第5話 大親友のアイヴァン編 ①
見知らぬおじさんが、お空の星になった後。
「ク~ちゃん。どこ行く?」
「そうだな・・・てかさ。ちょっとごめん。皆がどこで集まるとかさ。ゴっちゃんこそ知らんの? 俺さ、その約束の時にいないから、その時の話がわからないんだけど?」
「・・・ごめん。そこを考えてなかった。五年後、ク~ちゃんに会おうってだけ言って別れた」
「おいいいいい、そこだけは約束しておけよ! 俺抜きで考えていてもさ」
俺の親友たちは計画性がない。
大体がいつもこんな感じで、俺はいつもこれで困っていたりする。
「ごめんごめん。深く考えずに行動してたよ」
「でしょうね。相変わらずだな・・・どうしよう・・・」
俺が空を眺めていると、一つだけ思いついた。
「まあ、そうだな。ひとまず、その髭。剃ろうぜ」
「え?」
「ゴっちゃんの顔さ。今じゃモンスターみたいだもん。とりあえず人になっておこう」
「そうなのか。俺ってモンスターになっちまったのか」
「うん。なんかやべえのよ。とにかく顔が見える部分が目しかないのがいけない。だからまず、人になろう!」
「そうだったか。そうだな。ク~ちゃんが言うなら、そうしよう!」
ゴっちゃんの髭剃りから冒険が始まったのだった。
◇
都市の大通りを歩くと俺たちは一際目立つ。
俺がみすぼらしくて、ゴっちゃんが化け物の見た目だから、人通りがなくなっていくのだ。
さっきまで、すれ違うのにも苦労するくらいに人が多かったのに、今は俺たち二人だけで道路の真ん中を歩けるくらいになった。
「これまずいかもね」
「なにが?」
「俺ら、お店に入れるかな。入れても髭を剃ってもらえるかな」
「なんでそんな心配してんだよ。ク~ちゃん?」
「うん。俺たち。ここじゃ、場違いだもん。この恰好。やべえよ」
ひとまず、どっちかがちゃんとしていたら大丈夫だと思う。
「まずはゴっちゃんの髭だけでも何とかしてもらえれば・・・ピンチな場面だな」
俺よりもまずゴっちゃんだと思って、床屋さんに入っていった。
◇
床屋に入った途端。
最初に接客してくれた人が、「うっ」という声を出した後。
「お客様。今日はどういったご用件で・・・」
髪切る以外にここに来る人いますか?
って言い返したい所だけど、俺たちの事をやんわりと断りたい人だと思った。
こういう時、お店の人とは普通に会話できる。
追い返されるというピンチ状態に入ったから、俺は普通に話し出せた。
俺ってピンチになると何でも出来るタイプの人間らしい。
「この人の髭を剃ってもらいたくて、いいですか?」
「あ・・え? この人・・・人???」
お姉さんは、ゴっちゃんを人として認識していなかった。
俺が使役しているモンスターか何かと見間違えていたようだ。
俺は魔物使いじゃないので、そんな事できません。
いや、もしかしたら俺は魔物使いだったのか。
こいつらって、猛獣みたいなもんだし。
という心の葛藤は表に出さないで言った。
「お金はあります。これくらいで足ります?」
200Gでお願いした。
髪切りが1000Gからだったので、大体これくらいだろうと計算した。
「え。はい。たしかに、髭を剃るだけなら足りますが」
「じゃあ、お願いします」
「わかりました」
俺がお店の席に座って待機していると、ゴっちゃんの隣の席にいる人の会話が聞こえてきた。
お客さんは顔にタオルを置いて、髪の毛を洗ってもらっている所なのに、会話をしていた。
苦しくないのかと思ったが、彼女はへっちゃらなようだ。
「それでね・・・うちね。あの時、あんなことがあってね。あ。お姉さん。今日の晩御飯とか何食べるの」
「そ・・それはですね・・・」
なんだか隣の人と、美容師さんは立場が逆に思えた。
普通こういう時って会話に困るのはお客さんの方だと思ってたから、なんだか美容師さんの方が怒涛の会話に困っている気がした。
