠い。

 だから、占いの失敗とかで、いざこざが無いように厄介払いで、ここを紹介されたんじゃないのかと俺は思った。


 「そしたら受かったの。そこからは、マカさんが教えてくれたから。なんか契約金ってのが入ってさ。いくらだったかな。2000万くらいかな。その半分が紹介料だって言われて、マカさんと半分こしたんだ」

 「おい。それが目的だろ。なにしとんだ。アイちゃん!!」

 「え?」


 めちゃくちゃ騙されていた。

 2000万貰って、半分がその人?

 それも嘘だな。

 たぶん、ほとんどの金を奪われたんだと思う。

 だって、宮廷魔法師団で、五年も働いて、3000万しかない。

 手を付けてないって言ってたから、丸々のお金だろう。


 この世界、一年が四百日。

 それで、五年。

 つまりは、二千日で3000万。

 一日あたり1万5千の計算だ。

 これは宮廷魔法師団にしては少ないんじゃないか。

 せめて、その倍は貰わないとおかしい。

 ザっとだけど、半分こを足しても、更に計算が合わねえんだよな。

 5000万以上はアイちゃんが持ってないとおかしい。

 

 「そいつ、仲介人だな。素質のある奴を魔法師団に入れる事に成功したら金だけ手に入れるタイプの人間だ。もしかして、そいつ。アイちゃんの魔力量とか、魔法技術が見れるスキル持ちかもしれないな」

 「え?」

 「占い師ってのは嘘だな。そのマカさんって奴、人を売り買いしている奴だ。マカさんも本名じゃないな」

 「ほんと!?」

 「ああ。間違いねえ」

 「うそ、騙されたの。うち!」

 「うん。そうだな」


 だって、俺が考えた事のある詐欺の手口と同じだもの。

 俺の目も人を見抜ける。

 だからそういうどこかと太いコネがあれば、仲介者なんていうアルバイトで金を稼ぎたかったなと思っていたのだ。

 テキトーな言葉を並べて、テキトーに人を動かす言葉を言えば、出来る職業だ。

 でも、俺がそれをするには致命的な欠陥がある。


 そう、人見知りなのだ。

 知らない人相手に俺が言葉巧みに話せるわけがなかったのだ。


 「そっか。騙されてたんだぁ。ま、いっか」

 「いいのか」

 「うん。だって、ク~ちゃんとゴっちゃんに会えたもん。会えたからチャラ!」

 「ハハハ。そっか」


 そういう子だもんなと思った俺は、アイちゃんの器の大きさに感心した。


 「まあ過ぎた事はしゃあないのさ。アイちゃん!」


 ゴっちゃんも器がデカい。

 というよりも細かい事は気にしない性格である。


 「うん。ゴっちゃん」

 「それじゃあ、俺たちはこっち方向にレッツゴー!」

 「レッツゴ―!!」


 二人が意気込んでいる所、悪いのだが。


 「待ってくれ。まず俺の服からだ、その後にキャンプ用品が必要だ」

 「「あ。そうだった」」


 ノリノリな二人は、ノリノリで俺の言葉を忘れてくれるのであった。


 

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