第6話 大親友のアイヴァン編 ②
お店を後にした直後。
俺たちは通りを三人で歩いた。
「ク~ちゃんを見つけてたんだね。ゴっちゃん」
「ああ。俺が一番最初だった」
「いいなぁ。うちが一番最初になりたかった」
「へへ~ん。いいだろ」
「いいなぁ。負けたぁ」
これはいったい何の勝ち負けになるのだろう。
いつも思うけど、君たちの考えていることがよく分からないです。
「これから、ク~ちゃんと冒険だね。ああ、うち、楽しみだなぁ」
「俺はするって決めてないけどな」
「え!? なんで?」
「今は集まるまでは一緒にいるって話だ。冒険はするって決めてない」
というよりも、約束をしていないんだ。
一緒にいる事も奇跡だと思っていてほしい。
「うそ。なんでよ。いいじゃん。これからも一緒でも」
「俺は解散したつもりなの」
「でも約束したよ。うちらで有名になればいいんでしょ」
「それはお前らだけの約束な」
「違うよ。ク~ちゃんも返事しましたぁ。一緒に冒険するんですぅ」
この会話もゴっちゃんの時と同じことの繰り返しだった。
もしかしたら、俺以外の皆の認識は、俺の返事が約束したとの承諾の返事になっているらしい。
「はぁ。面倒だな」
と俺が頭を抱えると、俺たちの背後から叫び声が聞こえてきた。
「見つけたぞ! アイヴァン」
何だと思って、三人で息ピッタリで後ろを振り返る。
「げっ!?」
アイちゃんが嫌そうな顔をした。
「私から逃げるな。アイヴァン。愛しい婚約者だぞ」
「婚約者じゃないもん。それに逃げたんじゃないもん。うちは、団長の許可を取って辞めたの! こっちに来ないでよ。トイカ」
俺はこの謎の男性が現れたのだが、この人が言っていることで気になった部分があったので、アイちゃんに聞いた。
彼女とコソコソと会話を始める。
「団長って何?」
「ん? うちね。宮廷魔法師団に入ってたの」
「は? それってあの・・・この大陸のあれか?」
「うん。名前知ってるの?」
「ビギーニ魔法師団だろ。お前、入ってたんじゃないのかよ」
「そんな感じの名前だね」
「覚えてろよ」
「団長の名前くらいしか覚えてないんだぁ」
「ええ。いた場所なのに・・・ん、じゃあ。なんであれの名前は憶えているんだよ。トイカだっけ」
「うん。だってあれさぁ・・・」
仲良く俺とアイちゃんが会話をしていると、七色のマントを羽織っている男がプンスカと怒り出した。
「貴様。私のアイヴァンに触れるな」
私の・・・・????
俺がその男とアイちゃんを交互に見る。
「いつから、うち。あんたのものになったのよ。うちはうち。トイカはトイカだもん」
「そうやって私を拒むのだな。本当は好きなくせに」
「嫌いだってば。いい加減付き纏わないで」
「ふふふ。必死に拒否をするフリの君も可愛いんだ・・・ぞ!」
トイカという男。
真面目そうな顔でめちゃくちゃド派手な格好をしたヤバい奴だった。
「うち。いやなの。こいつだけは嫌なの!」
アイちゃんが人に拒否反応を示すのは珍しいと思った。
なぜなら、誰にでも話しかける事が出来るスーパーフレンドリー少女だから、人を毛嫌いするのが珍しいのだ。
「ははは。結婚しよう。アイヴァン」
「嫌。嫌。うちは拒絶する。あんた嫌いだもん。絶対嫌だもん」
「ははは。そうかそうか。そんなに私との結婚が嬉しいのだな」
トイカという男は、ヤバい奴です。
なんでも言葉を正反対に受け止める才能があるらしい。
恍惚な表情になって、喜びで体が震えていた。
こんなに拒絶されているのに、喜ぶなんてドМなのかな。
「どうしよう。ク~ちゃん。助けて。こいつキモイ!」
「たしかに」
俺はついついそんな返事をしてしまっていた。
ここでアイちゃんが俺の手を握る。
彼女の目には涙があった。
女の子にとってだと怖いよなあいつ。寒気がするだろう。
それに、こんな風に親友からお願いされたら、ここは初対面でも立ち向かうしかない。
雑魚な俺がなぜ率先して、俺よりも強い奴の相手をしないといけないのか。
疑問に思っても、ここは友達の為なら一肌脱ぐしかない。
「おいあんた。アイちゃんがこんなに嫌がってんだぞ。やめろよ」
「なんだ貴様は、さっきから私のアイヴァンに触れるな」
「いつからあんたのアイちゃんになったんだ」
「生まれた時からだ!」
そもそも生まれた時は会ってねえだろ。
それに、もしだ。
それが本当だとして、そこから会ってたのだとしたら、俺とも会ってるだろうが。
こちとら、アイちゃんとは子供の頃からの友達だぞ。
だからこの人、ヤバい人です。
「おい。あんた。アイちゃんをこれ以上困らせるなよ。この子はただでさえな。人に変に勘違いされるんだからよ。お前、気持ち悪い勘違いすんじゃねえよ。変態か?」