「へ~。煮物なんだ。渋いね・・・じゃあさ。あ、最近の流行りって何。コスメのおススメとかある」
「そ・・それは・・・」
お客さんの話がしっちゃかめっちゃかだった。
これは美容師のお姉さんの方が大変だぞ。
会話が飛んでいく方向がむちゃくちゃだ。
一個一個拾い上げるにも反対方向にいかないといけない気分になる。
「ふ~ん。ランドラの化粧品ね・・・後で買おうかな~」
「ええ。良い商品ですよ。三つ隣のお店です」
「ほんと! じゃあ行ってみるね。じゃあ、他にも・・」
せっかくイイ感じで話がまとまりそうだったのに、次の話を畳みかけるように展開されて、お姉さんは困りながら髪を洗っていた。
手が止まりそうなのは、話しかけられているからで、なんだか仕事がしにくそうで、可哀そうにも見えてきた。
その間に、ゴっちゃんの髭が綺麗になっていく。
「あ、あの」
「なんすか」
ゴっちゃんの髭を切ってくれているお姉さんの顔が赤かった。
「お客さん、カッコいいんですね」
「そうかな。普通じゃないかな。髪もぼさぼさになっちまってるしさ」
「いえ。カッコイイです。キャ」
とまあ、ナンパみたいな状態になって腹が立った。
俺は待つ間にストレス値が上がり始めた。
ただでさえ理不尽な約束を取り付けられたのに、なんで俺はモテないんだ。
◇
「どうだ。俺の顔。さっぱりしてあるか?」
「そうだな。良かったな」
「ああ。綺麗になったみたいだぜ」
相変わらずのイケメン。
ゴっちゃんは爽やか系で、めちゃくちゃ明るくて、そして俺に常に優しい人なのだ。
俺なんかが、文句なんて言えないんだよ。
「んじゃ。まずはいくか。探しに行こうか」
「ああ。いこうぜ。ク~ちゃん」
俺たちがお店を出ようとすると、叫び声が聞こえた。
「ク~ちゃんだって!!!!」
俺たちは肩をビクっと揺らして、同時に止まると。
「なんだ?」「え!?」
目の前に髪の毛がまだ濡れている女性が現れた。
「ク~ちゃん。じゃあ、こっちはゴっちゃんだ」
ぴちゃ。ぴちゃ。
紫ロングの髪の毛の先から、水が滴り落ちている。
「だ、誰だよ」
ゴっちゃんが言うと、明るい声が返ってくる。
「うちだよ。うち!」
「そうか。そうか。お前だったのか、なるほどね」
俺は気付いた。道理で話し好きの客だなと思った。
「アイちゃんだな」
「そうだよ~ん。会えた! やったね。占いの通りだった。ありがとマカさん!」
目の前のアイちゃんは、両手を合わせて、誰かに祈りを捧げていた。
「お客様! まだ終わっていません。それに店内が水浸しに~~~」
美容師のお姉さんは泣きそうな顔でこっちに来た。
まだ途中の段階で抜けてきたらしい。
当然だ。髪の毛でも乾かすところだったのだろう。
「ごめんなさいね。うちがやるから、許してね」
「え? な、ななにを?」
アイちゃんの周りに風が起こる。
地面に落ちた水を上に上がらせて、自分の髪の毛の水分も前に送り出して混ぜる。
すると、スイカくらいの水玉が出来上がった。
「ほい!」
と言った彼女は、それを右手の人差し指で消滅させた。
「な!? 何を・・」
美容師さんが驚くと、アイちゃんは答える。
「魔法でぶっ飛ばしたよ。ハハハ」
「え。それじゃあ、私・・・のしごとは・・・・むいみで・・・」
髪を切る以外は魔法で全部解決できる。
一生懸命仕事をやっていたお姉さんが可哀そうだと思った。
一瞬で解決されて心がポキポキと折れたのだろう。
でも安心してくれ。
君は仕事をしたんだ。
この子の会話を聞いてくれただけで、それがもう仕事なんだよ。
とにかくお喋りなの。
アイちゃんは口数がおかしいからね。
「お姉さんありがとうね。髪が綺麗になったよ」
「・・・は、はい」
俺たちは別に探し歩いてもいないのに、一発目のお店で仲間と出会うとは思わなかった。
運がいいのか。悪いのか。
俺たちはこうして再会が出来たのである。