第4話 ゴドウィンがク~ちゃんを好きな理由
俺、ゴドウィン・マーカーがクスネル・シューゲンのことを好きになったのは、ある事件を彼が解決してくれたからだ。
子供の時。
実家がそこそこ金を持っているから、所持金が少しだけある俺は、よく村で食べ歩きをしていた。
俺たちの村は、規模が小さい村だったけど、経済が回っているタイプの村で、冒険者たちが遊びに来ている村だった。
近くにダンジョンが二つあったみたいで、そこにいくために多くが来ていたようだ。
それに伴って、色々な商売人も村に来ていた。
特に、宿周辺や屋台関連は活発だった。
そこで、俺が買い物をしていた時に事件が起きた。
「おい小僧。勝手に商品を食べるな」
お店の焼き鳥を一本。
買って食べていた俺は、屋台のおじさんに文句を言われた。
「金は払ったよ。そこに置いてあるでしょ」
「ん? これはさっきの旦那の金だろ。お前はタダで食おうとしている。金を払っていねえ。俺はもらっていないぞ」
俺が買った後に、デカい体のおじさんが同じ焼き鳥を買っていた。
その人と同じ会計になったみたいだ。
「払ったって。おじさん数を数えてよ。さっきのおじさんの分だけじゃない。俺の分も入っているはずだ」
おじさんがお金をごっそり持っていって、サラッと数えると足りないって言って来た。
もっと良く数えてほしいと思った。
「払ってないのはありえない。俺はそこにお金を置いたんだよ」
「お前の分がたりねえ。いいから払え泥棒小僧。食い逃げで村長に突き出すぞ」
「払ったって言ってんだろ」
「このガキが」
キレたおじさんが、お金をその場に置いて、俺の胸ぐらを掴んできた。
小さかった俺は、とんでもない高さまでつるし上げられたと思った。
「は、離せ・・俺は払ったんだ」
「まだ言うか。このガキ。痛い目に・・・」
とおじさんが俺を殴ろうとしたら、おじさんは止まる。
チラッと下を見ると、おじさんのエプロンが引っ張られていた。
「ん?」
「ちょっと。おっさん」
「誰だ・・・このガキ・・・って、その目で小ささ。例のクスネルか。クソ、めんどくさい奴が来たな」
おじさんの足元にいたのが、ク~ちゃんだった。
眠たそうな顔は、あの頃からずっと同じだ。
「あんた。計算できねえの? 頭悪いのか」
「なんだと!」
「おっさん。あんたの店の焼き鳥一本。いくらよ」
「30Gだ」
「だろ。で、さっきのデブいおっさんが何本買ったのよ」
「8本だ」
「じゃあ、あんたが言っていたとおりにさ。これがおっさんの金だけだったら、一本分の量を多く金取ってんぞ」
「なんだと」
「こいつは、270Gある」
「なに??」
「ほれ」
ク~ちゃんはお金をジャラジャラっと地面に落とした。
そして、一本分の金の所に足を置いて数え始めた。
なぜ足で数えているかと言うと、ク~ちゃんは一本、二本と数えるたびにおっさんの顔を見て、詰め寄る為だった。
「これで九本目だ。おっさんこれはどういうことだ。おっさんが言っていた八本目を超える九本目が出てきたぞ。おい、あんた、さっきのデカいおっさんからでも金を多くとって、ズルでもしてんのか? 普段からズルしようとしてんのか?」
と言ったク~ちゃんは、ガッチリおっさんの顔を見た。
眠たそうな目から鋭い鷹のような目になっていた。
「するわけねえだろ」
「じゃあ、なんで、これ。九本分の金なんだ」
「そ・・それは、その前のお客さんの分でも残ってたんだろ」
「そうか。じゃあ、あそこの裏にある。あの金。全部ひっくり返してもいいか。そんで、あんたが今日作った焼き鳥。何本売ったんだよ」
「な・・・そんな大変な作業。誰がするか」
「おい。全体からでも、数えれば、すぐに分かるんだよ。この子の金を受け取っているってな。めんどくさいなら、俺がやってやろうか。おっさんの注意力がない事を証明してみせよう」
「なんだと」
「おっさん。この子の話を聞いてねえんだよ。だから注意力がない! それとも耳でも遠いのか? そんな歳なのか。あんた」
おじさんはまだ若い方だ。
大体四十歳前後に見える。
だから、凄い挑発だった。
「は?」
「あのデブいおっさんの八本くださいの声の直前くらいに、この子が一本分の焼き鳥を取ったんだよ。そんでおっさんの声と、この子の声が重なった。そしてこの子の方は、お金をそこに置いた。そして、その上にデブいおっさんがお金を置いた。そんでさ。おじさんは焼き鳥八本を袋に詰める作業をしたんだ」
焼き鳥屋のおじさんが、作業中になったから注意力が切れたんだとク~ちゃんが説明してくれた。