「勘違いだと。私の愛を、その可愛い姿で必死に受け止めてくれた唯一の女性だぞ。運命の人はアイヴァンなのだ。私は勘違いなどしていない」
「アホ。勘違いしていねえよ。それにお前、どうせさぁ」
スーパー勘違い男トイカには、俺の残酷な推察を話すことにした。
「アイちゃんが、たくさん話しかけてくれたから惚れたとかだろ。あんた、スーパー童貞だろ。恋愛経験なしの!」
「違う。俺は童貞じゃない。違うのだ。アイヴァンは、俺に真実の愛をくれたのだ。そんな事をしてくれたのはアイヴァンだけだ」
俺はド派手な彼を、強がりボーイと名付けた。
「やっぱりな。俺の予想通りだな・・・・ちょっとアイちゃん」
ここで、俺はアイちゃんと二人で再びコソコソと話し出した。
「なに?」
「君ね。色々口で問題を起こしたでしょ。もう、誰彼構わずにね。話しかけちゃいけないのよ。いい! 世の中には変な人がたくさんいるんだよ。あれもその一部。いいかい。だから気をつけないといけないんだよ。勉強になったよね」
「うん」
曇りのない瞳で、素直な返事。
今の俺の言葉も理解していそうな態度。
でも。
「君、全然わかっていないよね」
「う。うん」
アイちゃんは正直者である。
「だよね。ま、いいか。それが君だしね」
「でしょ。やっぱり、ク~ちゃん大好き!」
と言って俺に抱き着いてきた。
陰キャな俺だと、女の子の抱き着き攻撃に動揺する。
なんて周りから思われるだろうが、俺はこれに動揺する事はない。
なぜなら、これはいつものスキンシップだから、俺は全然平気なのだが、相手が全く平気じゃなかった。
強がりボーイトイカは、頭のてっぺんからつま先まで、真っ赤になったのだ。
「き、貴様・・・私のアイヴァンに何をする。離れろ。私のアイヴァンだぞ」
「何をするって? 何もしてねえだろ。むしろ俺がされてるわ。この状況、よく見ろよ! 俺の方がアイちゃんに捕まってるだろうが。俺はなんもしてねえわ。なあ、よく見ろよ。おいいいい!」
この人は自分にとって都合のいい解釈しかしません。
「は、離れろ。う、羨ましい」
なんか突然、本音が出てきた。
アイちゃんの事好きなのに、アイちゃんに触ったことがないんだろうなと思った。
なんだか可哀想な強がりボーイに見えてきた。
「しっしっ。トイカ、もういなくなってよ。うち、ようやくク~ちゃんを見つけたんだもん。これからは冒険するんだから、あんたとはもう会いたくないもん」
「冒険だと。そんな男とか」
「そんな男?」
「そんなみすぼらしい。弱そうな男と一緒にいる事が! 私と結婚するよりも良いってことか。アイヴァン! 情けないぞ」
はい、みすぼらしいです。
今の格好だとそう言われてもおかしくないです。
それと強がりボーイ。
今の君の発言は間違っています。
弱そうな男じゃなくて、実際に弱いんです!
「みすぼらしくて。弱そうだと・・・」
アイちゃんの体から魔力が溢れた。
綺麗な透き通った髪の毛と同じ紫色の魔力だった。
「当り前だろ。私のような素晴らしい魔力を持つ優秀な男と結婚した方が、アイヴァン。君は幸せになるんだ。二人の愛の結晶。私たちの子供だって素晴らしい子になるはず。ほら、私の胸に飛び込んできておくれ」
こいつ。付き合ってもいないのに、もう子供のことを考えていてるのが気持ち悪いけど、そこの一部の考えには、一理ある。
宮廷魔法師団なんて、そんじょそこらの人間が入れるもんじゃないからな。
結婚出来れば、お金持ちコースで、老後なんて安心だ。
「いいかげんにしろよ。この変態キモ男! うちのク~ちゃんまで馬鹿にして・・・許さない。絶対!」
アイちゃんのこめかみの血管が切れそうなくらいに浮かび上がっていた。
詠唱が始まった。
「風は木蔭のそばから始まり、突風となっては林を揺らす。暴風は森を揺らして、最後は山までも動かす。風、風、風。大地を揺らす風は世界を動かす!」
アイちゃんの呪文の詠唱がとんでもなく早かった。
一息で全ての詠唱をしきった。
呪文は高度な物ほど、詠唱が必要。
そして文章が長い物は、高威力だ。
でも文章が長いという事は無防備になりやすい。
しかし、アイちゃんはそもそもが早口。
魔法使いという役職そのものがアイちゃんの天職だろうと俺は思っていた。
「反逆の突風 大嵐の渦巻き」
アイちゃんの前方からとんでもなくうねり散らかした風が巻き起こる。
それが一瞬でトイカの元へとたどり着く。
「ぐおおおおおお。アイヴァン・・・君を愛してる~~~~」
と言って、トイカはお空の星になった。
なんか、俺を馬鹿にした人は皆、俺の仲間たちによって、お空の星になる運命らしいです。
「はぁ。スッキリした! ク~ちゃん。ゴっちゃん。いこ!」
憎き敵をぶっ飛ばしたアイちゃんは、俺たちにだけは微笑みかけてくれた。