「だから、おっさんがちゃんと全部を聞いて、全部をちゃんと見てればよかったんだよ。この子も商品を取って、おじさんの確認をしていないのが、よくないけど。お金を払ってはいるんだ。あんたがちゃんと見てれば、冤罪なんて防げることなんだ。だから、おっさん。帳簿を見せろ。俺がゼロから数えてやるぞ。それで村長にも教えてやるからよ」
差しだせと言わんばかりにク~ちゃんは右手を出した。
「・・・い、いや、いい。そ、村長の話はいい」
「なんでだよ。この子を村長に突き出すんじゃなかったのか」
「いや、いいんだ、もうそいつが払ったってことでいい」
おじさんは投げやりな言い方だった。
「いいや、それじゃあ足りねえ。おっさん。謝れよ。この子、美味しい焼き鳥にお金を払ってんだぞ」
「・・・なんだと」
「当り前だろ。せっかくの焼き鳥をまずい焼き鳥にしてすみませんって言えよ。あんたがいちゃもんつけたから、この子の食べている焼き鳥は、とても後味の悪い美味しくない焼き鳥に変わったんだよ。だから謝るのは当然だろ」
ク~ちゃんの叱責の方法が独特だった。
「すまない。俺が悪かった。君。焼き鳥もう一本でお詫びする」
「う、うん」
「そうだな。おっさん。気をつけろよ。俺は見てるからな」
「・・・くっ。二度と来るな。クスネル」
「色んなことを見てるからな。おっさん!」
と意味深に言ってク~ちゃんは歩いていった。
そして俺は彼の事が気になって焼き鳥をもらった後も追いかけていった。
「君」
「うわ、な・・・なんだ? 誰?」
「ありがとう。君のおかげだ」
「・・え?・・・あ、うん」
急に挙動不審になった。
「どうしたんだ? 君?」
「・・い、いや。なんでも」
ク~ちゃんは人見知りらしい。
あれだけ啖呵を切った会話を繰り広げたというのに、感情が湧いている時以外はオドオドした感じの子だった。
この後も何度も話しかけても、こういった形の会話が続いた。
でも最後に焼き鳥のおじさんの話を聞いた時はしっかり会話をしてくれた。
「あのおっさんさ。ズルしてんの」
「ズル?」
「うん。お金の計算が出来てない人がたまに買い物に来るんだけど、そういう人の時にわざと多く金をとってんだ」
「マジで」
「マジで! でもそんなこといけないじゃん。だから俺がたまにお金の帳尻を合わせてんだ」
「うそ。どうやって」
「俺、あそこの帳簿の近くにある金庫から、金盗んでる。そんで、そこから、お金を払った人に返してるんだ。ちょっと手数料をもらってるけどね」
手数料という名のお仕事代だとク~ちゃんは言っていた。
抜け目のない人だと思った。
「俺、お金をいっぱい貯めてさ。冒険者になりたいんだよね」
「そうなんだ」
「うん。カッコよくない。冒険者ってさ。この村に結構来るじゃん」
楽しそうにしているク~ちゃんは、目を輝かせていた。
感情が入るとすらすらと話せるらしい。
「うん」
「俺も技をいっぱい覚えてさ。ってかさ。俺の役職。なんか盗賊なんだよね。君は?」
「俺はモンクって言われたよ」
「そうなんだ。いいな。俺よりも強そう。まあ、それはいいなと思うだけで、俺はさ。早くに転職できるようにさ。お金を蓄えようと思ってんだよ」
「転職にお金って必要なの?」
「うん。転職するにはお金が必須らしいよ。マージュ教会に行って、転職お願いしますってお布施すると転職ってのが出来るらしい。でも、なんだっけ。何か制約があるってのは話に聞いた」
「誰に聞いたの」
「冒険者の話を盗み聞きした」
「そうなんだ」
く~ちゃんには盗賊が似合うような気がした。
転職するのが勿体ないと思うのは俺だけだった。
「じゃあ、俺。帰るね。バイバイ。君」
「あ、待ってよ。さっきの事。ありがとうね。俺、捕まらないで済んだよ」
「いいって。別にさ。俺は当たり前のことをしただけだからさ。じゃあね」
「あ。君の名前は。俺はゴドウィン!」
「俺。俺はクスネルだよ。それじゃあね」
この後で俺はク~ちゃんと友達になった。
屋台を観察しているク~ちゃんとまた出会ったからだ。
何回か会うと、本来の話し方になって、人見知りの要素が抜けるとよく喋ってくれるいい人だった。
でも、変わっているのは確かだ。
変な正義感があって、善悪を問わない手段を行使するけど、心持ちは善である。
不思議な少年。
それがクスネル・シューゲンという人間なんだ。
だから、実力がないとあるとか。冒険者として弱いとか強いとか。
そんなこと、俺にとっては、クソどうでもいい事なんだ。
とにかく俺はク~ちゃんという人間が好きなんだ。
面白い価値観と、変な癖を楽しんだ方がイイんだぜ。
生き方は間違えていないんだぞ。
ク~ちゃん。